禄実 ~遊戯地のソフトクリームは溶ける~
申し訳ないです、あと2話書きます。
かく前から、無理だなと思ってました、すいません。
僕は僕自身の結末を知ることが出来なかった。
まさかこうなるなんて。
大体は予想はついていた、誰かが裏切るだろう……と。
真剣を人は邪魔したがる、己の欲望を振りかざし其れを善と呼んで。
悲劇のヒーローぶったりはしない、けど少しばかり辛いかな。
でも君も来てくれるなら、そんな思いも消えてゆく。
目の前でいなくなられたって、なんとも思わない…。
って思いたいけど、どうしたってそんなこと、無理だ。
人には限りがある、いつだって人間は有限の海で支配されてる。
多分、もう私にも酸素はない。
「やぁ、ようやく会えたね、来ないかと思ったよ……」
待ちくたびれた様子で彼はクタクタだっていう顔で、私に手振り。
思わずの不意打ちな登場シーンに私は戸惑い何をしていいか咄嗟にわからず
体が動かず、代わりに喉の奥で詰まった様な声が出た。
「ぅ…ん」
ハハハ、彼は私の噎せ声みたいな声を聴いて快活に笑う。
その笑顔は、月が綺麗な夜を背景に映える。
とんだ理想的な彼氏だ、気遣いが出来てなにより常にこちらの事を第一に考えてくれる。
何の不満もないはずなのに、なぜだろう。
その何の不満もない事が酷く鬱陶しくて蒸し暑い。
誰かに言わせると、「贅沢な悩み」誰かに言わせれば「偉そうに」
たしかに、私もどこかの女がこんなに良い男を持っていたとして
そんな事を相談してきたら、同じことを言うだろう。
何も考えず、自分に無い物を相手が持っている事に激しい嫉妬を覚えて。
羨望約半パーセント分の嫌味を嫌味たらしく吠える事だろう。
人は、相手の事を何も考えずに自分の想いの竹だけをぶつけてしまう。
仕方がない、皆それぞれの気持ちを持っているから、仕方ない。
そう自分にも言い聞かせて生きている。
「大丈夫? ちょっと寒いからね、上着着る?」
しゃがれた声で返事をしてしまったやる気のない私の事を
外にいるから寒いのだろうと体調の事を案じて自分の上着を羽織らせてくれる。
少しだけ、なんだかよくわからない英文が入っていて趣味が悪いけど
そこだけを我慢すれば、これも完璧。
「ありがと…」
羽織ってくれる彼の手をさりげなく握りしめると、同時に心地よさを感じた。
ふと離れた手を見てみると、手にはカイロがあった。
「そんなに寒くないよ…?」
わざとらしくいつものように彼の好きな可愛い私の声音で反抗を試みれば。
涼しげな顔で、彼はこちらを振り向く。
「そか、ごめん…あぁそうだ…もうここ閉園なんだよね、でも一つだけ空いてるアトラクションがあるんだ」
そういって、彼はエスコートして私を栗色の馬から下す。
いつの間にか彼は白馬から降りていた、それくらいが貴方には丁度いい。
白馬なんて貴方には似合わない、精々…思いつかないなぁ。
きっと地に足着けてる時の彼が一番彼が彼らしい。
「へぇ、どこ? ずっとここにいたから、わかんないや」
パンフレットは一応受付に無造作に置いてあったので、持っている。
どうやら、よくある町おこしの発端として創り上げた地方テーマパーク
のような場所らしい、それでも多少名前が歪だけど。
ネバーチャイアルトランド、反芻してみても、唇と唇が微妙に絡む。
″弱い子供たちによる未だ″の遊び場とでもいいたいのか?
