表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

四実  ~始まりへのジェットコースター~

あと二話で終了です。

 そんなはずない…そんなはずはないよ。

 君が僕を好きだ、何ていうことは元々有り得ない。

 だって君は、二人がどうやって出会ったか、そこからを知ってる?

 僕は知ってるよ。

 だって…ね。



 

 無理って…無理…? そんなこと、私が言える資格が本当に

 あるのかな、あったのかな…。

 元々、私と彼は…私が……幻が、幻が現実を襲う。

 もう全部、夢だったら、どれだけいいか。

 もしくは、蜃気楼…とか?

 まぁ…どうせこんな私なら、正夢か、

 脱水症状なのかも……しれないけど。


 

 

 

 ゆらりと風に揺れる。

 風が車体を揺らして、振動振幅を私に感じさせる。

 この風が、この車体をこの大地を動かしている加速させている

 そう思うと、なんだか風さえ愛おしい。

 

 「お客さん、オキャッサーン」

 

 風の流れ車体の動きに身を任せていると、車掌らしき人のしたったらずな

 声が聞こえてくる、なぜだろうと目を開けてみれば

 優しく肩を叩かれた、痛い、ちょっと痛い、表現に語弊があった。


 「あ…車掌さん、どうかしましたか…?」

 

 らしくないちょっとお惚けた可愛いお寝坊さんを演じてみる、

 とはいっても

 今の状況に気付いている訳ではない。

 何度も目を擦る、幾度も頭を揺さぶる、心に数多も問い掛ける。


 「いやぁサーセンオキャッサーン、終電ですよ……?」


 車掌が心配するように上目遣いにこちらを見ながら深夜のコンビニ店員

 のような口調で私に残酷な単語を並べていく。

 終電? え、終電……?

 それはラストイズトゥレインということ…? 最後の電車…?

 

 「ラストイズトゥレイン……? すいません、ちょっと何言っているのか……」


 車掌さんがこちらを更に目をやり覗き込みながら、軽く片手で

 自身の頭を抑えながら私に不安を煽り煽動していく。

 そんな車掌を見ながら三度自分に問い掛けていくと

 やがて止まっている窓の景色に気付き胸が段々と

 撫で下ろされる、ようやく真実に一歩、一瞬悟っていく。


 「オキャッサーン……あのですね、わかりやすく説明すると、もうこの電車は今日は動かないんです」


 思い切った事をしてスッキリしたというような

 安堵に満ちた顔を見せる車掌

 とは裏腹に私の気持ちはどんどんどんどん又撫で上がっていく、芽生えだした焦燥感。

 どうしよう、とは心の中で反芻しているけど

 実際、どうすればいいか全くわからない。

 

 「そうですか…そういうことですね…」


 車掌さんは私の言葉に、ようやく納得してくれたかという表情を見せる。

 依然、風景は止まったままだ、まったく納得は出来ていない。

 車掌さんは持ち場へ帰ってしまった、最後 

 『動き出すのはあと…朝の五時頃ですから、八時間後くらいですかね』

 よもや私にとっては空前絶後の声を残して。


 「はぁ……歩いて、行こうかな」


 空前絶後の声を絶前迄に受け止めて逆巻かせて車掌に

 『すいません、この電車って降りれますかね、降りて……』

 目的地の在る場所迄を告げると、車掌はそこまでの行き先までの地図を

 制服のポケットに差していたメモ帳から一枚切り出し記してくれたので

 其れを充てに、電車を降りる。

 

 「気持ちいいな」


 電車を降りると、ふぅと一息、気持ちの良い風が心地の良い風が靡いた。

 体の芯まで届くようで、空細い心細い中が少しだけ潤いに満ちた。

 ホームに目を通すと、人っ子一人姿を見せず、ポツンと自動販売機だけが

 寂しそうにその姿を主張させている。

 普段はやけに雑然としている割に、

 望むときには空いているホームの景色に

 なんだか世界全てが寂寥の光に照らされているような錯覚を覚える。

 歩幅を緩めて、自動販売機の前に立って、

 徐に盗難被害に奇跡的に遭っていなかった

 ショルダーバッグから、財布を取り出し

 ブラックコーヒーを嗜もうとボタンを押す。

 取り出し口から、ブラックコーヒーを取り出して、

 プルトップを引いて中身を見る。

 相変わらずの安定してる黒い海だ。

 この黒い海に包まれれば、多分、どんな膿だって誤魔化せるに違いないと

 赤い口の中に含ませながら、そう確信する。

 

