Rides 小さい波
出産報告の手紙屋をすべて配り終え。メールたちがロウェナを発ったあとの話。
ヒースクリフ・ターナーは病院にいた。目の前のベッドには母親となったセラ・ターナーと、布にくるまれた赤ん坊がいた。
「……でも実際ヒヤヒヤしたよ。セラはセラで大変だったし、メールちゃんとハイネくんは夜の町へ飛び出したし」
「私、頑張ったわよ。何回か諦めそうになったけどね」
「ああ。本当にありがとう。よく頑張ってくれたよ」
「どういたしまして。あなた」
部屋に優しい光が降り注ぐ。太陽は真上から少し左へずれる。暑さはこれからがピークだった。
そう言えば、とセラが口を開く。
「考えた? この子の名前?」
ヒースクリフはその質問を待ってましたとばかりに、
「そう、閃いたんだよ! 頭にビビッと降りてきたんだよ、名前が」
「名前が? 降りてきた?」
「そう。天から」
ヒースクリフは左の人差し指を、すっと頭の上に向けた。動きに伴って木製の義手がカランコロン、音を奏でる。セラは微笑む。
「じゃあ聞かせていただこうかしら? その天から降りてきた、この子の名前を」
そしてヒースクリフは口にした。自分たちの子どもの、名前候補を。
それを聞いたあと、セラはふふっと優しく笑う。
「あの子の影響を受けたのかしら?」
「あたり。ダメかなあ?」
「ううん、素敵な名前ね」
素敵な名前……。セラはもう一度静かに繰り返した。
「彼女のように、人の幸せを願い、喜び、共に笑う。人の不幸を悲しみ、寄り添い、共に泣く。そんな、思いやりのある優しい子に育ってほしいわね」
母親は体をゆっくり横に倒し、赤ん坊と向かい合った。その小さな体を抱きしめ、頬にそっとキスした。ヒースクリフも体を寄せ、二人を優しく見つめる。
「これからよろしくね。『リッド』。リッド・ターナー」




