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修行2

 う、……これは、やばい……って。


 今現在、俊弥は腰にロープを巻き、タイヤに似たような重りをつけて走るということだ。

見た目以上に重いそれは、高校では帰宅部であった俊弥は少し走った程度ですぐへばってしまう程だ。

 ……いや、運動部でもへばる重さじゃないのか?


「てかっ!!なんでこれをつけて走るんだよ!!」


 今更ながら、レドに抗議し始める。


「……お前はどの様な剣を使うのかは知らんが、多少足腰強くしておいたほうがいい」


 相変わらず本を読みながらそう言う。


「足腰を強く?……じゃあ、今やっているこれは効果あるんだな」

「……知らん」

「はぁーーーー!?」


 なら、何のためにやっていたのだ。

 俊弥の頭の中では、一体レドは確証のないことを何故やらせてるんだという思いでいっぱいだ。


「……ちっ、こっちに来い」

「え……」


 突然のことに身構えてしまう。

だが、ここで立ち止まっていても仕方ない。

 腰に巻いていたロープを外し、レドの元へ向かう。

 するとレドは、手を俊弥へ差し出した。

だが、手には何もない。

 俊弥は首を傾げる。


 一体何をしたいんだ?もしかして、手を取れということなのか?


 俊弥がそう感じたとき、レドの手に突如碧い光が現れる。

 触れてもいないのに暖かい。

 すうっと光が消え去ると、先程まで無かったものがレドの手に存在していた。


「……えっと、これを一体何に」


 レドの手には一本の剣。

あの時こうして剣を出したのだろうか。

 だが、今目の前にあるのはあの時とは別の剣。


「一回木に向かって攻撃してみろ」

「攻撃?」


 攻撃したところで、一体何がわかるのか。

それより、まさか木が切れたりしないよな。

 俊弥は何やら懸念を抱きながら、剣を受け取る。

ーーが


「!?」


 突如ズシッと重みがかかる。

慌てて手に力を込める。

 俊弥が持っていた剣と、見た目はそんなには変わらない。

だが、明らかに重みが違う。

 手から力を抜いてしまえば、きっと手から剣が離れてしまう。


「……どうした。早くやれ」

「わっ、分かってるって」


 まるで、かなりの重量がある鉄アレイを持っているようだ。

 歩くたびにズシッと重みがかかる。

 もちろん、手や腕にも負担がかかる。

 だが俊弥は柄をグッと力強く握り、素振りの時と同じように勢いよく剣を横に振る。


「えっ!?」


 が、そこまで深く剣が入らない。

いやそれより、刃先の方が何かに引っかかり抜けない。

 なんとか、力を込め引き抜く。

 だけど俊弥には驚きを隠せなかった。

明らかに今までとは違う。

今までなら剣を振り回す事が出来たはず。

 だがレドから受け取った剣は重く、振り回すことが出来ない。

 剣に遊ばれているようだ。

 手のひらがジンジンと軽く痛む。

このまま扱えば、きっとマメが出来るだろう。


「……お前はこの剣を使ってみてどう思った」

「それは……。俺が使っていた剣より重く、全然扱うことが出来ない」

「だろうな」

「え?」


 レドの言葉に喫驚する。


「お前が今まで使っていた剣は、耐久性が殆どない。……むしろ今まで普通に使っていた方が不思議だ」

「もしかして、耐久性がないから……軽かった?」


 俊弥が今まで使っていた剣は、ゲームでいうと初期装備。

もちろん初期装備で敵と戦うなんて無謀だ。

序盤ではなんとか敵を蹴散らすことは、まだ出来る。

 しかし、次第にそのステージではザコ敵だとしても倒すのに時間がかかってくる。

その敵のレベルを一回り……二回り程上回るか、勝つための技量や手腕が重要となる。

 だが、今の俊弥には上記の二つは持っていない。

