不思議な気持ち
洋はその晩、帰宅してから妻に何気なく25日の予定を聞いてみた。
「あっ、25日って土曜日よね。
あなたがお休みの日で申し訳ないんだけれどちょっと幸太郎を連れて実家に帰りたいんだけど……。」
「何か用事あるの?」
「うん。美月の誕生日なの。」
「美月ちゃんの?」
美月というのは妻の両親と同居している妻の妹だ。
「あっ、そう。美月ちゃん誕生日なんだ……。」
「あなたも行く?」
「いや、僕は遠慮しておくよ。美月ちゃんに僕からもよろしくって言っておいて。」
「わかったわ。」
「ついでに泊まってきてもいいよ。久しぶりだろ、帰るの。」
「本当? 嬉しいけど……そんなこと言うなんて何か怪しいわね〜。」
「別に何もやましいことなんてないよ。」
そう言いながら、内心洋は動揺していた。
「妻に内緒にして会う相手が恋人なんかじゃなくて、死んだ両親だと言ったら妻は信じるだろうか?」
「まず、信じないだろう。」
俺の頭がおかしくなったとでも思うかもしれない。
「あ〜、やけに静かになってますます怪しい!」
妻ははしゃいだようにそう言った。
これ以上妻の相手をするのも面倒なので風呂に入って寝ることにした。
妻も幸太郎を寝かしつける為に子供部屋に行ったようだ。
湯舟につかりながら両親のことを想った。
また二人に会える、でもいつまでこんな不思議なことが続くのか……?
ざぶんと湯の中に頭を沈めてみた。
息が続く限り沈んでいたが2分ともたなかった。
「くっ苦しい!」
ザバ〜とお湯の中から頭を出した洋の姿を見た直美が
「変な人。」
と言って笑っていた。
水音を聞いて浴室の扉を開けて洋を覗いていたようだ。
「ここにパジャマ、置いておくわよ。」
風呂場の扉を閉め遠ざかっていく妻の足音を聞きながら洋は水びたしになった頭を振った。
直美は洋のことを特に不審にも思っていないようだ。
自分が両親に会う日はちょうど直美も幸太郎も不在で外出するために余計な言い訳をする必要もなくなった。
25日といえばもう、明後日だ。
そういえば……池袋サンシャインのどこに行けばいいのだろうか?
風呂から出てもう一度待ち合わせ場所を確認する為に手帳を開くとそこには新たな書き込みが……。
25日、13時
池袋サンシャイン
プラネタリウム
プラネタリウム?
そういえばサンシャインには昔からプラネタリウムがあったっけ?
両親とプラネタリウムを見学するのかもしれない。
洋は星空を見上げている自分と両親を想像してまた不思議な気持ちにとらわれた。
初めてかもしれない、両親とプラネタリウムに行くのは……。
遠足に行く前の子供のように浮き浮きとしてくる自分に驚きながら急いで布団を被った。