意味はわからない、言いたい言はわかるけど。
所詮、妄想の延長線上とでも言いたいのだ、結局。
それにしても彼にこうやって引きずられていくのは、久しぶりだ。
…違うな、彼にいつも私は引き摺られている。
今だってそうだ、精神的にも肉体的にも、ずっと私は彼を引き摺って生きてくんだ。
「シープゴーランドって乗り物なんだ、凄く面白いよ、まるで眠ってるみたいな快楽を感じる事が出来るんだ」
目的地まで私をエスコート(引き摺る)っていくらしい彼が嬉々とした表情で
詳細を丁寧に教えてくれる、シープゴーランド? パンフレットにもそんなアトラクションはなかった。
新しいアトラクションなのかな、頭にそんな考えがよぎったけれどパンフレットの紙質はそれほど悪くなかった、最近取り替えた様な版を重ねたみたいな手触りがした、新品の独特の。
「シープゴーランド? へぇ…凄い名前だね、うーん? そうでもないか」
彼の表情を目で追っていると、凄い名前、その単語に酷く反応した気がしたので
即座に僅かばかりの気遣いを駆使して否定。
改めて思い返しても、それほど凄い名前っていう訳でもないし。
会話の繋ぎにも一苦労、こんなのでいいのかな……。
表情を追う事にも精神に影響があるらしいから、エスコートされているうちに
変貌した景色に目を当てることにした。
先ほど、栗色の馬から見渡した景色から一新されていつの間にか
よくあるありふれていた先ほどのテーマパーク然としていた先ほどの景観から
モダン調の西洋を想い起させるさりげない赤や青、時に緑、様々な色が
壁には塗られ、それぞれが喧嘩をせずに自らを保っている。
ベースは白だ、白に様々な色が色物ではなくならず個性を個性として
イデオロギーを主張している、同じような意味の事をなんで二回言ったのか
と思うかもしれないが、それほど瞑目させまいと言う程に息をのむくらいに
今見ている目に映る物体や色彩が艶やかだから。
壁だけではない、コーヒーカップが踊る様にクルリクルクル輪舞して、その丁度
隙間に、くねくねしていたりゴツゴツしていたりしゃきっとしていたりする
照明装置が措置されていて、それらも呼応同調しているかに見えるくらい
クルリクルクルと輪舞を踊っていて、コーヒーカップと壁を絶妙な間合いで照らす。
レクイエムはまだかい?
と問い掛けてみたかった、そんな気持ちを中途半端な温度の風にそよがせる。
「もう着くよ」
レクイエムのプレリュードには何が良いかなと考えていると
彼の声が飛んできた、どうやら、もうすぐシープゴーランドに着くらしい。
着くらしい…その言葉に違和感を感じた。
ここの遊園地は、地方都市の小さなテーマパークのはずで、面積は
東京ドームの半分程もないはずだ、東京ドームには行った事ないけど。
とにかくそれほどの大きさは無いはずだ、簡潔に言ってさっき私の居た
メリーゴーランドの地点が半分付近で、そのあとの半分はパンフレットにも
あまり詳細は記されてはおらず、けれどどこにもアトラクションがあるとは
記載されていない。
今、私は遂にこの空間に潜む物に気付いた。
この場所は、パンフレットに載っていない。
なんで今まで気付かなかったのか、わからない、確かに私は手を引かれてるだけ。
それも惹かれてもいないしむしろ曳かれてると言う感じなのに。
ちっとも冷静に考えれていなかった。
今更冷や水に気付いたところで、とうに温もりすぎて自棄になるしかない。
「どうしたの? 少し冷や汗掻いてるみたいだけど…あぁアレだよ」
どうやら私は彼にもわかるくらいの憔悴をして焦燥してしまってるみたいで
頬に一筋の冷やっこい液体が滴る。
なめてみると、少ししょっぱい、なんだか不安を助長させる味で嫌味だ。
それはそうとシープゴーランドが目と鼻の先に見えるらしいので
彼の指差す方向へ放物線に導かれてみると。
そこに聳え立っていたのは世界ナンバーワンを誇る塔【ブルジュハーリファ】
を彷彿とさせる長大さを感じさせるくらい大がかりなアトラクションだった。
眼で追おうとしても追いきれない。
「もしかして、アレに乗るっていうの…?」
か細い如何にも心細そうなわたしの声に彼は、当然さと心なしか胸を張りながら
「え、うん、そうだよ、一緒に逝こうね、新しい世界へ」
不穏暗雲が視界全てを覆っていた、一緒にどこへ行くって?
新しい世界…? なにやら日常生活を営む上であまり耳にしないフレーズが
耳をさらりと突き抜けていった気がする。
新しい世界……新世界…?
