異世界ティーア
「此処は……一体、何処なんだ」
俊弥は辺りを見ながら、遺跡の中を歩いていた。
見た感じ、日本とは違う造りと思われる。
そもそも日本には、この様なドーリア式の柱の建造物自体ない様な気がするのだが。
まさか、違う国や“世界”にでも来てしまったということなのか……。
「……いや、そんな非現実的なことは起こらないはず。きっと外に出れば、一体此処が何処なのか分かる筈だよな」
そう言い聞かせ、歩き始めた。
だが、既に謎の人物に会ったことにより転移したという非現実的な事が起こっているのだが、今の俊弥の頭の中にはすっかり消え去っていた。
俊弥はしきりに見回しながらひたすら歩く。
然しいくら歩いても、出口どころか人一人もいない。
まるで自分以外の人が存在していないのではと思い始めた時、不意に声が聞こえたような気がした。
一度立ち止まり、後ろを見る。
しかし、誰の姿もない。
ほっと胸をなでおろす。
気のせいだと思い、再び歩き始める。
何故ならどんなに歩いていても、この遺跡だと思われる建物の中に人がいる気配がなかったからだ。
しかしそれが気のせいではないと、思い知る事となる。
ーーカツン。
「っ!!」
俊弥は再度立ち止まり、反射的に後ろを振り返る。
……ビー玉が落ちたような音が聞こえたような。
耳を澄ますと小さな音だが、何が歩く音が聞こえる。
そして、何か小さな石ころの様なのが当たる音。
薄暗くて姿は見えないが、その音は少しずつ俊弥に近づいていた。
「っ!! 一体何が、誰が……」
頭の中で過るのは、ゲームや小説によくある人気がない場所でお化けや、ゾンビなどと遭遇するというオカルト系だ。
次第に足音が大きくなるに連れ、俊弥はだんだん顔青ざめてゆく。
そして人のシルエットが見えた時、俊弥は腰を抜かし……
「うわああぁぁぁ!!」
「きゃああぁぁぁ!!」
叫び声を上げた……のだか、俊弥は自分以外の声が聞こえた事に不思議に思った。
しかも女性の声。
もしかして……
俊弥は恐る恐る顔を上げる、そこには……
「ちょっと! 急に叫ばないでよ。びっくりしたじゃない……」
見た目14歳位の、エメラルドグリーン色の髪の毛の少女が立っていた。
「人……?」
俊弥は唖然とする。
先程まで人の気配が全くなかったというのに、見知らぬ少女が今目の前に現れたことを。
「まるで私が人間ではないような、言い方しないで!!」
俊弥が不意に漏らしてしまった言葉で、少女は苛立ったような口調になる。
眉間にしわを寄せ、ムスッと俊弥を見下ろす。
「ごっ! ごめんっ!!」
咄嗟に少女に謝る。
すると、少女はうっすらと笑みを浮かべた。
「別にいいわ。私も声荒げてごめん…。
それに、私は…貴方を探していたの」
「え……俺を」
その時、俊弥は違和感を覚えた。
いや…それはおかしくないか。
俺はこの少女とは初対面の筈だ。
俊弥の疑問は間違ってはいない。
確かにこの少女とは、初対面だ。
特徴的なエメラルドグリーン色の髪の毛。
例え辺りが真っ暗な夜中だったとしても、その髪が隠れていなければこの特徴的な髪の色を覚えているはずだ。
だがもしかしたら、この少女がもしあの時の……
「ようこそ、異世界ティーアへ!」
あの時の、シルクハットの人物だったのなら……
この少女が俊弥の事を知っていても、不思議ではないのだろうか。