殺すためじゃない
家の中はしんと静まり返っていた。さんざん泣いて、ようやく落ち着いたメールはベッドから体を出し、寝室の扉を出た。
「お姉ちゃん? ハイネくん?」
しかし隣の部屋には誰もいなかった。
「……名無しさん?」
それどころか家中をまわっても人っ子一人いない。
「……? 外にいるのかな」
メールは一旦寝室に戻ってコートを羽織り、しっかりと防寒対策をして家の外へ繰り出した。まだ辺り一帯に雪が敷き詰められ、解ける気配はない。
「お、お嬢ちゃん。落ち着いたかい?」
メールが目を覚ましてから最初に声をかけてきたのは、メールが村で最初に声をかけた、村長にメールを紹介した男の人だった。
「は、はい。なんとか」
実のところまだ大丈夫ではないが、それを言っても仕方ない、メールははにかみながら嘘をついた。
「あの、私と一緒にいた三人の手紙屋がどこに行ったか知りませんか」
「え? あー、うん。たしか二人くらい村のはずれの洞窟へ向かったような」
「二人、ですか」
「そう、女の人と男の子だったかな……違ったような。ごめん、あんまり覚えてないんだ。ちらりと見ただけだったから」
「いえ、気にしないでください。ありがとうございます」
ところで。メールは息が詰まりながらも、口を開く。
「手紙屋を殺した人は捕まったんですか?」
「いや、まだ捕まったという知らせはないよ」
ドキン、とメールの胸が大きく跳ねた。嫌な考えが頭の中で渦巻く。
(お姉ちゃんたち、もしかして手紙屋殺しを捜して……)
名無したちのおかげもあり、メールはまだ、死体を直接見たことはない。しかし、死というものが二度と動かなくなることという漠然とした理解はあった。
そんな想像に背筋にぞわりと悪寒が走った。体中の感覚が麻痺していく。
「あ、ありがとうございました。じゃあ私はこれで!」
短く礼を言うと、足がもつれそうになりながらも、倒れるように村長の家へ駆け込んだ。
「はっ……はっ……!」
入り口のドアを背中で閉じると、そのままぺたんと座り込む。動悸がする。
(ダメ……お姉ちゃん、ハイネくん、名無しさん! 手紙屋殺しを追っちゃダメ……! その人はきっとお父さんとお母さんを……)
フーリエと名無しの強さは一緒に旅したメールもよくわかっている、ハイネもロウェナでメールを助けてくれたときにその強さはよく見ている。
でも、だけど、もし……。
メールの頭に最悪のビジョンが映る。名無しとフーリエ、ハイネが二度と動かなくなる、そんなイメージに支配されていく。
「っ……! 嫌……!」」
体の震えが止まらない。全身から気持ち悪い汗が吹き出す。過呼吸にでもなりそうなくらい息が荒い。でも、落ち着かせることができない。我ながら情けないと思う。
(止めないと。もう誰かが死ぬのを見るのは……)
でも私に何が……、そう考えていたメールが顔を上げると、机の上に置かれた名無しの銃が目に入った。
「…………」
そっと、それに手を伸ばす。銃はひんやりと冷たく、ずっしりと重たい。今までの旅で名無しが使うのを何度も見たのでだいたいの使い方はわかる。
(……これは自分と大切な人を守るためのものなんだ)
メールは掃除分に強く言い聞かせた。
決して、誰かを殺すためじゃない。




