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一+七=弋  ~誰かと帰る、誰もいないパレードの痕~

これにて、終了です。

 誰かいるの? …誰か……僕の中に…あなたの中に…。

 いたとしたら、其れはダレ…? 覚えてないんだ…何もかも。

 すべて鮮明だったはずなのに、からっきしに朧げで…儚くて…。

 まるで全部、唯の正夢だったみたいに。

 

 

 

 貴方は黙って誰って問い掛ければ、貴方こそダレって木霊した。

 返ってくるのは、鮮血、なぜ鮮血?

 赤い純粋な液体は、私の前を滴り落ちてゆく、清々しい程に。

 まるで、耽々と淡淡と山の麓に流れていく清流が奏でるセレナーデの様に。

 私の気持ちは穏やかだ…今はもう、全て過去の理想郷であり…今の名残。

 

 


 

 メリーシープゴーランドから二人、地に足を着けた、あれからの彼は。

 私が目に見たとおり、血に染まり、明るい月明かりに照らされて絶倒した。

 絶倒した後の彼の背後に突如、現れた新たな彼は、キザに口角を上げて

 不気味な忍び笑いを漏らして、手に持った刃物を眺め、そのまま闇に霧散した。

 一体、彼はなんだったのだろうか、彼の分身か、どうか。

 それはそうと、繋がってはいるのだけど、私の中ではどこか途切れている。


 ―今日は彼のお葬式だ。


 あれから私は、街灯を浴びながら鮮血に染まっている彼を見ながら

 どこか恍惚の表情を頬に刻み込めながら、うっとりと凝視してしまっていた。

 滅びは、美しく、消えるは、大切だと私はその時、身に染みてしまっていた。

 後悔で体を満たしていた体には充分すぎる程爽快な出来事で、何かがプッツリと

 切れる音がした、断線した後に、電流が走った。

 悲しい物を背負いきった屍は、夜に栄える、わかりきっている事だ。

 血が流れると、夜の音が聞こえるから。

 そうやって、違う世界想像力の向こう側へトリップしていると倫理的にも外衆的にも

 精神性の疑いが掛けられそうだから、外套の外ポケットから数十分が経過した後に

 ようやく私は、携帯端末を取り出してとりあえず、イチイチキューにコールする。

 小刻みに流れるテンプレートインストゥルメントBGM(プルルル)が自棄に夜の風に

 協調するように気持ちよく同調して耳に心地よく、耳を寄せている時の私の

 表情は、傍からみれば、とてつもない清涼さを感じた事だろう、誰もいなかったけど。

 『はい、こちら救急…』『すいません、』

 相手が出た途端に私は間断なく唐突に切り出し、即座に来てもらった。

 多少、救急隊員は訝しげな声で警戒を表したが、機転を利かして慌てた素振りを

 すると、やがて解け、次から次へと事が順繰りと運ばれて現場には彼の肢体に流れる

 鮮血と同じ色で染められた四輪駆動の鉄塊が夜の景色に駐車された。

 四輪駆動の鉄塊、救急車から出でた制服を着こんだ青年は、多少青い物を頬に湛えながら

 彼の肢体の上から下までを検視していく。

 検視していく間、現場の過程などを聞かれたが、特に私は本当に何も知らぬ存ぜぬ

 状態だったので、怪しまれながらも、指紋検査にも引っ掛からなかった事から、

 特に尋問される事はなかった、しても驚いてしまった…まさか現場で指紋を取られるなんて。

 近頃の救急隊員は、そんな事までするのか、と思ったけれどよく考えると

 赤い四輪駆動と共にもう一台白い四輪駆動の悪魔が来ていたことを思い出す。

 目を瞑ってしまっていた、あまり警察は好きじゃない、特に理由はない

 よくあることだ、権力が嫌い、なんて言う事は、そうやって自尊心を満たしたがる。

 私も所謂そんな俗物塗れの観念に塗れてしまっていたから目を逸らしていた。

 思えば、赤い四輪駆動から降りてきたのは、年老いたおばさんだったかもしれない。

