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名無しの手紙  作者: 山本良磨
第2話 エルレ・ガーデン編
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12月25日(3) 仕事じゃ

 しばらくして、サンタがトナカイに乗って空からやってきた。

「いきなり空が光って何事かと思ったが、やはりお前さんの仕業じゃったか」

 名無しは黙ってサンタクロースを迎えた。銃はもう使う必要はないが、しまうコートもないので、手に持ち続けたままだった。

「手紙屋、コートは……」

「今そんなこと言ってる場合じゃないだろ」

 名無しはぴしゃりと言った。サンタが立っている場所から少し離れたところに、無惨に喰い千切られたコートの残骸が転がっていた。

「そうか……で、この人たちが犯人かの」

 サンタが目を向けた先にはおとなしく座っている盗人弟と、仰向けに転がっている盗人兄がいた。とくに縄などで縛っているわけではないが、逃げるつもりはないようだ。もしくは逃げられないとわかっているのか。二人の背後では、魔物たちが全員おすわりの体制をとっている。

 兄はまだ気絶していた。

「ほれ、起きなさい」

 サンタが兄の頬を優しく叩く。ほどなくして兄は気がついた。

「……サンタ、クロース」盗人の兄が上の空でそう答えた。

「そうじゃ。教えてくれるかの、どうしてこんなことをしたのかね?」

 兄は跳ねるように動き、サンタの前に土下座する形になった。弟もそれに続く。

「すみませんでした! 俺たちどうしてもプレゼントを故郷の子どもたちに届けてやりたくて、それでつい……」

 名無しは思わず溜息を漏らした。なんて浅はかな嘘をつくのだろうか。その証拠に横にいる弟が土下座しながら驚きの目で兄を見ている。せめて口裏くらい合わせとけと言いたかった。

「そうじゃったのか……それはサンタクロースとして子どもの声に気づけなかった儂にも責任はあるかのう」

 しかしサンタが発したのは驚きの答えだった。一瞬耳を疑う。

「お前さんたちの故郷では、今までクリスマスの文化がなかったのじゃな。最近は年のこともあって、さすがにアールザード王国すべての町を回るわけにはいかなくてのう……申し訳ないとは思っていたのじゃが、文化そのものがない町はプレゼントを届けてなかったのじゃ。しかし、だからといって盗むのはいかん! このプレゼントは届くのを心待ちにしている子どもたちへのプレゼントなのじゃからな」

 腕を組みながら唸っていたサンタクロースが、やがて決心したように大きくうなずいた。

「……よし、これからはお前さんたちの故郷にもプレゼントを届けることにしよう。町の名前は何かな?」

 ほ、『ホ・ルス』です、と弟が気の抜けた返事をする。

「……………」

「それでいいのか、とでも言いたそうな顔じゃのう」

 サンタは、ずっと黙り込んでいた名無しの顔を見て言った。

「確かに今の言葉は、その場しのぎの嘘なのかもしれんのう。しかし手紙屋、わしはサンタクロース。子どもにプレゼントを届けるのが仕事じゃ。子どもの幸せのためなら、たとえ嘘がきっかけだとしても、それに応えるまでじゃ」

 兄弟は口を開けてぽかんとしていた。信じられない、きっとそんな気持ちだろう。

「……好きにしろ」

 彼がそこまで言うのであれば、止める義理もない。ここから先はサンタクロースの問題だ。もう自分には関係ない、そう思いその場を去ろうとして、

「待つんじゃ、まだ全部終わったわけじゃないぞ」

サンタに呼び止められた。

「……なんだ」

「なんだもなにも、問題は何も解決しておらんぞ」

 そう言ってサンタが示したのは、兄弟が盗んだプレゼント袋だった。運河を泳いだために、すっかりびしょ濡れになっている。

「こんなになったプレゼントを届けるわけにもいかんじゃろ」

「……プレゼントをつくるのは専門外だ」

「そうじゃろうとも。もちろんプレゼントはわしが全部つくり直す。しかしもう朝まで時間がない」

 サンタの目線につられて、名無しも空を見ると、東の空が徐々に白み始めていた。

「仕方ないが、今年のクリスマスは少しだけ延期じゃ。儂はこれからまだプレゼントを配っていない子どもたちに延期の手紙を配るのと……君たちの町、ホ・ルスの子どもたちにもお知らせをしておかなければならんからの」

 サンタが泥棒兄弟にウインクした。

「ちょうど今まわる町が一つ増えたところじゃ、エルレ・ガーデンにクリスマス延期の手紙を配ることくらい手伝ってくれてもいいじゃろ」

「…………」

「ほれ、手紙を届けるのは手紙屋の仕事じゃろう! 二つ返事でハイと言わんか」

 拒否権はないようだ。視界の隅でサンタのトナカイたちが、名無しを挑発するように角をぶんぶん振っている。

 サンタクロースは気合いを入れ直すために、両手をあわせて、大きな音を立てた。

「よし、今から超特急で手紙を書く。それをエルレ・ガーデンの子どもたちに届けるのじゃ」

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