お父さんとお母さん
雪で埋もれた道をメールは進む。村長は杖をついてゆっくりと確実に歩いていた。余計なお世話かもしれないが、いつよろついても支えられるように村長の側を離れなかった。
「もしかして、お父さんとお母さんはここにいたりしますか?」
「ああ。そうだな……」
「本当に!?」
メールはガッツポーズをして喜んだ。ハルモニアで確実な手がかりが手に入ったとはいえ、まさか本当に会えるとは思っていなかった。
(会えるんだ……。お父さんとお母さんに、ついに! 会ったら何を言おう? 久しぶり、かな? でもなんか他人行儀。ずっと心配してたんだから……、これは厚かましいかな? もういっそ何も言わずに抱きついちゃおうか……?)
メールが思いを巡らせる中、村長はゆっくりと口を開いた。
「アランとシゼル、じゃったかの。あの二人は本当に素晴らしい手紙屋じゃった。親切に手紙を届けてくれただけでなく、若い者が不足しているこの村で、力仕事までしてもらった。この村に住む全員が彼らに感謝しておるよ。まさに手紙屋の鑑じゃった」
「ありがとうございます! 娘として嬉しいです!」
両親のことをほめられて、少しだけ照れくさくなった。
「あやつら、とくにシゼルは、何かにつけお主のことを口にしておったよ、メール。お主のことを話しているときの二人は本当に幸せそうじゃった」
二人は雪道を歩き進む。どんどん村から離れていく。メールはちらりと後ろを振り向いた。小さくなっていく家が見える。
「あの、村から離れてこんな山奥に来て……。お父さんとお母さんはどこにいるんですか?」
「ああ、もうすぐ会える。二人は喜んでおるじゃろう。愛する娘が会いにきてくれたのじゃから……」
メールの前を進んでいた村長は、脇にそれてメールに道を開ける。
「……きっと、天国で喜んでおるじゃろう」
メールの瞳に映ったのは、横に並べられた、二つの墓だった。
「……え?」
メールの頭の中が一瞬で真っ白になった。
「え? え? え?」
「やはり知らなんだか、二人が既に亡くなっていることに。じゃが今更嘘をつくこともできん。こうしてありのままを伝えることしかできなんだ。許しておくれ」
(………………)
村長が何か言っていたが、何を言っているかわからない。まるで急に世界から音が消えたかのようだった。
(うそ……。だって、お父さんとお母さんは……)
——メール、元気にしてた? お母さんたち、今帰ってきたわよー。ほーら、ただいまのチュウー!」
(まだ……、生きて……)
——メールも手紙屋になりたいのかい? そりゃお父さんも嬉しいけど……無理になろうとする必要はないんだよ。メールがなりたいものになってくれるのが、お父さんは一番嬉しいんだ。
(今もどこかで、手紙を配達して……)
——なら私の両親と話をさせてください!
(っ……! 嫌だ嫌だ。ダメ……。考えたくない!)
メールは今頭によぎった考えを振り払おうとした。しかし拒絶しようとすればするほど余計に意識してしまう。
思い返してしまうのは、死者を呼び寄せるというラ・クリマの霊媒師との会話。
『メール! ああなんてこと……メール、そこにいるのね!』
「あ、ああ……。ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
メールは崩れ落ちた。声が嗄れるほど叫び、涙が涸れるほど泣いた。枯れ木と白い雪原の下、それは空しく響いた。
* * *
両親の墓の前でただ泣き叫ぶメールを、
「メール……」
名無しは遠くから静かに見ていた。