 白い四輪駆動から出てきた方が青年だったのかも。

 聞くところによれば、これは青年から聞いた話だけど、今の時代は。

 誰かが死ぬと、地面を張っている管が生体反応を検知して、あらゆる機関へ連絡するらしい。

 まぁ、それは、放置された屍の話で、三日程経ってからの話なそうな。

 けど、極端に言えば、例えば自分と接点、繋がりのない脈絡のない屍を

 見つけた時、特に何の猜疑もされたくないのなら、どうせ結果は同じならば、

 知りません、存じませんと通り過ぎてゆく事の方が楽だと私は思った。

 自分さえも疑って生きているというのに、周りにさえ疑われるようになると、

 もはや何を信じればいいのかわからなくなってしまう、いや。

 誰かに疑われるからこそ自分を疑ってしまうのか。

 誰に聞かれるでもなく、心の中で私は、彼の肢体を姿態を舐る様に眺望し検視している

 人達を横目で眺めていた。

 それから、彼らは、三十分程経た後に、堪能したらしく、彼を荷台に乗せて……。

 荷台、じゃなくて、担架というのかな、担う架け橋…その場凌ぎの梯…。

 彼らを担架に乗せて、どこか彼を永住供養してくれる施設へと連れて行った。

 私は、置き去りにされた、彼らにとって私はどうでもいい存在らしい。

 置き去りにされた私は、とりあえずの道標として、降りてきたバスを目指した。

 時刻は、神様が目覚める頃、人類が立ち上がる指標とする物が昇る頃。 

 太陽が、上がる頃―。

 

 ―そうして、今日は彼のお葬式だ。


 いやいや、ちょっと待ってはくれないか、省きすぎだろう、と私も

 想起しているうちにそう率直に実直に思ってしまった実に素直に。

 でも、不思議な事と言えば、誰かに語らってその誰かに

 子供のころ飲んでいたクリームソーダの様な甘くそれでいて心地よい

 刺激を与えることは不可能だと感じたから、語らわない。

 合理的だと容赦がないとほざきたければほざけばいい。

 私は今、本当を叫べば、彼がいないことが辛い。

 なぜなら、彼が居なくなってしまった後の一人置き去りにされたあの夜から

 私は本当に、一人ぼっちになってしまっていた。

 今更の後悔、永遠に遅い後の祭り。

 昔からそうだった、私は、皆が盛り上がっている時には楽しめない。

 皆が盛り上がっている時は、心で毒づく事しか出来ず、終わった後に

 激しい何かが奥の奥からせり上がってくる、自責の念とか、反省会とか。

 皆が楽しんでいる所をどこか呆れている表情で見ている自分が好きと言っている

 自分が嫌い、そんな矛盾した感覚がとてつもなく気持ち悪い。

 違和感まみれの自分が、彼のおかげで何かを取り留めていた。

 其れを彼が居なくなったおかげで知ることが出来た。

 彼が私の唯一の証明で、ライトを当ててくれていた。

 身内だけのお葬式を開く、と彼の寝室に≪恋人≫として遺書に綴られていた

 らしく呼ばれた私は、彼は本当に死んだんだと、知らない彼の関係者からの

 話を聞いているうちに改めて実感していた。

 彼はなぜ、死んだのか、私は知ってる、もう一人の自分に殺されたのだ。

 なぜ、殺されなければいけなかったのか、其れは既に今も連夜

 人々の物事の淫も陰も陽も垂れ流す四角い箱から流れているニュースが物語っている。


 ≪複製人間、クローン人間を製造していたと思われる容疑を掛けられた工場が 

  摘発されました、首謀者は、齢(70)の高齢者、主な製造方法は、あ…はい、

  すいません、大部分は伏せますが、企業秘密以外の明かしていいとされてい

  る情報としましては、藁+aで編まれた人形に人類のDNAが凝縮されていると 

  言われております『血液』を注射器内に取り込み加工し、取り込む…と

  (これで良いのでしょうか…えぇ、はい、OK? わかりました)