もしかすると、レベルやステータスも上がっていない可能性もある。

 この世界にレベルだとかステータスだという概念があるのか分からないが、だとしても今やることはレベル上げやステータスの上昇を試みることだ。


「剣の重さって、これが一般的?」

「……どうだかな。材料によっては耐久性が高くても軽い武器がある」

「……それなら軽い方がいいなぁ」


 剣を持つ。

そして振り回そうとするが、グキッと肩が逝きそうになる。

 これは軽い方でないと実践では使い物にならない。

だからといって、体力もつけなくてはいけない。

 剣を持ったことにより、腕力も今以上に必要だと痛感した。

 素振りや腹筋、腕立て伏せ等の基礎体力をつけることもしなくてはいけないが、それより今はこの剣の扱いに慣れたい。

 そんな時、ルドガーがやって来た。


「レド、ちょっといいかな?」


 レドに手招きする。

 何か用事があるようだ。

 レドはため息をすると、ルドガーの方へと歩いていった。


「ちょっとごめんね、一時的にレド借りていくね」

「うん、分かった」


 一人残される俊弥。

ただ何もせずに待っていても仕方ない。

試しにもう一度、木に向かって剣を横に振る。

 今度は引っかからずに振り切る。


「……浅い」


 何度も何度も繰り返すが、切り込みは浅い。

大袈裟かもしれないが、深くても一ミリ程度しか切れていない気がする。

 やがて俊弥は力尽き、ぐったりと地面へ伏せた。


「うー、上手くいかないなぁ」


 このまま上手く扱うことが出来ないとなれば、気が重い。

人間すぐ上達しないと分かっていても、ネガティブ思考へ陥ってしまう。


「……もしかして、気の迷いとか?

なら、この木よりも太い樹木とかでやれば」


 ガバっと起き上がり、周りを見る。

どれも大きさはあるが、俊弥の頭に浮かんでいる木よりも細い。

 チラッと森の奥の方を見る。

もしかすると、奥の方にはあるのかもしれない。

 俊弥はそろりそろりと、森の奥の方へ進んでいった。



「……用って、これかよ」

「だって、レドはほったらかすでしょ」

「…………」


 レドは何とも言えない表情で、ルドガーを見る。

流石医師である為か、包帯を巻く手際が良い。


「でもさ、古傷開かなくて良かったよ。もし開いていたら、危なかったんだよ」


 新しい傷のすぐ横の大きな傷。

今はかなり薄くなっているが、あの時と同じように肩から横腹まで切られたような傷だ。

 いつの傷かは分からない。

記憶がある四年前には、既に存在していた傷だ。


「はい、終わり。傷がまだ痛むようなら言ってね」

「……ああ」


 いつもならそそくさと行ってしまうレド。

だが動かないレドを見て、ルドガーは不思議がる。


「ん?どうかしたの?」

「……いや、アイツは」


 レドの一言に、首を傾げるルドガー。


「あー、もしかしてシャルルのこと?

シャルルなら、部屋に戻っていると思うけど」


 しかし、レドが言いたいことはそうではなかった。


「……アイツ、本当に“子供”なのか?」


 突然の言動に、ルドガーは目を見開く。


「え?」

「……いや、今のは聞かなかったことにしてくれ」


 どういう事なのかと聞く前に、レドはスっと席を離れ玄関の方へと行ってしまった。


「ちょっとレドっ!!」


 パタンと扉は閉められた。


「……今の言葉は、どういう意味、なの……」


 ルドガーの言葉に、答える者はいなかった。



「私、どうすればいいの?」


 ベットの上で、ちょこんと座っているシャルル。

そして窓を見る。


「俊弥は私を外に連れ出してくれた。レドにも会えた。でも、私はいつも誰かに貰ってばかりで、あげられない。守られているばかりで、守ることが出来ない。……どうすればいいの?」


