どこにでもいる、手紙屋の一人
「…………」
名無しは二人の墓の前で随分長いこと立っていた。
フーリエとハイネが村長の家を飛び出して、メールがまだ寝ていることを確認してから、記憶と雪に残った足跡を頼りにして来た。
近くで見ると、それはそれは立派な墓だった。ナンナの住人の二人への思いがよく分かる。
「なんじゃ、家におらんと思ったら、ここにおったのか」
名無しが振り向くと、村長が杖をつきながらこちらに向かっていた。
「亡骸は埋めておいたよ、若いものに頼んでな」
村長が指差した先、メールの両親の墓の隣には、ドーム型に土が盛られた簡易的な墓がつくられていた。
つい先ほど殺された手紙屋の墓だった。
「今はまだ村が混乱しておるからその場しのぎのものしか作れんが、あとでアランとシゼルのような綺麗な墓をつくるよ」
「そうか……。メールの親の墓をつくったんだな」
「彼女の両親、アランヤとシゼルには私たちも感謝してもしきれんほどの恩があるからの」
「礼を言う」
「……メールのことはすまなかった。他にやり方があったのかもしれんな」
「いや、あんたは正しい。いずれは知らなければならなかったんだ」
そう、いずれは。名無しは消え入るような声で最後の言葉を呟くと、唇を噛んだ。
「ところでおぬしは、アランヤ、シゼル、そしてメールの親戚か何かか?」
「いや、俺は……」
名無しは静かに踵を返し、村長の脇を通り過ぎる。村へと戻る。
「……俺はどこにでもいる、手紙屋の一人にすぎない」
* * *
名無しは村長の家に戻った。メールはまだ寝ているだろうか、と寝室に入る。
しかし寝室には誰もいなかった。
「メール?」
返事はない。眉根を寄せながら家の中を捜す。しかしどこにもいなかった
(いったいどこに……外か?)
ふと机の上を見ると、名無しが置いていた銃がなくなっていた。
「……クソッ!」
名無しはドアを蹴破る勢いで村長の家を出て行った。