  申し訳ございません、私自身、少し理解出来ない事件ですので視聴者の皆様

  にだけでも確かな情報をわかりやすくお伝えしなければと思いまして……

  藁プラスアルファで編まれた人形のプロトモデルは全て【ALND】アルド……

  と呼ばれ、尚、血液を取り込んだ後の名は、【ブラッゲル・アトロースド】 

  と呼ばれていたらしいです、首謀者の高齢者はやや惚けており、唯の研究

  の発展としてそうなってしまっただけだ、「儂がいたからこそ救われた者も

  おるのじゃ」と意味の分からない供述を繰り返しており……

  今回の多数同時に起こった事件『鏡写し殺人事件』につきましては

  「彼らの人生は、もう一人の彼らに殺される事によってリセットされたのじゃ」

  とまた意味の分からない供述を繰り返すばかりで……≫


 どこかの工場で、誰かの誰かを複製し、その誰かの複製がオリジナル

 の誰かを同時多発で殺してしまった、そんなオカルト好きが聞けば

 両手を上げ思わず万歳してしまう程歓喜する、事件が毎日毎日大袈裟なテロップ

 付きで、繰り返されている、嫌気が差すくらいに。 

 けれど、どこか自分の思いを込めすぎてしまっている、新人にはありがちな

 ドライを含めないミスを連発してしまいカンペのフォローにより生かされている

 新人ニュースキャスターの拙く覚束無い煩わしい声に耳を傾けているうちに

 ある思い出を想い出した。

 彼と遊園地デートをした日の……確か帰り道、お婆さんに出会ったことを。

 四角い箱の中に映っている気持ちの悪いニヤケ顔を顔面に張り付かせているお婆さんと

 全く同じ顔をした、思い出の中にいたお婆さん。

 思えば、あの時、私も体内の血液を抜かれたっけ。

 葬式会場にいながら私は今、全てを思い出している。

 思い出しながら、ざわざわと蠢いている葬式会場の休憩場所の喧騒にも耳を傾けると。

 四角い箱に映っているお婆さんの姓名が彼のお母さんの旧姓らしい。

 其れはすなわち何を意味するかと言えば。

 『今四角い箱に映っているお婆さんは、彼の祖母』だということ。

 彼とお婆さんは、事件前に出会っていたらしい、およそ数年ぶりの邂逅だったようで。

 工場で働いていた他の工作員達は、遠くから彼ら二人の様子を見ていたらしく。

 その様子は、どうにも久しぶりに孫とお婆さんが出会っている様子とはかけ離れていたようで。

 シリアスと、殺伐に溌剌としていたようで。

 二人は、その空気を一ミリも乱すことなく、工作員にすら知られていなかった

 複製人形生産をしている最奥部にまで向かっていき。

 出ていくときは、なぜかお婆さん一人だけだったという。

 今、私の居る葬式会場、休憩場所が騒がしい理由は、親族の中で、

 お孫さんとお婆さんの因果関係

 について知っている物がいないか、其れについての聞き込みをしている所為みたいだ。

 ″恋人″である私についても、しつこく聞かれたけれど、てんでずれた

 回答をすると、そちら側の人なのかなと思われた様で、それ以上は何も聞かれなかった。

 警察が、聞いて笑える、心の中でそう吹聴しながら、したたかに私は。

 葬式の全てのプログラムを終えた。


 それから、外を出ても、景色は色彩を帯びることなく。

 頭上を見たところで、綿あめ一つ浮かんではいなかった。

 青は、青ではなく、為りかけの白ですらなく、かといっても

 灰色ではない、原色はなく原型、ではない、取り留めが取り留められていなかった。

 前を見ても、前じゃない様な。

 右足が右足じゃなくて、唯の棒が、ばらばらな破片の上で

 ショパンの子犬のワルツを踊っているみたいに不安定な小刻みに揺れるリズムを

 刻んでいる……左足だってそうだ。

 不安定な旋律の中を揺蕩って居る。

 ふらふらり…ふらりふら…彷徨う飼い主を失くした私。

 其れはまるで、いつか彼が私の為に飼ってくれた迷い犬みたいに

 当て所を行き場を失くした私は……誰が拾ってくれるかなって。

 熱っぽい熱情が込み上げてくるのに自分勝手に抑えられない……。

 迷い犬の様に、私は可愛くもないしお腹も空かせていない、

 可愛い声も出せない、ピンク色も出す事が出来ない。

 それでも、誰か…誰かこの私の手を取ってくれるって…

 

