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窓越しの物語

作者: 白髪大魔王

どうも、白髪大魔王です。今回もまた短編を書きました。あまりいい出来ではなく、むしろ酷いものですが何卒ご容赦を。

私はこの窓から見える景色が好きだ。決して雄大な眺めであるわけでもなく、当然美麗なものでもない。多分、ここと同じ高さ、2階の高さであるのならばどの窓からでも同じ景色なのだろう。それでも私はこの窓からみえる景色が好きだ。


朝になると瑞々しい風景がしっとりとそこにある。一日がまた始まるのだと感じさせてくれる。命を感じさせてくれる。

小学生の子供たちが走っている。無邪気な笑顔を見ると、こっちまで不思議と笑顔になる。他にも、朝のジョギングをしている元気なおじいさんや犬の散歩をしている若い人、朝は意外と人がいる。なんだか私も一緒に外に出て、新鮮な空気を吸いたくなる。

昼になると太陽の光が窓からいっぱいに射し込んでくる。ぽかぽかの陽気は母のように優しく私を包んでくれる。その暖かな光の中で、うとうとしてしまうのも少なくない。そんなときは諦めて私は寝ることにする。優しさに甘えるのも気持ちがいい。

たまに虫がやってきてビックリしてしまう。彼らはいきなり現れては私たちを驚かす。悪気は無いのだろうが、文句を言いたくなる。まあ、言っても聞いてはくれないと思うけどね。

夕方になるとちょうど沈む夕陽がここから見える。真っ赤に染まった空に、黄金色の太陽が沈んでいく。自然の見せるその姿に、感動の涙を禁じえない。後何回この景色を見ることが出来るのだろうか。

窓からは学校や勤め先から帰る人たちが見える。軽い足取りの人もいれば、帰りが億劫なのかのそのそ嫌そうに歩く人もいる。そんな人には元気を出してほしい。

夜になると星たちが瞬いている。この星の輝きが、何万年前の輝きが届いていると思うと感慨深い。そして私は星に囲まれ眠りにつく。

春には新緑が萌え、夏には虫や動物が遊び、秋には葉が紅く色づく。そして冬には眼前が銀一色になる。

世界はとても美しい。どんなに文明が発達しようと、変わらない美しさがここにはある。私はこの世界を愛している。

「ミキさん、具合はどうですか?」

看護婦がミキという私に声をかける。

「そろそろ手術の時間です。一緒に頑張りましょうね」

私は看護婦に連れられてこの病室を後にした。

私にはこの先の物語が無い。私はこの手術を最後の出来事に死ぬからだ。でも貴方にはまだ先の物語がある。見たことも無い世界が貴方を待ってる。だから諦めないで、応援してるから。



「美紀さん、朝ですよ。起きてください!」

看護婦の明日香さんに揺すられて私は目を覚ます。

「朝食の時間ですよ。朝食が終わったら検査になります。辛いとは思いますが頑張ってね」

愛想のいい笑みを浮かべながら病院食をトンと置いていった。

朝食を食べながらあの夢を思い出す。入院してからよくあの夢を見るようになった。あの夢はなんなのだろうか。私も美紀だけど、私にあんな記憶は無い。第一、私はまだ死んでいない。時間の問題かもしれないけど…。

白血病。私はそうらしい。今の医療なら治らない病気ではなく、抗がん剤治療で治るらしい。しかし、副作用というのはどうしてもあるらしく、私もそれに苦しんでいる。吐き気や倦怠感、下痢などと挙げればきりがない。いっそ死んだほうがマシかもと思ったこともある。そんなときに決まってあの夢を見る。まるで私を元気付けるみたいに。

「そろそろですよ美紀さん」

「はい、わかりました」

お陰で今日まで私はやってこれた。大丈夫、これからもいける。


「問題ありません、寛解状態です。つまり一段落したということです。これからはもう少し強い薬を使うことになりますが後少しで終わりですよ」

担当医が私に告げた結果はとても喜ばしいものだった。

「あ、有り難うございます」

隣にいる母が私以上に感激しているみたいだ。泣きそうになりながら頭を下げている。父は仕事の都合で今はいないが、聞けばきっと喜んでくれるだろう。

「有り難うございます。これからも頑張ります」

「ああ、これからも頑張ってね」

本当に有り難う。


「ねぇ、明日香さん」

「どうしたの美紀さん?」

夕食を運びにきた明日香さんをつかまえて訊いた。母は既に家に帰っていて、ここには自分と明日香さんしかいない。だから訊けると思ったのだ。

「私の他にも、ミキっていう人はいましたか?」

「ミキ…。もしかして、貴方の知り合い?」

「いえ、ただ時折夢の中に出てきて…。その夢がここに来てからなんです。それでちょっと気になって…」

「そうなの」

明日香さんはここにある窓から外を見ている。何かを懐かしむような、そんな遠い目をしている。そういえば、夢の中のミキもここと同じ2階の窓から外を見ていた。

「未希はね、ここから見える景色が好きだったの」

私に背を向けて窓の外を眺めながら、独り言を言うように話をした。私はそれを聞く。

「未希もここの病室を使ってたの。もう三年前になるかしら。その子も白血病だったの」

驚いた。私と同じ名前で同じ病気の子が、三年前に同じくこの病室を使ってたなんて。

「私もその頃から勤めてたから分かるけど、いい子だったわ。活発的な子ではなかったけど芯の強い子でね、私も何度も元気付けられたわ」

「そうだったんですか」

明日香さんは努めて平静を装ってるつもりだろうけど、声が随分弾んでいた。楽しい思い出だったのだろう。なんだか一人だけ置いてきぼりをくらっている感じで少し寂しい。

「それで、その未希さんはどうなったのですか?」

すると突如、明日香さんの周りの空気が重くなった。後ろ姿からでも分かる程の気の落としようだ。まずいことを訊いてしまったか。

「亡くなってしまったわ。骨髄移植の拒絶反応が酷くて、耐えられなかったみたい。最後まで闘い抜いたんだけどね…。あの子、ずっと窓の外の景色を見てたわ」

きっと、窓から見える景色に想いを馳せていたのだろう。病室から出れないから、この窓から世界を覗いていたのだろう。出れないことを知りながら、でもここから出れると信じて…。

「だから多分、同じ境遇で同じ名前の貴方を夢の中で元気付けてたんじゃないかしら。あの子らしいわ」

「そういうことだったの…」

「そういうこと。それじゃあ、お大事に」

笑顔で手を振って明日香さんは行ってしまった。


「有り難う未希さん」

三年前の彼女も見ていたであろう窓を開けて、空に語りかける。

「私、貴方のお陰で何度も救われた。だから私、貴方の分まで絶対に生きるから。病気治すからね!」

頬を掠める風が、笑っているような気がした。

最後までお付き合い頂き、有り難うございます。今回は病気を主軸にしましたが、もしかしたら本当にその病気の人が読むと怒られる、またはそれで済まないかもしれません。すいませんでした。もしこれで勇気付けることが出来たら幸いです。

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