表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名無しの手紙  作者: 山本良磨
第6話 ナンナ編
66/72

撃て

「うわ、おっきい洞窟……」

 村の外れに向かったメールは目の前の洞窟に思わず声を漏らした。

 近くの岩には注連縄、洞窟の内部の壁には松明がかけられており、ここが神聖な領域であることをこれでもかというほど醸し出していた。

 ごくり、と生唾を飲む。名無しの銃をぎゅっと握りしめる。

「名無しさん? お姉ちゃん? ハイネくん?」

 中の様子が気になるが、やっぱり怖いので片足だけ洞窟の中に入れ、そっと内部へ呼びかける。大声を出したつもりはなかったが、それでも洞窟内には反響する。

(いない、よね?)

 返事が返ってこなかったから、と自分の中で勝手に結論づける、さっさとUターンして帰ろうとしたとき、

「メール、なのか? そこに……いるのか?」

 聞き慣れた少年の声が聞こえた。

「ハイネくん!? 洞窟の中にいるの?」

「くそ、空耳であってほしかったが……」

 変だ、メールは思った。ハイネの声にいつもの元気がない。

「大丈夫? 今からそっちに行くから」

「ダメだ! こっちに来るな!」

「メールお願い、来ちゃダメ!」

 これもまた、聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。

「お、お姉ちゃん!? お姉ちゃんもそこにいるの?」

 洞窟の暗がりで中の様子は何一つ理解できなかったが、ただ一つだけ、メールにも察せられることがあった。

「……そこにいるの? 手紙屋殺しが……」

 返事はない。それがメールには肯定だと受け取った。

(お父さんとお母さんを殺した人が、そしてお姉ちゃんとハイネくんも殺そうとしている人が、この先に……)

 メールは意を決して震える足を踏み出す。松明の小さな明かりを頼りに洞窟の中を進んでいった。

 そして——


          *     *     *


「……へ?」

 メールの目の前には信じがたい光景が映っていた。

「……くそ」

 血を流しながら地に伏しているハイネと、

「……どうしてきちゃったのかしらね、メール」

 大斧を構えながら彼を見下ろしているフーリエの姿だった。

「え? え、ハイネくん? お姉ちゃん? なんでハイネくんが血を流して倒れているの? どうしてお姉ちゃんは斧を手に持っているの? それじゃまるで——」

 メールはひどく混乱する。

「——まるで、お姉ちゃんがハイネくんを殺そうとしてるみたいだよ……」

「メール! 早く引き返すんだ! フーリエだったんだ! フーリエが手紙屋殺しだったんだ! ロウェナでも、さっきの殺人も、そしてお前の両親を殺したのも! 全部フーリエの仕業だったんだ!」

 早く逃げろ、もう一度メールに叫ぶハイネ。

「はあ……、もう何もかも話してくれちゃって。今のメールならまだごまかしようがあったかもしれないのに……」

 フーリエはハイネの脇腹を蹴り上げた。ハイネはうめき声を上げる。

「がっ……!」

(違う……こんなの、私の知ってるお姉ちゃんじゃない)

 メールはすがるように声をかける。

「お姉ちゃん、ほんとに……?」

「信じられないならそこで見とけば? 手紙屋のハイネが今から殺されるのを。そしたらさすがに信じられるかもね」

 フーリエは斧を振り上げる。ハイネは動かない。傷が深すぎて身動きが取れないのだ。

「クソッ……!」ハイネは目をつむった。

「バイバイ、ハイネ」

 フーリエは情け容赦なく大斧を振り下ろし、

「…………」

 ハイネに刃が突き刺さる寸前で止まった。

「……何のつもりかしら? メール」

「メール、お前……!」

 異変を感じ、目を開いたハイネも驚愕の表情でメールを見ていた。

 メールも自分の行動に思考がついていっていなかった。

 ただ手に持っていた銃をフーリエに向けていた。見様見真似で引き金に指をかける。

「それ、あいつの銃よね? ったく何やってんだか。武器の管理くらいしっかりしといて欲しいもんだわ、メールもそう思わない?」

 銃口を向けられているというのに、フーリエは余裕の表情だった。

「……で、撃つの?」

 メールの体がビクッと震える。

「撃ちたいわよねえ。あたしはメールにとって両親の仇だものねえ。憎いでしょう? 撃ちたいでしょう? 殺したいでしょう?」

「ダメだメール、耳を貸すな。撃っちゃダメだ。早くここから逃げるんだよ!」

「あんたは黙っとく」

「がっ!」

 再び蹴りを入れられハイネは悶絶する。

「ハイネくん……」

「どうする? このままだとハイネ死んじゃうわよ? 見捨てられるなら逃げるのもアリだけど。死なせたくないんなら、撃つしかないわよねえ」

「…………」

 撃たなきゃ、頭ではそう思っても体がついていかない。手が震え、狙いが定まらない。

「こうしましょう。メール、あんたを先に殺してあげる」

「ま、待て! メールは、手紙屋じゃないだろう。手紙屋殺しは手紙屋しか殺さないんじゃなかったのか?」

 ハイネが声を振り絞る。今の彼は非常に危険な状態だが、それでもメールの身を案じてくれているのだ。

「うーん、まあそうなんだけどね。だからといって正体を知った一般人をそのまま野放しにするかっていうと、それはまた別問題なのよね」

 フーリエは斧を構えて、一歩一歩メールに近づいてくる。

 撃たなきゃダメだ。メールはそう思った。フーリエはメールの両親を殺して、他のたくさんの手紙屋を殺して、今はハイネを殺そうとしている。

(お願い、止まって涙、手の震え止まって)

 撃つならフーリエが油断している今しかないんだ今がチャンスだ撃って撃って撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て

「ああああああああああああああああああああああああっ!」


 それでもメールは、引き金を引けなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