二度目の書き込み
それから数日、洋は落ち着かない日々を送った。
家でテレビを見ていてもちっとも内容が頭に入ってこない。
家族と食事をしていても心ここにあらずという感じであった。
「あなた、シャツにスープがこぼれているわよ。」
妻の直美に言われて初めて洋服を汚しているのに気がつく。
「パパ、お行儀悪いね。」
息子の幸太郎にまで言われてしまった。
幸太郎は父親の失敗を見つけてちょっと嬉しそうだ。
「あなた、何か心配事でもあるの?」
直美が不安そうにこちらを見ている。
「いや……。ちょっと疲れているだけだよ。」
妻にも本当のことを言えるはずもなく……。
洋は次第に両親と会ったこと自体が夢だったのではないかと思い始めていた。
そんな矢先、洋は黒皮の手帳に新たな書き込みを見つけた。
それは会議に出席しようと椅子の背にかけてあった上着をワイシャツに羽織った時だった。
上着のポケットの中の手帳が床に落ちた。
あの時といっしょだ。
手帳を拾ってページをめくると5月25日の欄に13時、池袋サンシャインと書かれていた。
「嘘だろ?」
「池袋?」
少し興奮しながら一人で呟く洋。
そこに行けば両親にまた会えるというのだろうか?
信じられない気持ちのまま洋はしばらく手帳に書き込まれた字を見つめていた。
「おいっ、佐々木先に行くぞ。」
課長に肩を叩かれ、我に返った洋は会議に行くことを思いだした。
「今、行きます!」
急いで課長の後を追って部屋を出た。
廊下を歩きながら、喫茶店で会った時の両親の笑顔を思い出した。
洋は二人にまた会えることに嬉しさを覚えるとともに言い知れぬ不安も感じていた。