 グスッと涙を溢す。


「うっ……このままじゃダメなのっ。何かしら行動しないと、何も変わらないのっ!」


 頬をぱんっと叩き、意気込む。


「すぐには無理かもしれないの。

でも、私だって誰かを守れるようにならなくちゃ」


 すると、シャルルは勢いよく扉を開け、部屋を後にした。


「“あの人との約束を叶える為”にも、私は一人でも大丈夫になれるように強くならなくちゃ」



「……?」


 レドじゃ立ち止まる。

先程までこの場所に俊弥がいたはずだ。

 周りを見る。

だが、一切人の気配が感じられない。

感じるとすれば……


「ちっ……アイツ、何勝手な行動を」


 レドはまるで何もかも分かっているかのように、俊弥と同じように森の奥へと足を踏み入れた。



「はあっ!」


 剣を振り下ろす。

浅い、そしてまたもや木の皮に引っかかる。


「やっぱりそう簡単に上手くいかないか」


 肩をガックリと落とす。

 何度か繰り返すつれに深くなってはきているが、気を抜くとまた振り出しへ戻ってしまう。


「もう一度っ!」


 俊弥が現在いる場所は、いつもの場所より少し奥の方。

散策していると、まるで何千年前からもあるような大きな樹木を見つけた。

 この大きさ、太さなら簡単には倒れないと確信し、先程から勢いよく剣を振り下ろしていた。

 樹木に攻撃を与えることに夢中になっていた俊弥は、突如思い出す。


「あっそういえばレドに何も言わずにっ……!!今から帰れば平気……かな」


 そう、俊弥はレドに黙ってここまで来てしまった。

もし、既に戻っているとすればただ叱責されるだけでは済まない……はずだ。

 なら一刻も早く戻らなくては。

俊弥が足を進めようとした、そんな時。

 ガサガサっと草が揺れる。

俊弥はピタッと止まり、後ろを振り向く。

 ーー何も、無い。

 俊弥はホッとした様子で歩き始めた時ーー


「何っ!!」


 草むらから勢いよく出てきた獣が、俊弥に襲いかかってきた。

その獣は一見熊のようだが、黒い毛並みに赤色の爪に目、そして角を至るところから生やしている。

 これはどう見ても、ただの獣じゃないっ!!

 俊弥は獣から距離を取る。

 獣は低い唸り声を上げ、ゆっくりゆっくり俊弥へ近づく。

そして、獲物として見定めている。


「くそっここは俺一人で切り抜かないと」


 意を決して、剣を構える。

 こんなにも早く実践をするとは思ってもいなかったが、ここは仕方がない。

そもそも俊弥が一人で来なければ、起こらなかった事だから。


「はあっ!」


 斬りかかる。

しかし、見た目とは裏腹に俊敏な動きをする獣。

 一方の俊弥は、まるで己の剣に遊ばれている様にもたもたとしている。

振り回すどころか、自分自身振り回されている。

 まるで犬の散歩している時、犬ではなく人間自身が散歩されているかの様な、あの感じだ。


 グゥゥゥ……ガルル…………。


 低い唸り声。

威嚇だ。

 俊弥は後ずさりする。

 このまま真正面から攻撃しても、きっとまともに斬りかかることさえ出来ないだろう。

 どうするべきなのか……。

ここは風の剣を使うべきなのか……。

 この現状を乗り越える術を考えていた。

だが、それは仇となる。


「しまっ!!」


 考え事に夢中になり過ぎだのだ。

 獣は、今だというように俊弥へ襲いかかる。

 俊弥より高い体長。

覆い被されたら、為す術もない。


「迷っている暇はないっ!」


 動きがかなり鈍くなる可能性もある。

だが、このままでは殺られてしまう。

 俊弥は剣に力を込めーー


「風のーーーー」


 ザシュッ!!


