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名無しの手紙  作者: 山本良磨
第4話 ロウェナ編
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ポートタウン ロウェナ

「名無しさん、早く外に行きましょうよ」

 メールは宿屋で割り当てられた部屋のドア付近で、ぴょんぴょん跳ねながら名無しに催促した。

 対して名無しはベッドの上に寝転がって動こうとしない。

「まだ町に着いたばかりだろ。少しくらい休ませろ」

「名無しさんは手紙屋じゃないですか。早く手紙を届けてあげましょうよ」

「そんなに急ぐ必要もないだろう。俺が一回くらい休んでからでも遅くはないはずだ。だから俺は寝る」

 もはやてこでも動かないという状態の名無しに対して、じゃあ、とメールは提案する。

「それなら私が一人で町を回ってもいいですか?」

「それはダメだ」名無しは即答した。

 それだけ告げると名無しは一分もせずに寝息を立て始めた。よっぽど疲れていたのだろう。

 メールはずっとそわそわして落ち着かなかった。その理由は窓から見える風景にあった。

 そこに広がるのは海。漁村リリアーヌで生まれ育ったメールにとってはありふれた光景。そして名無しと旅に出て以来一度も見てこなかった風景だった。

 ただの水ならシルメリアでも見たが、やはりメールにとって海と川は天と地ほどの違いがあった。

 メールはそっと名無しの様子をうかがった。大いびきをかいて豪快に寝るフーリエとは正反対で、スースーと静かに眠っている。

 外に出るか、名無しが起きるまで待つか。少しの間メールは葛藤したが、結局は海の魅力が勝った。

(シルメリアでも、一人で病院まで行ったことあるし、リリアーヌのときみたいに町の外に出るわけじゃないから、大丈夫だよね)

 自分にそう言い聞かせ、名無しを起こさないように細心の注意を払いながら、そっと部屋を抜け出した。


          *     *     *


 ポートタウン・ロウェナ。大陸の北東に位置するこの港町は、主に漁業を営むリリアーヌとは違い、自国と外国との間の商業で回っている町である。そのためリリアーヌよりは、それなりに活気が溢れている。

 メールは大きく深呼吸をして、潮の香りを胸一杯に吸い込む。

(やっぱりどこにいても、海は変わらないや)

 新商品の宣伝や楽しそうな話し声を聞きながら、うきうきした気分でメールは町の大通りを歩いていく。

「お嬢ちゃん」

 突然後ろから声をかけられて、メールは振り向く。そこには黒いスーツに身を包んだ男性がいた。

「すまないが私の眼鏡を見なかったかい? この近くで落としたはずなんだが、どうにも目が悪くて見つからなくてね」

 メールは自分の記憶を辿ってみたが、心当たりがなかった。

「いえ、見てないです。よかったら一緒に探しましょうか?」

「本当かい? それは助かるよ。表をこれだけ探しても見つからないってことは、もしかしたら裏道に落としたのかもしれないな……」

「それじゃ探しに行きましょう」


挿絵(By みてみん)

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