12月24日(3) どうしてもダメなの?
サンタの手紙がなくなったことに舞い上がっていたメールだったが、そのご機嫌な状態は長く続かなかった。
メールは見つけてしまったのだ。床に落ちていた、サンタ宛ての彼女の手紙を。
(なんで窓の外につけていたのが、部屋の中に?)
疑問を感じないわけではなかったが、それ以上に絶望的な真実がメールに重くのしかかっていたため、さして気にならなかった。
(きっと、私にプレゼントは届かないんだ)
朝食中も浮かない気分だったメールに対して、フーリエが必死のフォローをしてくれていた。
「メール、だ、大丈夫よ。封は開いてたんだから、サンタクロースも中身は読んでくれてるはずよ。だから今夜、絶対プレゼントは届くわよ」
「……そうかな?」
「ええ、きっとよ」
そんな中、名無しは手早く食事を食べ終え、仕事の準備をした。
「ちょっと。あんた、どこ行くの?」それをフーリエが引き止めた。
「仕事に決まっている。何か悪いか」
「……そうね、何も悪くないわ。行ってくれば?」
名無しが部屋を出たあと、あたりは重い空気に満たされた。
メールは戸惑っていた。メールの今朝の落ち込みがこの雰囲気に影響しているのは否定できないものの、それ以上に、名無しとフーリエの関係の問題があった。リリアーヌでは仲良くとまではいかなかったものの、家ではそれなりに話をしていたし、メールが村を出たときも、一緒に魔物から助け出してくれた。最低限の親交はあると思っていた。しかし、エルレ・ガーデンにきてからというもの、日に日に名無しとフーリエの仲が悪化しているようだった。どちらかというとフーリエが一方的に名無しを嫌っているようだが。
(プレゼントも気になるけど、今はこの空気をなんとかしないと……)
そのとき、メールは朝、名無しに言われたことをふと思い出した。この状態をなんとかできることを願い、メールは話しかけた。
「そうだ、お姉ちゃん」
「ん?」
「キカイ、って何?」
「……っ!」
フーリエはぎょっとした顔でメールを見た。
「……どこでその言葉を」フーリエの顔はこわばっている。
「名無しさんから。持ってたんだよ、キカイ」
「あいつ、余計なことを……」
「ねえ、教えて、お姉ちゃん」
フーリエは渋っていたが、小さくため息をついてから語り始めた。
「……機械っていうのは、簡単に言えば『自動で動くもの』よ」
「自動で?」
「もちろん制限はあるわよ。電気……って言ってもわからないわよね。動力って言えば伝わるかしら。つまり動くためのエネルギーは必要になるわ。でもそれさえあれば人が手を触れなくても自動で動くことができるのよ」
「自動で……」
「メールにわかりやすく言うなら、そうね……いつも手洗いでやっている洗濯が自動でできるわ」
「すごいっ」
日課である以上、仕方ないと思っていたが、やはりしんどさを感じていた洗濯。それが手をつけなくても自動で全部やってくれる。例えが身近である分、そのすごさをよく感じることができる。
「でもいい? メール、機械っていう言葉は闇雲に口にしちゃだめよ」
フーリエは唇に人差し指を当ててメールに警告した。メールは眉をひそめる。
「え? どうして?」
「……メールがもう少し大きくなって、しっかり勉強したら、きっとわかるわ」
それを言ったきり、フーリエは黙り込んでしまった。二人しかいない部屋は再びしんと静まり返った。
(状況がよくなるどころか、傷口に塩を塗っちゃたような気がする)
「……お姉ちゃん?」
メールが呼びかけても、フーリエはだんまりを決めこんでいた。いったいどうしたらいいのかわからずに内心ハラハラしていると、
「ねえ、メール」
フーリエはしゃがみ込み、メールと真正面で向かい合った。
「ん、何?」
「何度も言おうと思ってたんだけど、やっぱりこの旅は危険よ。町の外の魔物だけの話じゃない、一見安全そうに見える町の中だって危険がいっぱいある。どの町もリリアーヌのように平和だとは限らないのよ」
「リリアーヌに帰るっていう話なら、私は嫌だよ」
メールは先に釘を打った。怒るかと思ったが、フーリエは声色を決して変えなかった。
「もちろんメールの安全のために、できればそうしたかったけど、今更なに言ったって聞かないでしょう? もうリリアーヌの外に出ちゃったんだし」
「うん」メールの意志は固い。
「でもね、メール、どうしてもあの男じゃないとダメなの?」
「え」
思わず聞き返す声が裏返ってしまった。
「町の外に行きたいなら、あたしが一緒に連れていってあげられるのよ。別にあいつじゃなきゃいけない、なんてことはないでしょう?」
「…………」
「あたしは何より、あの男が信用できない。ほとんど何も言わないし、メールのことをまるで気にかけてない。名前も言わない。生まれも育ちも不明。姉として、ただただ不安なのよ、あいつについていくあなたのことが」
言い返すこともできない、至極もっともな話だった。気心の知れた姉と名前も名乗らない無愛想な男、どちらを選ぶか。普通に考えたら答えはほぼ一択だろう。
でも、
「ごめんなさい、お姉ちゃん。急な話だったから、まだなんとも言えないよ」
今のメールには普通の考えがとてもできなかった。
名無しにはじめて会ったとき。村を飛び出したメールを助けにきてくれたとき。
メールは確かに、彼のことを赤の他人と言い切れない『何か』を感じた。
これはただの勘だ。確証も何もない。
返事を聞いたフーリエは微笑んだ。
「もちろん今すぐに決めろだなんて言わないわ。でも私たちのエルレ・ガーデンでの仕事は多分今日一杯で終わる。だから今日はよく考えて。明日、答えを出してほしいの。私か、あの男か」
さ、町に出かけましょ。フーリエの軽快な足取りとは正反対に、メールの足取りは重かった。
(お姉ちゃんが言いたいことはわかる。わかるけど……)
そんな考えが頭の中をぐるぐると渦巻いていた。
昨日今日と、町を回りながら両親の手がかりを捜してみたが、結局、何も情報は得られなかった。