 その音と同時に、獣の首元から赤い液体が吹き出す。

まるでそれは花弁の様に、空気中に舞っていた。


「ーーーーえ」


 獣はゆっくりと後ろへ倒れていく。

首元にキラリっと光る黒い剣。


「……レドっ」

「……お前は一体何してんだっ」


 獣を倒したのはレドだ。

まるで空気中に溶けるかのように剣が消え去ると、俊弥へ掴みかかった。


「だからお前は何してんだ、死にてぇのか!?」

「……ごっ……ごめん」


 俊弥は謝っても、レドの怒りが消えないことを分かっている。

 けれど今の現状を生み出したのは俊弥自身だ。

だがレドは目を伏せると、俊弥からスっと手を離した。


「……まあいい。どうせ剣の扱いに慣れようとしてたんだろ」


 俊弥はビクッと反応する。

 その反応を見ると、レドはやはりそうかと言葉を漏らす。


「別に今は、誰かを傷つけるような事をしなければ好きなように扱えばいい。

だが、警戒心を持て。さもなければ今のように襲われるからな」

「レドっ……」


 まるで無関心かのように振舞っているが、俊弥の事を心配している気持ちがあるということは、言動から読み取れた。

 俊弥は笑みを浮かべると、レドはよく分からない表情をみせる。


「……何か、嬉しいことでもあるのか?」

「まあ、ちょっと」


 ザァァァと風が吹き抜ける。

 ふと、顔を風が吹いてきた方向へ向ける。

 すると、花弁が俊弥の横を通り抜けた。


 あれ?花弁?


「なあ、レド。あっちに花でも咲いているのか?」

「……湖の近くに咲いている」

「ちょっと行ってみよう!」

「は?」


 俊弥はレドの腕を掴み、走る。

 何故だが分からない。

けれど行ってみればきっと分かる筈なんだ。

何か思い出せそうな……そんな気がするんだ。

 森を抜ける。

 するとーー

ブワッと花弁が舞い散る。

 まるで花吹雪のようだ。

 そこにはごく普通の湖。

だが水は、まるでそこに存在していないかのように透明に透き通っていて、そのすぐ近くには一面に広がる花畑。


「綺麗」


 俊弥は言葉を漏らす。

しかし、同時に何か違和感を感じる。


 なんだろう?

…………懐かしい?


 そう思いながらも、花畑に歩み寄り花を眺めた。

 水色やピンク等の色鮮やかな花々。

その花はとても綺麗で、日の明かりできらきらと輝いて見える。


「なあ、レド。この花の名前は?」


 まるで花を撫でるような手つきで、そう尋ねる。


「……クロッカス」

「……え?」


 やはり何か違和感を覚える。

クロッカスとは漫画やゲームとかでも登場する言葉だが、それで違和感を覚えたのではない。

 かなり前にこのような場所で、その言葉を聞いた気がする。

 ……そう、まるでレドの様な人に。

 俊弥は花を見ているレドを見る。

 レドもシャルルもルドガーも、どこかで会ったことはあるんだろうか。

 すると突如頭の中でノイズが走る。

 何か思い出せそうなのに、思い出せない。


「なあっーー」

「……ん?」


 俊弥はこの違和感の正体を確認しようと口を開きかけるが、言葉は出なかった。

 未だに俊弥の頭の中でノイズが走る。

だがそのノイズの中、一瞬今のレドと一致する映像が頭の中で広がった。


 駄目だっ……これ以上はっ!!


 本能がそう告げている。

これ以上はダメだと。

何か思い出してしまえば、何かが終わってしまう。

 確証なんかない。

ただ、そう告げられているんだ。


「……いや、何でもない、よ」


 そう言う俊弥の顔を、レドは不思議そうに眺めていた。


 駄目だ、壊したら……全てを壊したら駄目なんだ。

約束が…………


 あれ?