 「詩人なんて、やってる場合じゃ、ないのに」


 呑気な自分に心から笑えて来て、

 空っぽのブラックコーヒーをゴミ箱に投げ入れる。

 クルン、ガタッ、トットトト

 頼りない音を立てて、墜落の意を示す空き缶。

 やっぱり入らなかったかぁ……運、悪いなぁ。

 今にも崩れ落ちそうな足取りで、

 空き缶を拾いゴミ箱に素直に投げ入れる。

 結局投げ入れちゃうのが、私。

 

 「だからこんなこと、やってる場合じゃ、ないのに」


 車掌さんが手渡してくれた地図を元に、近くのバス停へと向かう。 

 彼が待っている≪ネバーチャイアルトランド≫の直通で

 向かうバスがあるらしい。

 私事ながら、こういう危機に陥った

 状況から抜け出す時だけはツイている。


 「こういう時、だけ、なんだよね」

 

 拙い鼻に翔けた声を空に飛ばして、バス停までを黙って歩く。

 足を右へ左へって静かに動かして、頭で何かを考える。

 其れは、これからのことだったり、

 彼が今どうしているかって事だったりしてる。

 彼の事を考えてしまう時は、いつもそうで、こうで。

 嫌で嫌で吐き気を催す程なのに、なぜか気に掛けてしまう。

 其れは多分、アニメやドラマや小説では

 壮大な想激の予兆という風に描写される 

 のかもしれないけど、どうだろう、私の場合もそうなのだろうか。

 今も、思い出せば、表情を歪曲にしてしまうけれど、

 これでもそうなのだろうか。

 自分の感じる事が結論のはずなのに、どうしても人は

 誰かに意見を仰いでしまって、そちらへ傾いてしまう。

 其れは歪な様で、とても自然な物で、

 考えれば考える程に迷宮入りの準備体操

 をしている様な気分になってくる。

 どうしようもない事に想いを委ねていると、

 ニャーとネコの鳴き声が聞こえる。

 猫の声は、いつも誰かを求めている様な媚びた声。 

 けれど、奴らは誰も求めてない事を私は知ってる、だってこの前

 餌をあげようとしたら、群れが逃げていったし。 

 子猫がお腹を空かせていたから、気を遣ってあげたのに

 それでいいのかな、って思っていたら、

 母猫がきちんと子猫のご飯を口に咥えていた。

 ならわざわざ家の家で可愛らしい弱弱しい声を出さないで欲しい

 こっちが構ってほしくなっちゃうじゃないか、

 ってポーズだけ訴えてはみたけど

 当然、こちらの意見なんて毛頭聞く前から猫の耳に念仏だ。

 猫ローグしていれば、やがてバス停の光が見えてくる。

 バス停は、どこよりも煌めきを煌々と明かし、存在を確立させていた。

 何よりも目立っている事は、際立っているという事は

 それだけ敵も多いということだから、あまり好印象は持てない。

 

 「人間社会の話……だけど」


 ヒエラルキーを貶しながら、バス停、

 時刻表が明記されている縦棒の前に立ち

 役割を果たさせる、今は何時か。


 「今は……一二時……か」


 携帯端末で時刻を確認する。

 電車の終電、一一時三十分頃に私は歩き出したらしく。

 それから、三十分は自らの足で地を踏み締めたようだ。

 伝聞調である理由は、夜の寂寥感に気持ちが混じって何もない

 虚の空間に置き去りにされた感覚が体全身に浴びせられて

 歩行中、特に何も気にしないようにしていたから。

 夜はとても淋しい、冷たいし、辺りも洗練されている。

 まるで、尖らす前の荒々しい鉛筆の様だ。

 たしかに、刺しても痛くはないけど、何か鈍い物を残す。

 洗練された精鋭の鈍痛、後味。

 其れが私の造形する夜の形。

 また、ポエムる自己満足で生きている、呆れる。

 