宗教で言えば、新世界と言うのは、輪廻とかそういう所に値するから
要するに″死″ということだ。
いやいやいやいやいやいやいやいや……そりゃないよせっかく来たっていうのに。
最悪の結末へと思考回線が走りだしり始めたところへ又彼の声が聞こえた。
「ようやく、君と僕は一つになれるね」
追随した彼の言葉…疑問符ばかりのみが私の脳裏をかすめていく。
物語のお話のようだと、他人事みたいにそう思っている私がいた。
まるでテレビの中のお話、液晶画面に映っているメディアでも見ているみたいな。
それくらいの衝撃を今感じている。
彼とは、なんだろう。
彼と私は、一体…今の彼と私は、何に属するグループなんだろう。
君と僕は一つになれる…この言葉を彼はどんな気持ちで発しているんだろう。
私は、どんな気持ちでその言葉を受け止めているのだろう。
彼と出会って、多分、もう三年程。
彼と出会ってからきっと私の世界に色がついて感情が芽生えた。
意味がわからないっていう人ももいると思う、いやそういう人が大半だろう。
でも、自分をわかり会ってくれる人と出会う、出会ったっていうのは
それだけで、今までの日常に潤いが差す。
くだらない朝の厭いとか、テレビでやっている芸能人の番組とか、
どうしても逃げられない事とか、それらは腐った物に見えてたのに
彼と出会った翌日からは、くだらないが清々しいになって
テレビでやっている芸能人の番組のネタが全て面白くみえて
どうしても逃げられない事がどうしてもやらないといけない事になった。
そんな幾多の思い出が走馬灯みたいに想起される、想い起こされる。
そうして、不思議と呟いてしまった。
「うん……そう、だね」
メリーゴーシープランド 意味はわからないし、ちょっと怖いそして不気味。
けど今の私は、彼とならどこへでも行こうとそう思えた。
思い出の所為かな…思い出の所為、だろうなぁ。
彼とアトラクションに乗る為の階段を踏み進む。
アトラクションは近づいてくる、当たり前だ、視界が拡大される。
拡大された視界の中のアトラクションは、揺り籠の様なモデリングをしており
更に私の視界の中では、揺り籠はぷらぷらと揺れるので、
死のモデリングと連想される長い長い巨大鎌に見えた。
矛盾してる、彼とならどこでも良いと言いつつやっぱり戦々恐々としてる。
仕方ないよね、だって人間だもの。
「これだよ、メリーゴーシープランド、何に見える?」
清涼さ全開といった表情で片手を広げ指し私に示す彼。
そんな清涼水みたいなアクエリアスみたいな爽快な表情をされても
『地獄で死者を狩る巨大鎌だよ』なんてロマンチックのンの字さえない
比喩表現は使えないし。
ここは、ファーストインプレッションで、決定。
人は所詮所謂第一印象で全てを決める生き物なのだ、断定。
火急早急にピュアさと清純さ両方を取り入れた表情を取り繕う。
……正直薄っぺらい、だなど言わせない、くらいのもうアレだ
ミロのヴィーナスの失った両手を彷彿とさせる程の。
「えーと…揺り籠…? かなぁ」
クスリ、と笑い声が零れた、私の返答に対する
彼のリアクションらしい、又、クスリ、と零れた、そんなにおかしかったかな。
「揺り籠、そうだね、おかしいなぁ」
なんで? 素直に私はそう聞いた、だっておかしかったから。
そんな風に笑う彼は初めて見た様な気がして。
「うん? んー……君と同じ感想だったから、かな、初めて通じ合えた様な気がしてね」
夕立後の何もかもほとぼりが冷めきった雨のような彼の表情
曇りが射している彼の表情、それなのに、美しく視える。
″初めて通じ合えた″? その真意は、ナニ? 何? なに?
そう、聞きたかった、だって私は。私はずっと……。
彼と通じ合えたフリを完璧に出来てた″つもり″だったから……。
ふっと…酸欠しそうになった、私達の空間から大気が消えた様な。
そんな曖昧さの極限さが満ちる世界を錯覚し錯聴する。
私達は、その時だけは、何もしゃべらず、乗り込んだ。
永久の久遠の眠りに就けるアトラクションへと。
ドッペルゲンガーな部分には正直あまり触れません。
すいません、では。