絶対に帰ってきます
村の人や子どもたちに別れを告げてきたメールが最後に向かったのは村の中心から少し離れた丘の上だった。残るは一人だけだった。
「おばさん」
「ああ……。メールちゃん」
丘の上には多くの墓が並ぶ。リリアーヌ村の墓地だった。おばさんはその中の一つの前にしゃがみ込んでいた。
「さっきは情けないところを見せちゃったねえ。フーリエちゃんにも八つ当たりしてしまった。すまないが、申し訳なかったと伝えといてくれるかい」
「はい、伝えます」メールはうなずいた。
おばさんはできたばかりの息子の墓をそっと撫で、小さく息を吐いた。
「わかっていたんだ、あの子が軍に入ったときから。いつか死んでしまうかもしれないってね。そう、覚悟はできていた……、はずだったんだ。それがいざ現実になると、とても受け入れられなかった」
メールは何も言わない、何も言えない。
「おっと、また余計な話をしちまったねえ。私に何か用だろう、どうしたんだい?」
「はい、実は――」
メールはすべてを話した。手紙屋になる夢、それを姉に却下されたことから、村を飛び出した理由、そして手紙として名無しと一緒に両親を捜すことになったことまで、すべて。
「そうかい、親を捜しにいくんだね」
「はい」
「リリアーヌも一気に寂しくなるかもしれないねえ。あんたが子どもたちの中心だったから」
そんなことはないです、と否定する。事実、メールがいなくなったとしても、他の子どもたちがいるのだ。メールがいなくなっても、きっと今まで通り元気な村のままだろう。
おばさんはそっとメールに近づいてきた。彼女の顔には目から頬、顎に向かって涙の流れた跡があった。きっとメールが来るまでずっと墓の前で泣いていたのだろう。
「メールちゃん、これだけは約束してくれるかい」
メールはおばさんに抱きしめられた。今日抱かれるのはこれで二回目だ。フーリエのときとはまた違うあたたかさがあった。
「いけないねえ、年とると涙もろくなっちゃって」
おばさんは涙ながらに告げ、手で涙をぬぐった。抱きしめる力が一層強くなる。メールもおばさんの背中に手を回した。
「必ず、生きて帰ってきておくれよ」
「はい、絶対に帰ってきます」
また、泣いてしまいそうだった。