 そこまで言葉が浮かんだが、一体何のことなのか理解出来ずにいた。

 でも、胸がザワつく。

 確かに忘れていることがある。

けれど、それを思い出そうとすれば何かが阻める。

 だが、確かに何かを感じた。

……感じたんだ。


「もう、帰ろうか」

「……そうだな」


 俊弥が持っていた剣は、碧く光輝き空気中に溶けるかのように消えていった。

 その様子が、まるで自分自身かのように感じた。


『ーー忘れないで、あの××を』


 ふと思い出すあの言葉。

 昔、誰かにそう言われた、そんな気がした。



「レド?どうしたの?」

「……何でもねえよ」


 シャルルはソファーで不機嫌そうに座っているレドの事を気にかけていた。


「俊弥は、剣の扱いに慣れてきたのかな?」

「いや、まだまだだよ」


 ルドガーにそう話す。

正直まだ始めたばかりであり、逆に剣に振り回されている感じだ。

 剣道の竹刀とは全く違う剣。

これは、慣れるのにかなりの時間を費やしそうだ。

 剣の扱いは一朝一夕には上達しない。

 実践を積めば上達も早くなるのかも知れないが、それでも今日遭遇してしまった獣を倒すどころか、攻撃を与えることが出来なかった。

 やはり、まずは基礎体力をつけるしか手立てはないのかもしれない。

そう、焦っていても仕方がない。

ここはじっくり基礎を積み上げなくては。

 俊弥はそう心に誓った。


 ーーーーのだが。



「え……と」


 俊弥は今の状況を理解出来ずにいた。

剣を構えているのは別にいいのだが、問題は俊弥の前に木刀を持っているレドのことだ。

 昨日は特に何も言われてなく、いつも通り基礎体力を付けようとしてたが、突然……手合わせということをするらしい。


「レドさ、傷開くんじゃ……」

「完治している」

「へぇ!?」


 まだそんなに月日は経っていない。

そんなにすぐあの深い傷が完治するのか、俊弥は不思議でたまらなかった。


「お前知らんのか?色を持つ者は、普通の人間とは違い治癒力が高いんだ。それから身体能力もな」

「え、そうだったのか?」


 よくよく考えれば、色を持つ者のことは蔑まされていることくらいしか知らない。

だが、本当に治癒力が高いのなら三日で退院したことも頷ける。


「…………まあ俺は半端者だから、普通の色を持つ者との力の差は歴然らしいな」

「そんなに変わるのか?」

「……さあな。……それより、ちゃんと構えろ」


 レドにそう言われ構えるが、手合わせしたところで適うはずがない。

 剣は真剣ではなく、木刀の中に切れ味のない鉄の剣が入っているものだ。

ただ重いだけで、殺傷能力がない。

だが、鈍器としては使えそうだ。


「言っておくが、俺は攻撃を受け流すことくらいしかしねぇ。だが、隙が大きい場合は……何かするかもな」

「え……えぇ!?」


 何かするって、一体どんなことなんだよ。


 そう言われると、ますます腰が引ける。

 相手は一応、怪我の心配がある。

 それからかなり強い。

 結果は一目瞭然だが、俊弥はやるしかないと覚悟を決めた。


「はぁっ!」


 加速し、真正面から攻撃を繰り出す。

だが、案の定受け止められてしまう。

 しかし、俊弥には考えがあった。

最初は真正面から突撃し、その後勢いよく横へ剣を振る。

 もしかしたら、レドが持っている木刀を弾き飛ばすとまではいかなくても、何かしら隙が出来るのかもしれないと俊弥は考えたのだ。

 けれど成功する確率はかなり低い。

いや、もしかしたら皆無かもしれない。

だが、渾身の力を込め剣を勢いよく横へスライドさせるかの様に振った。


 っ重い!?


 やはり、重さで剣を思うように振る事が出来ない。

確かに勢いつけた筈、なのに力が入らない。

 そんなことに唖然としている俊弥に、レドは蹴りを入れた。

 突如腹部に走る鈍痛。

 俊弥は膝から倒れるかのように蹲った。


「いっ!いってぇ!!」

「戦闘中に考え事とは、随分余裕があるんだな」


 見下ろすかのように、俊弥を見ているレド。


「いや、確かに考え事がしていたが、今のは反則じゃ?」

「実践は、相手がただ一つの武器のみで戦うわけではない。体術使ってくる奴もいれば、別の武器を使う者。あるいは魔術を使う者もいる」

「……何が起こるのか、分からないといいうわけか」


 勝つ為には、どんな手段も選ばない者もいるということだ。

 誰しも真正面から、正々堂々と戦うわけではないのだろう。


「……だけど、まだまだ実践は無理だよな」


 そう、うなだれていると……


「…………いや」


 何やらレドは言い難い様子だ。

珍しく目を泳がせ、汗が頬に伝う。


「どうしたんだ?何かあった……?」

「……」



 レドの口から信じられない事を耳にした俊弥は、ルドガーの元へ押しかけた。

 そのルドガーは、リビングで医学書を読んでいた。


「ん?どうかした? 俊弥」

「いや、それよりどういう事なんだっ!俺が依頼を受けるってこと!!

