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名無しの手紙  作者: 山本良磨
第2話 エルレ・ガーデン編
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12月23日(2) サンタクロース

 仕事は滞りなく終わり、名無しが部屋に戻ると、既にメールとフーリエは宿屋に戻っていた。メールは窓に提げていたサンタクロースへの手紙をぼうっと見続けていた。それで何か変わるわけではないのだが、気になって仕方ないのだろう。

 そこからは昨日と同じ。三人で夕飯を食べ、風呂に入る。メールとフーリエは一緒に入っていた。適当に雑談をしながら、一人、またひとりとベッドに入り込み、眠りはじめていった。

 メールとフーリエが完全に寝るまで、名無しは暗い部屋の中で、窓の外を眺めていた。町はすっかり静寂に包まれ、空に瞬く星々が淡い光を放っているだけとなっている。当然人影など一つもない。

 目がぼやける感覚がだんだん短くなってきたから、それなりの時間が経ったのだろう。そんなとき、どこからか物音が聞こえてきた。

 最初はフーリエがベッドから落ちたのかと思った。しかし、見てみると珍しく彼女はベッドの上にいる。

 眉間にしわを寄せる名無しをよそに物音はだんだん大きくなってくる。こちらへ近づいてきているようだ。万が一のことを考え、名無しは銃を握った。神経を研ぎすまし、集中する。

(……煙突か!)

 それに気付いた瞬間、煙突につながる暖炉から突然影が降ってきた。名無しはあまりの珍事に思わず口を開けてポカンとしてしまっていた。

 暖炉の内側から出てきたのは人だった。小太りした初老の男で、口からは長い白ひげを生やしていた。赤と白の服と帽子を身にまとっている。まさに、昨日の昼に見た青年の服装とそっくりな格好だった。

「ふうー、やれやれ。クリスマス間近ににプレゼントを希望するとは随分と人騒がせな子じゃのう」

 唖然と見つめる名無しに気づかず、男は暖炉から部屋の窓へと一直線に進んでいった。

「どれどれ……。ふむ、メールという名前か。何々、欲しいものは……コートか! こりゃまた面倒な……オホン。まあなんとかなるじゃろう」

 寝ている人に配慮しているのか、小さな声でぶつぶつと独り言を呟いていた。やがてくるりと踵を返し、暖炉の中へ入っていく。

 呆然としていた名無しは、そこでようやく我に返った。取り出していた銃を強く握り、背後から一気に男へ詰め寄る。

「動くな」

 後頭部に銃口を押しつけられた男は静かに手を挙げた。彼が握っていたメールの手紙は、ひらひらと床に落ちた。

「やれやれ。穏やかじゃないのう。なんじゃ一体?」

 全く銃には怯えていなかった。銃を見慣れているのか、それとも撃つ気がないのに気づいているのか。

「お前は誰だ」

「わしはサンタクロースじゃよ」

「嘘をつくな」名無しは吐き捨てた。

「むう、どうしてわしがサンタクロースじゃないとお前さんにわかるんじゃ?」

 実在しないから。名無しはそう即答したかったが、これではあまりに直球でお粗末すぎると感じた。

「トナカイのソリはどうした? てっきり空を飛んで手紙を回収すると思ったが?」

「今日回収する手紙は、この女の子のだけじゃ。いつもはソリで慌ただしく回収するが、たまには気分転換でこういう集め方もよいと思ったんじゃ。それにまあ、本番のリハーサルという意味もあるかのう」

「そもそもサンタってのは誰にも姿を見せないもんだんだろう? なぜ俺の前に姿を見せた」

「むむむ、なぜか? それはお前さんがいつまでたっても寝ないからじゃ!」

 サンタは半ば逆ギレの形で名無しに詰め寄ってきた。

「昨日だってずっとお前さんが寝るのを待っていたのに、いっこうに寝ようとせん! じゃがこの手紙を書いてくれた子の気持ちを無下にすることもできん! じゃからもう、お前さん一人に見られるくらいはやむなしと考えたのじゃよ! 子どもに姿を見られさえしなければよし、としたのじゃ」

 お前さんが寝てさえいればここまで面倒くさいことにはならなんだわい。そう吐き捨てながらサンタは忌々しげに名無しを睨んだ。

 そう、名無しは昨日も眠らなかったのだ。そして今日も眠るつもりはなかった。

「して、お前さん。もし今日も眠るつもりがないのであれば、わしについてくればよかろう。本物のサンタクロースであることをしっかりと見せてやるわい」


          *     *     *


 サンタクロースは町の外に出るように名無しへ告げた。町の中だと一目につくかもしれないかららしい。

(既に俺に見られた時点で、そんなこと気にする必要があるのか)

 名無しはそう考えながらも言われた通りに動いた。もちろん断ることもできた。しかし何もせずに部屋の中にいるよりは眠気も紛れるだろうだと思った。

「こっちじゃ、こっち」

 門をくぐり町の外へ出ると、そこからまた少し離れたところからサンタクロースが手招きしていた。ソリも見える。

「随分用心深いな」

「当たり前じゃ、子どもたちの夢を軽く見てはいかん」

「で、こいつらは?」

 サンタのそばで体を休めていた生き物を見て問いかける。

「この子たちはトナカイじゃよ」

 メールが話していた、空を飛ぶ魔物だ。

「……飛ぶのか?」

「その通り。この子たちがおらんとサンタクロースの仕事は無理じゃ」

 サンタは四匹のトナカイを撫で回すと、そりの後部座席を指差しながら告げる。

「さあ乗りなさい。ほんのひと時の空の旅じゃ」

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