前編:裏切りの発覚
このコーンマイン帝国は太古の昔に邪神と戦って封じたという歴史があり、帝国を統べる歴代皇帝は古の英雄の末裔だ。
そんなコーンマインの歴代皇帝には皇帝陛下に代々お仕えし皇帝陛下の直轄で動く十二の騎士家、“帝国十二星”があり、俺―――ライティが当主を勤めるザールボルグ家もその一つである。
俺を含めた“帝国十二星”は、かつて異世界より招来して当時奴隷として使役されていたエルフやドワーフを含めた亜人種の解放を訴え、人も亜人も命は平等であるという妄言をのたまいながら世界を相手に大戦争を起こした大厄災“邪神マルサルオス”との戦いで初代皇帝と共に戦った仲間達の子孫で、帝国においてだけでなく諸外国においても別格の扱いを受ける人類種の英雄だ。
初代皇帝と帝国十二星は、邪神との戦いで島国であるコーンマイン帝国に上陸してきた邪神軍との戦いで、十二星の過半数と引き換えに邪神軍を島外に撃退をするという活躍をし、その戦いで島内の亜人種が邪神軍に合流したおかげで結果としてコーンマイン帝国は純粋に人類種のみが存在する国家となった。
邪神マルサルオスは紆余曲折を経て封印をされたものの、邪神の遺した爪痕は劣等種である亜人を結果として解放し、度し難い事だけれど今では島外の地では亜人種も人間と変わらないように生活をしているそうだ。
話がずれてしまったけれど、このコーンマイン帝国においては基本的に生まれと血筋がなによりも優先され、代々受け継がれる血が古ければ古いほど家格は高く権力は強くなる。
勿論血筋による世襲の全てが良いという訳ではなく、帝国という組織の中では大小の腐敗はあるけれどそれでも諸外国よりは余程上手く機能していると言えるだろう。
俺のザールボルグ家は帝国外縁部の守護を受け持つ武門の家で、俺の麾下の帝国外縁守備部隊は血筋を重視する帝国においては例外的に徹底した実力主義で、平民や貴族の血をひかないものであっても士官待遇にまで取り立てて重用をするようにしている。
内地の他の帝国十二星からはそんな行いを咎められることもあるけれど、魔物や海賊や他国の侵略者達と最前線で戦う身としては、いくら生まれが立派でもあっさり死ぬような雑魚よりもきちんと強い兵士の方が頼りになるので俺の権力において実力主義を貫かせてもらっている。
俺自身も、家族と離れて前線で戦う事には寂しさを感じることもあるけれど、先祖代々担っている誉れ高い責務であり、国家と皇帝に仕える騎士任務に励んでいた。
そんな俺にも心の支えがあり、以前長期休暇をとり帰宅した際に最愛の妻が子供を身ごもったのだ。それは俺の血を時代につなぐ子が生れるという事で喜ばしい事だ。
妻であるセラとは幼馴染の関係であり、家同士が決めた婚約者だった。子供のころから俺の後ろをついて回るセラとは、騎士学校時代には恋人同士として、そして俺が騎士学校を卒業し帝国外縁守備隊の指揮官に赴任し当主を継いでからは夫婦として仲睦まじく暮らし、そして子供も生まれて順風満帆――――な、筈だった。
・・・産まれてきた子供が、俺の血を継いでいないのを知るまでは。
出産に立ち合い、産声をあげた赤子をその胸に抱いた後、俺に向かって笑顔とともに渡すセラ。
「みて、ライティ!可愛い男の子よ、貴方にそっくり!」
無事に産まれたという安堵と、我が子への慈しみの笑みは文字通りに聖母のように美しかったが、差し出された我が子を腕の中に抱いた瞬間、俺はこの赤子が俺の血をひかない子供であるという事を即座に理解してしまった。
この赤子からは、ザールボルグ家に伝わる雷の魔力を微塵も感じない。それはザールボルグの血をひくものにしか解らない事だから、セラにはわからないことだろうけれども。
「・・・どうしたの、ライティ?」
堅い表情を浮かべる俺を訝しみセラが怪訝そうな表情を浮かべるが、俺は適当に言葉を濁してから赤子をあやし、そしてセラの腕に戻した。セラには体をいたわるように伝えて、それから再び任地に戻る旨を伝える。子供が生まれたのだからもっとゆっくりしていけばよいのにと悲しむセラに、帝国十二星の血と責務は重いものだから、と説明をしてから足早に部屋を出る。セラの部屋の扉を閉めた後、俺の態度から全てを察した老執事や家令、そして侍女長達が俺の所に集まってきた。
―――そう、帝国十二星の血と責務は、お前が考えているよりもずっと、はるかに重いんだよ。もうこうなっては、俺にはどうすることもできない。なんて浅はかで、愚かな娘だ。
セラとセラが産み落とした赤子、そしてその相手と両家の血縁者達の末路を思い俺には溜息を零すしかできなかった。




