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名無しの手紙  作者: 山本良磨
第6話 ナンナ編
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お願い、死なないで……

「………………」

「メール……行くぞ」

 メールの手を誰かが掴んだ。顔は俯いたままだが、メールはそれが名無しの手だと分かった。彼が体を引き上げようとし、メールはとくに抵抗することなく従った。体の動かし方が分からず、この体が自分のものではないという気さえした。

 名無しに体の九割以上を支えてもらう形で、ゆっくりと墓場から集落へと戻る。名無しは本当にゆっくりと、力の抜けたメールの恐ろしく重い足取りに合わせてくれた。

 行きより何倍も時間をかけて村に帰ってくると、二人がナンナに到着したときと比べて、村の中が明らかにざわついていた。

 村長にメールを紹介した男がこちらを見ると大慌てで駆け寄ってくる。

「村長! ああよかった、ご無事で」

「何かあったのか?」

「村で人が死んでいたんです。傷口からおそらく殺人かと」

「なんじゃと!? 殺されたのは誰じゃ!」

「それが、その……」

 男はメールの方を一瞬ちらりと見て、言いにくそうに小さな声で告げた。

「……手紙屋です。また手紙屋が殺されました」

「殺、され、た?」

 耳に入った言葉をそのまま鸚鵡返しする。村長と村の男、そして名無しも一斉にメールに注目する。

「また、死んじゃったの? 手紙屋が……殺されちゃったの?」

「…………」

 村長と男は気まずそうに目を逸らす。名無しだけが未だにメールを見続けていた。

「死んだのは、誰ですか? また、私の知り合いですか?」

 こぼれた涙が雪の上に落ちる。もう涙は全部出し尽くしたと思ったのに。

「今度は誰が殺されるの? お姉ちゃん? 名無しさん? それともハイネくん?」

「おいメール、落ち着け。考え過ぎだ。俺たちはまだ誰も死んでいない」

 名無しが抑えようとするが、メール自身も思考の制御がきかなくなっていた。耳を塞ぎ、うずくまり、金切り声をあげる。

「嫌だ! 嫌だ! もう何も見たくない! 聞きたくない! 知りたくない!」

「おい! メール、どうしたんだ! いったい何があったんだ」

 半錯乱状態のメールに声をかけたのはハイネだった。サクサクと雪を踏みしめながら近づいてくる。

「なんだなんだ。震えて、こんなに寒いのに体が汗びっしょりじゃないか! しかも泣いて……」

 尋常ではないその様子にハイネは本気で心配していた。

「ハイネ、くん……」

 大粒の涙を流しながら、メールは力一杯ハイネに抱きついた。

「! ……!?」

 突然のことにハイネは言葉にできないほどうろたえたが、やがてメールの頭をそっと撫で始めた。

「ハイネくん、ハイネくん。お願い、死なないで……」

「……嫌な夢でも見たのか? 大丈夫だ。俺は生きてる。死んだりしねーよ」

 人ごみの中からもう一人、手紙屋が姿を現した。フーリエは悲しい目をしていた。

「メール……知ってしまったのね」

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