前を向いて
黒い髪を踊らせながら、元気よく馬車乗り場へと歩いていくメール。その後ろをついて歩く名無しは昨日のことを思い出していた。
昨日の昼。霊媒師の屋敷から、怒ったメールと沈んだアルバが出て行った後のことだ。
「待って! お願いです。話を聞いてください。……彼の母親は、何も話さなかったのですか?」
「……そうだ」
「そうですか……。たまにいるんです、霊媒師しても黙ったままで話したがらない人が。あの少年に伝えてくれませんか? 母親が何も言わなかったのは、きっと生きているあなたに前を向いて欲しいからだと。既に死んでいる人に、過去に囚われて立ち止まって欲しくないからだと」
「……随分都合のいい解釈だな」
「霊媒している間は、私は眠っている状態なのですが、まるで夢を見るように、あの世から呼び寄せた人の思いが伝わってくるのです。ぼんやりとですが、あの子の母親は、嫌で無視しているのではなく、彼の未来を思って、心を鬼にしているのだと……。そう伝えてくれませんか?」
「……気が向いたらな」
「ええ。期待しています。……ところで、あの女の子はどうしてあんなに怒って——?」
「あいつのことは気にするな」
名無しは即答して、そのまま屋敷を後にした。
* * *
霊媒師の考えていたシナリオとは少し、いやだいぶズレた、強引なものだったかもしれないが、
(ま、別にいいか)
この件についてこれ以上考えたくなかったので、名無しは適当に結論づけた。