 

 ――今でも、


 不確かな…誰かの手を…シンジテ…留…の かな…。


 彼が遊園地デートに誘ってくれた…あの時のアイスクリームはとけ切っていた。

 

 アイスクリームはね、地面に落ちれば、蟻さんが食べてくれるからさ


 ―落としたって、蟻さんが喜ぶからさ、それで、いいんだ。


 思えば、彼がそう言ったから、あの時もアイスクリームの軌跡に

 何も厭うことはなかったんじゃないか……。


 ダメだ、考えれば考える程に私の中の彼が強くなる。

 どうせ、彼が甦ったところで、又蔑称して、遠ざける癖に。

 汚い自分を彼にぶつけたい、どうせ、そう。

 所詮、万華鏡を手に入れる迄が私。

 手に入れて覗き込むのが、彼、所詮、そう。


 アスファルトの中を、汗が染み付いた足で、歩いていく……。

 地面が、ちくちくと小さな痛みを運んでく……。 

 痛くて痛くてしょうがない、靴はボロボロだ、履いているかどうかさえ不確か。

 もしかすると私は今、土足なのかもしれない。

 土足でアスファルトを歩いている大学生の女の子っていうのもシュール。

 いいじゃないか、そういうのも。

 とてもとても、笑えてくる、フフッ…フフ


 「其れが、今の貴方…? 気持は、どう…?」


 前方を陽炎たちめく蜻蛉揺らめく…あぁ季節さえ温度さえ定かでない…

 粒々の地面を揺れる私の前に、もう一人の私が現れた。

 

 「最高……だよ、もうね…」


 もう一人の私は、足取りがしっかりしていて、両手には

 新しい犬を抱えていた、きっと迷い犬じゃないだろう……。

 目が、とても澄んでいる。

 

