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名無しの手紙  作者: 山本良磨
第2話 エルレ・ガーデン編
27/72

12月25日(5) 信じた通りに

「これからどうするんですか、名無しさん?」

「まずは最後のポストのチェックをしてくる。それが終わったら手紙を持って次の町へ行く。今のうちに準備をしておけ」

 はい、元気よくメールは返事をした。よほど嬉しいのか、室内だがプレゼントのコートを羽織ったまま、ぴょんぴょん飛び跳ねている。

 名無しは部屋を出て、宿屋の出入り口に向かう。

「ちょっと待ちなさい!」

 その途中で呼び止められた。振り返るとフーリエが立っていた。昨日も似たような場面があった気がしたが、それと比べるとフーリエに威勢がない。いつもの勝ち気の彼女と比べると、なよなよして、幾分か年相応の女性にも見えた。

「あんた、あれはどういう、つもり?」

「あれ?」名無しはすっとぼけた。

「メールのプレゼントのことよ!」

 フーリエはずかずかと寄ってきて名無しの胸ぐらを掴み、至近距離で小さな声をだす。メールに聞かれないようにするためだろう。

「どうして、あの子のプレゼントがあるの? あんたがあの子に用意したの?」

 フーリエは困惑の表情を浮かべている。よほど名無しがメールのプレゼントを用意したことが信じられないのだろうか。名無しにとってもアレは不本意な形であったが。

「別に俺は何もしていない。サンタクロースが届けてくれたんだろう」

 名無しはフーリエの腕を振りほどく。フーリエは何も知らない。サンタがいることも、昨晩の事件も、名無しのプレゼントのことも。別に真実を言う必要もないし、言う気にもならない。あまりにいきさつが複雑すぎた。

「そんな、サンタクロースなんて、いるわけが……。でも、それじゃアレは……いったい……」

 勝手に悩んでいるフーリエを放っておいて、名無しはポストへ向かった。


          *     *     *


 フーリエが廊下から戻ってきた。名無しと何か話をしていたようだが、部屋の中にいたメールには聞こえていなかった。

出発の準備をしながらメールは横目でフーリエの方をちらちらと見る。

(言うなら、多分今しかない……多分)

「お、お姉ちゃん」

 一瞬、リリアーヌでの口論がフラッシュバックする。しかし、引き下がるわけにはいかない。

「あの、昨日お姉ちゃんが言っていたことなんだけど」

 ——町の外に行きたいなら、あたしが一緒に連れていってあげられるのよ。別にあいつじゃなきゃいけない、なんてことはないでしょう?

「お姉ちゃんが言ったこと、よくわかる。私のこと本当に心配してくれているんだなって思った」

 フーリエは何も言わない。そっぽを向いて俯いている。随分とおとなしかった。

「でも、私ね、名無しさんと行きたい。自分でもよくわからないんだけど、名無しさんと一緒に行けば何かわかるかもしれない、お父さんとお母さんに会えるかもしれないって思ったの」

 そこまで言って、メールはあっと口をつぐんだ。

(しまった! 今のは『お姉ちゃんと一緒に行くとお父さんとお母さんに会えない』ってとることもできちゃう)

「ち、違うの! えーっと、今のはなんというか。別にお姉ちゃんのことを悪く言ったわけじゃなくて、その——」

 言葉選びに必死になりながらも、メールは違和感を感じていた。いつもならこちらの方を向いて何かを言っているはずだ。でも今日はなぜか反対側を向いたまま一切動こうとしない。

 何も言わないフーリエに対して、若干の罪悪感をもったが、もう引き下がれない。半ばやけくそになりながらメールは叫んだ。

「と、とにかく! 私、名無しさんと行くから! 私が信じた通りにやってみるから! じゃあバイバイ!」

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