行ってきます
事前に名無しに言われた通り、必要最低限のものだけをバッグにまとめ、家をあとにした。そこから村の風景をひとつひとつ、しっかりと記憶しながら、ゆっくりとした足取りで村の入り口へと向かった。もうしばらくは見ることができないのだから。
入り口に近い場所では、子どもたちが集まっていた。見送りに来てくれたのだ。メールはにっこりと笑いかけた。子どもたちは何も言わない。既にあいさつを済ませたからだ。子どもたちの横を過ぎたとき、小さくしゃくりあげた声が聞こえてきた。しかし、メールはふり返らなかった。
入り口では名無しが待っていた。
「終わったのか」
「はい」メールは大きくうなずいた。
「じゃ、行くぞ」
メールは後ろを振り返る。『リリアーヌ』と書かれた村の門が見えた。子どもたちが手を振って送ってくれていた。そして子どもたちの奥におばさんの姿もあった。笑っているのが遠くからでもよくわかった。
「行ってきます」
メールは小さく呟く。それはまるで自分の決意を確認するように。そして村に向かって大きく手を振った。
「行ってきまーす!」
行ってらっしゃーい、と子どもたちの元気な声が返ってきた。その中から、小さいが確かにおばさんの声も聞こえてきた。
メールはくるりと背を向け、名無しの手紙屋と共に、両親を捜す長い、長い旅の一歩を踏み出した。