 「おっと、っと」


 誰もいない夜の空間に、気付かない内に心で唱えていた言葉が外に発声させていた

 事に気づいて、慌てる。

 おっと、っと 焦った時にたまに使ってしまう言葉の連なり。

 連なりを感じているうちに、重々しいエンジンの音が耳に木霊する。

 バスが来た、緑色で染められている、市営バス。

 エンジンがたなびいた後の煙は、狼煙の様に形作る。

 丁度、煙が引き終わると、目の前にバスが停車する、私ど真ん中だ。

 ど直球のバスにそのまま乗り込む、運賃は、五十八円

 とってつけられたような税込。

  

 「オキャッサー一人? 一人? ねぇねぇ一人?」


 運賃を受け取る運転手がしつこくねばっこく聞いてくる。 

 きっと誰も来ないから誰もいないから寂しいのだろう。

 人間はとても寂寞の気持ちを感じた時に漠然としたイラつきを

 他人に与えてしまう時があると私は知っている。


 「一人、です」


 「そうなんだ、どこまで行きたい? 天国から九州までオフコースだよ?」


 天国と九州の垣根はそれほどないのかと一瞬思わされてしまう程に

 ごく普通に流暢に順繰りと天国と九州を同じ括りに綴じてしまう運転手に

 愉快だなと感じながら、そういえば目的地はどこだったかなと自分の記憶力に

 狼狽えながら、再び思い出を想起させる。


 「そうですね……ネバーチャイアルトランド、まで行ってくれますか?」


 そうそう、彼との待ち合わせ場所はチャイアルトランドだった。

 けれど、もう閉園していそうだな、思い出した途端

 そんなネガティブな考えへとすぐに結びつく、

 当たり前か自業自得の因果。

 

 「チャイアルトランド……あぁあそこね、わかったわかった」


 私の言葉に運転手はニヒルに微笑み理路整然と整えられた流麗な白い歯

 を魅せながら、持参している地図帳を

 ハンドル下の小物入れから取り出し確認する。 

 確認している過程を私が目に追いながら

 運転座席すぐ後ろの座席に座ろうとしていると

 運転手がふと、胡乱な目つきで私を見てきた。


 「アレ…? 君、ホントにチャイアルトランドで合ってる?」


 「え、あぁ……はい、合ってると思いますが…」


 「そう、あぁごめんごめん、なんでもないよ」


 なんでもないよ、その言葉の後に運転手は何か言いたそうに唾を呑む。

 唾を呑んだかと思うと、一拍奇妙な間を開けたかと思うと、

 やっぱり何も言わない。

 その運転手の異形さになにやら居心地が悪くなって

 私は自分から運転手に掛けた。


 「あ、あの……どうかしたんですか? 出発、しないんですか?」


 私の声に申し訳なさそうに片手を縦に見せる。

 

 「いや、違うんだ…もう閉園してるんだよね、それでもいい?」


 つっかえたような表情をしていた運転手からようやく角が取れた

 声が聞こえて、私はようやく落ち着いて席に着く。

 今の私は、運転手の声しか聴いていない。


 「そんなことですか、あぁはい、いいですよ、人待ちなので」


 「そうか、じゃあ、出発しますね」


 安心した私は、ゆっくり腰を座席に据えて、

 若干眠りに就こうとしていた。

 うとうとと、眠気が尾鰭を引くのと

 同時にとうとうというエンジン音が呼応する。

 ゆっくりと熱を帯びていくエンジン音はとても心地がいいな

 そんな呑気な気持ちで、安寧へと浸ろうとしていた私は知らなかった。


  ―運転手のどこか不思議なくらい険を帯びた表情に。


 運転手は、一言、空に疑問を囁いた。


 「この場所……もう運営してないはずなんだけどなぁ……」


 エンジン音は激しさを増し、静かな夜を走り去った。

頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