12月24日(4) サンタはいない
「それじゃ、私もう寝るね。お姉ちゃん、おやすみ」
「おやすみ、メール」
「名無しさんも、おやすみなさい」
「……ああ」
メールはベッドに横になって眠りはじめた。ほどなくして可愛らしい寝息の音が、名無したちの耳に入ってきた。
名無しは銃の手入れをしていた。リリアーヌで最後に使ってから、そう時間は経っていないし、特に銃を使うことはなかったので、メンテナンスなどする必要はない。しかし何もしないで起きているというのも暇だったので手でいじって時間をつぶしていた。
「ちょっとあんた」
背後から声をかけられて、名無しは振り向いた。フーリエが腕を組み、仁王立ちをしていたのだ。むすっとした表情で、世間話をするわけではなさそうだった。
「ここで話したらメールが起きるわ、外に出なさい」
それだけ言うと、部屋の扉を顎でしゃくり、外へ出て行った。
名無しは手入れしたての銃を握り、フーリエのあとに続いてドアをくぐった。部屋を出た先の宿屋の廊下ではフーリエが先ほどと同じ体勢で立っていた。
「で、どうするつもり? ちゃんと準備したの?」
「…………」
「あたしが二日間、メールをあんたからあえて離してた理由、わからないわけじゃないわよね」
「さあな」
「……もうすぐ12月25日、クリスマス当日ね!」
さっきよりも大きな声。しかし、名無しは物怖じすることなく淡々と言葉を口にする。
「そうだな」
「メールのプレゼント、届くといいわね!」
「きっとサンタクロースが届けてくれるだろ」
ぶちん。フーリエの血管が切れた音が、名無しにも聞こえた気がした。
「サンタはっ! いないのよっ! どこにもっ!」
フーリエの怒りが爆発した。メールが飛び起きてもおかしくないほどの大声だったが、もはや彼女にその判断はできないだろう。
「……やっぱりダメだわ、あんたなんにもわかってない! メールの手紙も中途半端に回収し損ねるし!」
どうやらフーリエは、メールの手紙を回収したのは名無しだと思い込んでいる。
(サンタはいるから、何も気にしなくていいんだけどな)
「……話は終わりか、なら俺は部屋に戻るぞ」
それだけ言って、名無しは、踵を返し、部屋の中に戻ろうとした。フーリエのわきを通り越す。
「随分余裕ね。その余裕はどこからきてるのかしら?」
「…………」
フーリエの言葉に名無しは歩みをピタリと止めた。ただでさえ冷えた冬の夜の空気が、いっそう張りつめた気がした。
「……何か言いたいことでもあるのか?」
「今ここであんたを犯罪者として逮捕することもできるんだけど? 知らないわけじゃないわよね、機械を持っていることがどういう意味なのか」
名無しは大きくため息をついた。
「……したいなら勝手にすればいい」
名無しは部屋に戻る行動を再開した。彼の全く動じない態度によほど腹が立ったのか、名無しがドアノブに手を伸ばすより先にフーリエがドアを開け放ち、一言「寝る!」と叫ぶと、ベッドに荒々しく飛び込んでいた。