てか依頼するのならまだしも、受けたのはスフィラの外って!!」


 レドの口から聞かされたのはルドガーが俊弥にと、依頼を受理してきたということ。

 この比較的安全な場所から外に出るということは、魔物に遭遇する危険性もある。

それは昨日の獣の比にならない位の強さだろう。

 昨夜、まだ剣の扱いに慣れていない。

そう言ったというのに、まさかこの様なことをするとは思ってもいなかったのだ。

 それからまだ、俊弥は自分の剣を持っていない。

前に使っていたものは破壊され、この間から使っているものは全てレドから借りている物。


「だって、俊弥まだ扱いに慣れていないんでしょ。

それに、もう受理しちゃったしね。

俊弥のギルドカードで」


 ルドガーの手にはシルバー色のギルドカード。

そこには“シュンヤ”と書かれている。


 あれ?片仮名表記?


 そう不思議に思いながらギルドカードを受け取るが、俊弥はモゴモゴと言葉を濁す。


「そう、だけど……」

「なら、実践積んだほうがいいよ。実際僕の初めての戦闘は、実践だったからね。

練習無しの一発勝負。あ、でも今回は薬草採取だし実践はないかな?」


 俊弥は驚愕する。

 ルドガーは医者。

俊弥もそれを分かっている。

が、次元が違いすぎる。

 そして、胸の内には本当にただの医者なのかと疑いの念が渦巻く。

 けれど、初めて会った時の事を考えれば、本当に実践を積み上達したのだろうか。

 俊弥はうーんと悩む。

剣呑な思いがある為か、決断なんて出来なかった。

 既に受理されているとしてもだ。

 まだ満足に攻撃することさえも出来ないというのに、自分の身を守ることさえも出来ない気がする。


「だとしても、俺はーー」


 俊弥の言葉は、突如遮られる。


「大丈夫。もし何かあればレドが一緒に戦ってくれるし、僕もシャルルも同行するから」


 それなら安心と、心の中で納得してしまった。


「確かに、レドと一緒なら大丈夫だな」


 そう言うと、明らかにレドは不機嫌になる。

 眉間に皺を寄せ、刺すような目つきでルドガーに言う。


「俺は行くとは言ってない」

「だとしても、連れて行くよ」

「…………」


 レドはため息をつく。

どうやら早々に諦めたようだ。

 そして「……出かけてくる」と一言残し、出て行った。


「で、いつ行く?」

「え……いつと言っても……」


 行くことを決めたが、やはり不安だ。

あまりの緊張で、胃がキリキリと痛みそうだ。


「……明後日でも、いいか?」


 出来るだけ早く行く方がいいのだろう。

だからといい、すぐ明日というのは心の準備が出来ない。

なので、俊弥は明後日いくと決断した。


「うん、いいよ。まあ、とにかくそんなに肩に力入れなくていいと思うけど」


 ルドガーはクスリと、微笑を浮かべた。


「う、うん」


 ぎこちない俊弥をみて、ルドガーは若干心配になってきた。


 でもまあレドがいるし、いざとなれば僕が間に入ればいいかな。


 そして、ルドガーは医学書に目を通し始めた。



「これ、読んだことある。なら、使えるかな。


 シャルルは、昨日から一人書斎へと足を運んでいた。

 書斎には様々な種類の本があり、しかもその量は膨大だ。

 自室の四部屋分くらいは余裕にありそうなほどの広さに、かなりの量の本棚が存在している。

 その丁度真ん中の一番奥にはテーブルとソファーがあり、そこにシャルルはいた。

 上から明かりが射し込み、一見薄暗く見えるがそうでもなかった。

 シャルルはテーブルに広げた様々な本を見る。

その本は全て魔術関連のもの。

 そう、シャルルじゃ魔術を扱えれるのであれば、俊弥やルドガー、そしてレドの手助けが出来るのではないかと考えたのだ。

 その為、魔術関連の本を読み漁っている。

中には読んだこともあり、既に暗記してあるものもある。

 けれど、どんなに知識があろうとしても、問題は使いこなせるかどうかだ。

 今まで覚えている限り、シャルルは一回も魔術を使ったことがない。

だから、使えるかは分からない。


「でも、俊弥だって頑張ってる。私だって頑張らないといけないのっ!」


 そして、シャルルはまた本に目を通したのであった。

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