 「最高……そっか、ふーん、私もだよ」


 もう一人の私は、両手に抱えていた犬を、

 造作もなく地面に置き、ポケットから、ナイフを取り出した。 

 磨きに磨き砥ぎに砥いでいる事が見てわかる程、太陽に恵まれた

 天候の今日の影響を受けて輝いている、鋭利に尖リに。


 「なら、最高だったら、いいよね」


 もう一人の私は、太陽の温度を浴びて、私にそう言いながら

 微笑みかけてきた、片手にナイフを持ちながら。

 赤いリンゴを、甘い果実を初めて齧った時の様に、

 世界の美しさ全てを凝縮させた様な表情を一瞬垣間見せて

 スクリーンショット、一枚の写真の様に艶やかな頬を鮮やかに紅潮させて

 ナイフを細い細い舌で一舐めし、又太陽を浴びた。

 とても…色づいていた、向こう側の私は…。

 服や鼓動に色があった、頬に顔にいろがあった。

 何より…向こう側の私は…息衝いていた……。

 今の私は、呼吸をしているかどうかさえ分からない。

 今の私は、あのナイフを持てるかどうかさえ、分からない。

 なのに、返事をしてしまった。


 「うぅん…あぁ…そうだね、最高だから、いいかもしれない」


 何が最高かさえわからぬままに。

 最高に身を委ねてしまう姿勢、私生。

 ゆるりと、―逝こうか。


 「でしょー? いいよね、サイコ―なら…もう、私はいらない」


 もう一人の私は、手に持った細身な其れを


 唯、委ねられた私の身体に向けて、腕を前に押した。


 ほんのりと、柔らかに。

 そんな、ゆるりに、貫かれた。

 まるで、空気の様に。

 あたかも、窒素の様に。

 蔓延しすぎたモノが、唯不要ナンダヨと切り捨てられていく様に。

 私から、トマトより熟れていて、恋する直前の女学生よりも情熱的な

 ―赤い鮮血が、流れた。


 思い出した、私は。


 初々しいニュースキャスターの言葉を。


 ≪尚、尚…鏡写し殺人事件とは、評論家の意見に依りますと、都市伝説を元に

  忠実に行われていると……尚、その元にされた都市伝説…とは…

  ドッペルゲンガー…お好きな方は、察しがついているかもしれませんが…。

  ドッペルゲンガーとは、もう一人の自分を見てしまう現象の事ですが……。

  このお話には、こんな逸話があります…。

  其れは、ドッペルゲンガー、つまりもう一人の自分を見てしまうと

  自分は必ず、死んでしまう、そうです、今回の鏡写し事件のケースと似ていますね。

  鏡写し事件、その事件は、被害者であるはずの人間と容疑者である人間が

  全くの同姓同名だった、同じ人間、だったということ…。

  我々には、彼らが一体何をしたかったのかわかりません、ですが…。

  同じ人間だった容疑者である方の彼らは、こんな言葉を繰り返しております。

  『僕達は、これ以上の後悔はしない…もう…これからは』

  一体どういう意味なのか、私達にはわかりません、きっと。

  一生わからないでしょう、だって彼らは、すぐにどこかへ消えてしまうのですから

  ―それも、必ず…男と女、ペアで…どこかへ消えてしまうの、ですから≫

 

  


 

 ネェ ねぇ、 …ねぇって ばぁ。


 「雨が降ってるよ」

 ・・・  ・・・  ・・・ ・・・ ・・・ ・・・

 数々の黒点が、僕らの邪魔をする。

 ざざわざわざと、五月蝿く煩わしい雨が降った。

 雨は、誰かの悲鳴を原動力にして、地面に打ち付けられている。

 雨には、いつも誰かの悲しみが紛れ込んでいる。

 「僕は、そう思うんだよね」

 けれど、雨は、いっぱいあるんだ、雨はいっぱい降るんだ。

 だから雨はちゃんと寂しくなれて

 ちゃんと悲しめて、ちゃんと……晴れがくるんだ…。

 「そっか…そうだね、雨は、泣いてる」

 雨は、太陽の代弁者だ、太陽の裏側を全部雨は知っている。

 曖昧な太陽の呟きが、雨で、一粒一粒で受け止めている。

 「太陽も泣くんだね」

 ふと、隣にいる彼女が、片手に持っているナイフの所為で染み付いた

 誰かの鮮血を拭いながら、頬を濡らした。

 だから、もう、悲しいことは已めた。

 「やっぱり、シャワーが一番だね、君が浴びてる間のシャワーの音が」

 僕の、ちょっぴり外れた声音で、唐突に言った言葉に

 彼女は興味を示したようで、首をこくりとちょっとばかし捻って僕に

 続きを促した。

 「へ、へへぇ…と、唐突だね、其れはどうして…?」

 促そうとしたその声は、やっぱり雨に紛れた所為か、

 しんしんと無表情に降り募る雨の所為か……。

 ビルや車や家々、様々に無差別に降り募る雨の所為か……。

 淀んで、濁って僕に届く迄には、色んな邪魔が入った…けど。

 僕はやっぱり、君の声だけは、どうにも…気味が悪くてごめんね…。

 どうにも……どうしても…はっきりと受け止めて、しまうんだ。

 だから君には、今もこの瞬間も。

 はっきりと返すよ。

 君にどう思われたっていいから、頭に君を見てすぐ思い浮かんだ。

 この頭の悪い、どこかピントが外れたフレーズを。

 「君が、好きだから」

 

 

 キスもしないままに、手を繋いだだけの二人は。

 雨を背後に、悲しみの悲鳴を後にして…

  

  霧 

    に 

      なって 

          … 


             消えた。


 どこかの女が呟いた


 ―〈私もよ〉

  

 を、背中にして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次のお話は、もう考えております。

では、誰も見知らぬままに誰にも知られぬままに。

暗躍を背負い、又綴ってゆきます、おはようございます。

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