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名無しの手紙  作者: 山本良磨
第6話 ナンナ編
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とびっきりの笑顔

 次の日の朝、メールは目を覚ました。また泣き疲れていつの間にか眠っていたようだ。

「起きたか、気分はどうだ」

 部屋には名無しがいた。隅にある椅子に足を組んで座り、こちらの様子を見ていた。

「なんか、好きなだけ泣いたから、すっきりしちゃいました」

 そう言って鼻をすすり、名無しが投げ渡してくれたちり紙で鼻をかんだ。

「たった今村長が飯を持ってきてくれたぞ。温かいうちに食べとけ」

「いただきます」

 思えば、ナンナに来てからほぼ一日、ろくに食事をしていなかった。名無しが座っていた椅子を借り、机に並べられていたご飯を食べ始めた。食事をつくった人は、メールの状態をどこかで聞いていたのだろうか、おかゆをはじめとした、比較的食べやすい料理を、これでもかというほど準備してくれていた。とても食べきれないので、小皿に分けて名無しに手伝ってもらいながら食べ進めていく。

「……フーリエのことは、すまなかった。なんとか殺さずに止めようと思っていたのだが……」

 ふと、名無しがそうこぼした。

「いいんです。もうすんでしまったことですから。お姉ちゃんのことは、お父さんとお母さんに任せます。だって、天国は本当にあるんですから」

「……そうだな」

 そうやって名無しと話しているうちに、昨日ほんの少し脳裏にちらついたことを思い出した。メールはスープを一口飲んでから切り出した。

「名無しさん、どうしてもっと早く手紙を、この機械を渡してくれなかったんですか。いくらでも渡す機会があったはずです。それこそリリアーヌで渡すこともできたはずで——」

「フーリエがいたな。親を殺した犯人の前で渡せと?」

「う……。シルメリアは」

「最初は風邪でぶっ倒れてて、治ってからはリオナにつきっきりだったな? ハルモニアもラ・クリマも、アルバのことで同じだ」

 エルレ・ガーデンとロウェナはリリアーヌと同じでフーリエがいた。そもそもロウェナでは名無しはワルプルギスに行っていた。

「いやそれでも! 宿の中とか町と町の間とか、ほんの少しの間でも渡すことはできたでしょう? どうして——」

「……わかっている。いくら理由を並べようとも、結局は俺が迷っていただけだ。渡すべきなのか、隠すべきなのか。ずっと判断できずにここまで来てしまった。悪かった」

 あっさりと謝罪されてメールは言葉に詰まる。

「名無しさんは、嘘つきですね」

 ——手紙屋の仕事は『手紙を届けること』だ。それ以上でも以下でもない。それに対して何の感情も持ってはいけない

 リリアーヌで、名無しは確かにそう言っていた。

(嘘ばっかり。こんなに私のことで悩んで、考えていてくれたくせに)

 きっとエルレ・ガーデンでもシルメリアでも、ワルプルギスでも、ラ・クリマでも、手紙を送る人のこと、受け取る人のことを考えてあげてたんだろうな。

「……人のことを嘘つき呼ばわりした割には、随分と嬉しそうだな」

 にやついているメールの顔を見て、むすっとした顔の名無し。

「別に? なーんでもないですよ!」

「とてもそうは見えないが」

「ふふっ、秘密です!」

 メールは笑った。両親が望んでいた、とびっきりの笑顔で。

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