鎮魂の雪降る村 ナンナ
「とうとう、やってきましたね」
ハルモニアで得た父と母の手がかりを辿って、メールと名無しはナンナにたどり着いた。
ナンナは小さな村だった。大きさはリリアーヌと同じくらいかもしれない。
しかし、広さ以外は何もかも違った。家はどれも屋根が赤色に塗られ、どこか民族的な雰囲気を感じさせる。
何よりも、地面には一面雪が積もっていた。メールが足踏みするたびにサクサクと音を立ててへこんでいく。感触も実に心地よい。
熱帯育ちのメールだが、雪は両親やフーリエからの土産話に出ていたので知っていた。過去に母親が、どうしても雪を見せたいと言って巨大な雪だるまを北の地方から大急ぎでリリアーヌへ持ってきたという珍事があった。今思い出してもあの母親の必死な顔が忘れられない。
(ここにお父さんとお母さんの手がかりがあるかもしれない……、ううん、絶対あるはず!)
メールは気持ちを引き締め、村に入るや否や、そとにまばらにいた住人に聞き込みを始めた。
「……あれ?」
しかしふと気づくと名無しはついてきていなかった。ずっと入り口の門にもたれかかったままだった。
「名無しさん?」
「…………」
返事はない。ナンナに近づいてから名無しはどこか元気がなかった。普段はメールが見つめていると、嫌々ながらも見返してくれるが、今はメールと頑なに視線を合わせようとしない。
「大丈夫ですか? どこか調子が悪いんですか? まさか、また寝てないとか?」
「…………」
「一緒に行きましょう? それとも先に宿屋で休みますか?」
「いや、お前一人で行ってこい」
「でも、一緒に行かないとロウェナみたいに——」
「この村は大丈夫だ。襲われるような危険な村じゃない。俺は少し気分が優れないんでな。少しここで落ち着かせてくれ」
「わ、わかりました。早めに宿屋に行って休んでくださいね」
名無しの言葉を受け、メールは聞き込みに戻った。少し心配で何度も名無しの方を振り返りながら歩いた。しかし何度見ても、彼は微動だにしていなかった。
(本当に大丈夫かな?)
とはいってもずっと気にかけるわけにもいかない。名無しはそういう気にされることが苦手だとメールは知っていた。仕方なく名無しの位置を頭の中に記憶しながら、そばを歩いていた村の男に声をかけた。
「あの、すみません。この村で夫婦の手紙屋を見かけませんでしたか? ここに来たはずなんですけど」
「え……? 君は……」
「その手紙屋の娘です。急にこんなことを聞いてすみません。でも両親はこの村に来たはずなんです。覚えがありませんか? それか知っている人がいたりとか」
「あっ——」
男性は何か気づいたように声を上げると、はっきりと分かるくらい目を泳がせた。
メールはこの村に両親が来たことを今はっきりと確信した。
「何か、知ってるんですね! 知っていること、教えてください。お願いします」
メールは声の勢いそのままに頭を下げた。
「君が……、そうなのか?」
何が、と訊き返す前に、「ついてきてくれるかい?」と男性はそう告げて歩き出した。メールは雪を踏みしめながら彼のあとに続く。
家の角を曲がるとき、もう一度だけ入り口の方を見返したが、名無しはまだそこにいた。
メールが男性に連れてこられたのは一軒の家だった。男が扉をノックすると中から老婆が出てきた。
「村長、話が。実はこの子——」
男性は老婆にメールのことを説明し始めた。話が進むたびに男の声が小さくなっていき、次第にメールには聞きとれなくなっていく。
メールは説明を聞くことを諦め、立った今出てきた老婆を観察し始めた。白い髪と、顔に刻まれた皺の数を見る限り、かなりの高齢なのだろう。体も腰が曲がり、手には杖を携えている。
やがて説明が終わったのか、男は老婆に小さくお辞儀をし、メールにも頭を下げてその場を去っていった。残されたのはメールと老婆の二人だけだ。
老婆がゆっくりと口を開いた。
「さて、まずは自己紹介を。私はこの村の村長じゃ」
「は、はじめまして。私、メール・イアハートといいます。アランヤ・イアハートとシゼル・イアハートの娘です」
「そうか、お主が……」
村長はくるりと踵を返し「ついておいで」と一言。玄関を出て村の中を歩き始めた。メールは白髪の老婆を追う。




