12月25日(6) 名前も知らない手紙屋へ
「名無しさん!」
メールが、ポストの前にいる名無しへ声をかけてきた。手紙を回収したあとに、もう一度宿屋に戻るつもりだったのだが、メールは準備を終えて来たようだ。今の名無しにとって、それは好都合なことだった。
「フーリエは来ないのか?」
「えーと、多分……」
「もういいのか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「まだ、俺についてくるのか?」
「はい、一緒に行かせてください。というか、名無しさんは手紙の私を届けないといけないんですよ?」
「……それだけ言う元気があるなら大丈夫だな」
一応、姉としばらくの別れになるので、気を使ってみたが、いらぬ心配だったようだ。
「というか、名無しさん、コートはどうしたんですか?」
名無しがコートを着てないことに、メールは反応した。もっとも、気づかないほうがおかしいが。名無しは軽く流す。
「……破れたから捨てた。それよりも、問題はこっちだ」
二人の目の前にあるのはエルレ・ガーデンのポスト。しかし、その投函口にはとても入れられない大きさの包みが無理矢理ねじ込まれていた。その結果、ポストには先端しか入らず、黄土色の包みの大部分が飛び出しているという異様な光景になっていた。周りの人たちもひそひそと囁きあっている。
「なんなんでしょうね、これ」
名無しは無言で、問題の荷物を引っこ抜き、全体を一通り眺めた。そして眉間のしわがさらに深く刻まれる。
「ね、それ、誰からの贈り物ですか?」
「サンタクロース」
「え?」
「送り主にはそう書かれている」
名無しは大きな包みの、一ヶ所を指差して見せた。
「じゃあ。じゃあ、宛先はどこですか?」
「……屋」
「なんて言いました? もっと大きな声で言ってくださいよ」
「名前も知らない手紙屋へ」
メールが驚いて目を見開いた。そして名無しの顔を覗き込む。
「それって、名無しさんのことですか?」
「……そうとは限らない」
「絶対名無しさんですって! それ以外いないでしょう! よかったじゃないですか、名無しさんも、サンタさんからプレゼントもらえたんですね。開けてみましょうよ、ね?」
だから俺のものとは限らない、と繰り返したが、構わずメールは包みを開けていった。あとで復元できるように丁寧に包装を開けている姿を見ると、万が一のことは考えているようだ。
そして、黄土色の包みの中から姿を現したのは、
「コートですよ! 黒いコート、男性用の! ちょうど名無しさんにぴったりな大きさです。やっぱりこれ、名無しさん宛ですって」
よかったですね、とメールが自分のことのように、プレゼントを嬉しそうに見せてきた。
そのとき、名無しは思い知った。
確かに宛先の『名前も知らない手紙屋』は名無しのことだろう。そもそも、サンタとかかわりがある人間は、名無しと盗人兄弟しかいないのだ。『手紙屋』とあれば、それは名無ししかいない。
そして、サンタクロースは名無しのコートがないことも知っていた。戦いの場に破れたコートが打ち捨てられていたのを見たのだろう。
であれば、これはメールの言う通り、まさに、サンタから名無しへのクリスマスプレゼント、ということになる。
しかし、アールザード王国でクリスマス文化のある町を一通り回ったあと、一人分のコートを作り上げるなんて、離れ業もいいところだった。
「ね、着てみましょう? 着てみましょうよ名無しさん」
微笑みながらメールは提案してきた。名無しに向かってコートを広げている。
「別にいい、寒くないから」
しかし、サンタの計らいに素直に乗るのは、なんだか癪だった。
「えー、名無しさん。絶対似合いますって。というか名無しなんが着てくれなかったら、このコートどうするんですか」
「知らん、お前が持っとけ」
「えー!」
名無しは、それだけ言ってつかつかと前を歩き始めた。後ろからコートを持ちながら、よたよたとメールはついてきていた。




