国家第一級犯罪者
新たなプロローグみたいなものですので今回は短めです。
同時投稿してある番外編の方からお読みください。
ローレンスはスプリング大陸に戻った直後、ゼニスから連絡を受けていた。
ただし直接会っているのではなく、魔力で形作った鴉を使って遠方にいる相手と会話する魔法によってだ。この魔法は以前ローレンスが使っていたものと同じである。
「なんだと? それは本当なのか?」
「間違いない。魔力の捕食……あれは『白の本』が己の生命を維持する為の副次効果だ。間違いなく『白の本』はタクティスの中に紛れ込んでいる」
「何が紛れ込んでいるだ! 思いっきり寄生されてるの間違いだろうが! ……くそっ、もしもタクティスに魔力があったら死んでたじゃねーか」
アストラル魔法図書館の地下にある禁書庫には盗難防止用の魔法は掛けていない。その理由は他の魔導書に余計な刺激を与えない為なのであるが、他の本から離れた場所に安置されていた『白の本』だけは異なる理由が存在する。
『白の本』には他の魔導書と違って自我がある。そしてこの『白の本』には己に掛けられた魔法を魔力に変えて吸収するという特殊な効果が宿っていた。故に、魔法を掛けるだけ無駄であったのだ。
しかも『白の本』は所有者となった者から魔力を無制限に吸い取るという厄介な性質を持っていた。そうなると所有者は魔力があっという間に枯渇してしまうのだ。魔力の枯渇状態が長時間続く事は死に繋がる。これこそ『白の本』が『誰にでも所持できるが誰も所有できない』と言われる由縁であった。
「盗んだ犯人の魔力を得て、『白の本』が覚醒していたのは予想できた。だからこれ以上奴に魔力を与えないようタクティスを動かしたのだが……まさかタクティスを宿主にするとは考えもしなかった。すまない、ローレンス」
「それは仕方ねーよゼニス。いくら自我があるとはいえ、魔導書が人間に寄生するなんて話は前代未聞だしな。むしろヤバイのはここからだ。タクティスが奴に何を願うのかが問題だ」
「……やはり、彼を捕らえるしかないか。あの力は個人が持つには大きすぎる力だ。放っておく事はできない」
「俺もそうした方が良いと思う。あいつは俺の息子だからこそ何やらかすか分からねぇ」
ゼニスはローレンスのその言葉に実に迷惑そうな顔を作った。恐らく目の前にローレンスがいたなら殴っていただろう。それほどローレンスはこれまでに碌でもないことをやってきた。結果的にそれらが英雄譚となったのも、裏方がきちんと後始末をしてくれていたからだ。
本当に厄介な親子だ、と内心で毒を吐きながらゼニスは通話の魔法を切った。
一方ローレンスの方もゼニスに対して舌打ちをしていた。
「けっ……一々説明が回りくどいんだよ。何が『個人が持つには大きすぎる力だ』……だ! はっきり言いやがれってんだ。『タクティスに持たせるには危険すぎる力だ』ってな」
『白の本』は良くも悪くも所有者の願いを魔法に変えるだけ。それも基本的にその力は一度きりだ……というのはあくまで伝承なので当てにはできないが。
だが人は突然何かを願えと言われても、大抵はありふれた願いしか思いつかない。「大金が欲しい」とか「恋人が欲しい」なんてありふている願いでは『白の本』も大した魔法を与えはしないだろう。だからこそ『白の本』が他の人間であったならそこまで危険視する必要も無いのだ。
しかし相手は魔力の貯蔵庫を持たない『無能』である。魔力の枯渇で『白の本』を手放すことはない。そしてなによりも相手はあのタクティスである。絶対に願いなどに頼らないであろうことは、ローレンスにとって容易に想像できることだった。
つまり、今の『白の本』の所有者は魔力枯渇で自動的に死ぬ事はなく、『願い事』を所持したままの状態だということだ。
「もしも、“魔力の必要ない魔法”なんて卑怯な代物があいつに発現したら、どんなことになるのか想像つかねーぞ」
***************
アストラル城にて開かれる『賢者議会』では、ゼニスによって報告された『白の本』のことで一騒動になっていた。
この場にいる者達は賢者と呼ばれる、上級魔術師よりも上の階級に位置する優秀な魔術師である。そしてその中にはかつての竜王戦争に参加していた者も混じっている。ゼニスもまたその一人だ。
「どういうことじゃゼニス! 『白の本』を無事回収できたと思えば、次はその魔力を持たぬ者が『白の本』を取り込んだだと!?」
「……ふむ。しかし相手は子供だろう。それほど危険視することもないのでは?」
「しかし魔力を持たぬ者と言えばあのローレンスの息子であろう? 彼は学院で『無能』呼ばわりされているようだし、さぞこの国に恨みを持っているだろうな?」
ゼニスは周りの意見を聞いていて思わず顔を顰めていた。
議会の話し合いが『白の本の対処』から徐々に『タクティスの処遇』に移り変わっている。しかも、タクティスについて殆どが悪印象を持ち合わせていた。その中の賢者の一人がふとゼニスに問いかけてくる。
「ゼニスよ。件の少年はローレンスが捕まえたという報告を受け取ったが、お前はその少年をどうするべきだと思う?」
「今は……どうやって『白の本』を彼から取り出すか。それを考えるべきだ。彼のことはその後でも構わないだろう」
「いや、私はそうは思わん。禁書指定されている魔導書を持った者は子供であれど兵器と同じ。それが『白の本』という古代魔導書ならば尚更だ。私は早急に少年に何らかの対策をするべきだと考える。だからこそゼニス、お前なら少年にどのような対処をするのか問うているのだ」
その賢者の発言は間違いなく正論であった。禁書指定されている魔導書はどれも竜王戦争において重宝された強力な魔法が宿っている。ならばそれらを行使できる魔導書使いは、たとえ子供であっても国を脅かす存在に十分なりえるだろう。
しかし、危険であるのはあくまで魔導書だけであって、それを使う者はただの人だ。つまり早い話、魔導書を所有する者を始末してしまえば、魔導書が発動する危険性はなくなる。
「だが……! やはり相手は子供だ。その未来を奪う権利など、我々にはない!」
「違うな、ゼニスよ。それでも貴様は『大賢者の相棒』か? 見るべき物を見誤るな。たった一人の子供の為に、この国は危機に脅かされているのだぞ? 一の為に全を危機に晒すなど、我々国を守る賢者の行うことではない」
「……くっ!」
そんなことは分かっている。だがゼニスにとってタクティスは親友の息子であり、大切な学徒の一人だ。普段は無表情であるが、その裏側では常に学徒達を大切に思っているゼニスには、その決断はできない。
しかしゼニス一人の意見では、議会の流れを変えることなどできる筈もなかった。
冷酷なまでに、あっさりと判決は下される。
「禁書指定『白の本』を持ち出した罪により、件の少年――タクティス・ストレンジを国家第一級犯罪者とする!」
少年の知らない所で、途方もなく理不尽な「現実」が鋭い牙を剥き出した。
次回、「それぞれの意思、理解されない思い」。
いっきに物語は加速します。(更新は遅く)ボソリ




