朝の風景
25日は雲ひとつない青空が広がった。
直美は朝早くから洗濯機を回し、幸太郎に朝ご飯を食べさせていた。
眠い目をこすりながら幸太郎が食パンをかじっている。
「今日はおじいちゃんのお家に行くから早く食べちゃいなさいよ。」
「ふぁ〜い。」
幸太郎の気のない返事が聞こえる。
その後直美はしばらくバタバタと立ち働いていたが、10時頃になると
「それじゃ、行ってくるわ。あなた、留守をよろしくね。」
「あぁ、気をつけて行っておいで。」
「パパ、バイバ〜イ。」
幸太郎が笑顔で手を振っている。
「幸太郎、いい子にするんだぞ。」
「うん。」
直美に手を引かれ小さなリュックを背負った幸太郎がリビングから出ていった。
玄関の閉まる音がして部屋はしんと静まり返った。
誰もいないってことはこんなに静かなんだな……。
洋はソファーにもたれて一人珈琲を飲んでいた。
不意に祖父母が親戚の法事に行くといって出かけてしまい、一人残された時の記憶が蘇った。
小学校の5年生ぐらいの時だったか……。
すでに両親はなく、洋は部屋が静かすぎるのが嫌でテレビのボリュームを上げて画面を見つめていた。
面白い番組がやっているわけではなかったが、音がないのは寂し過ぎた。
当時飼っていた猫が洋の膝に乗ってきてくれるのが唯一の慰めだった。
いつも祖父母の前では寂しさを隠し気丈に振る舞っていたが、本当は寂しくたまらなかった。
一人で泣きながら猫を抱きしめていたのを覚えている。
しばらくそんな昔の思い出に浸っていたが、今日の両親との約束を思い出しベランダに目を向けた。
ベランダでは洗濯物が風に翻っていた。
それを眺めながら洋は改めて両親を想った。
家族の洗濯物が干されていることが何だか幸せの象徴のような気がした。
何故両親はあんなに早く自分の傍からいなくならなければならなかったのか。
何故、自分は一人残されたのか……。
答えなどないのは知っていたが、自分の中で何度も何度も問い掛けてきたことだった。
最近は自分の家族を持ち、忙しさに紛れてそんな感情を忘れかけていたが、両親と再会してからはよりその思いが強くなった。
両親もまた、幼い我が子を残していくのはどんなにか心残りであっただろう。
自分が親になって初めて両親の思いがわかるような気がした。
今日、両親に会えたらなるべく楽しく過ごしたい。
洋はそうすることが自分のためにも両親のためにも一番良いことのように思った。