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第8話

ルナの言葉で、船の中の空気が一気に緊張した。

大きくて黒いもの、それは間違いなく水賊の船だろう。

「来るぞ……!」

見張り台から、バルガスの鋭い声が飛んだ。

俺は船の魔力探知機能を、最大にする。

探知機のように、周りの物体の位置を探るスキルの応用だ。

目の前の半透明スクリーンに、光の点が一つ、すごい速さでこちらへ近づいてくるのが映る。

「来たな、右前方、距離五十!」

俺は、そう叫んだ。

その直後、濃い霧を突き破って、一そうの船が姿を現す。

黒く塗られた、細長い船体だった。

マストには、不気味な骸骨の旗が揺れている。

霧の骸骨団だ。

「うおおおおっ!」

敵の船から、野太い叫び声が上がった。

同時に、何本もの鉤のついた縄が、こちらに向かって飛んでくる。

ガキン、という音を立てて、数本の鉤縄がリバーサイド号の船べりに突き刺さった。

「準備はいいな、二人とも!」

「おうよ、いつでも来い!」

「うん、大丈夫!」

バルガスとルナが、力強く頷く。

「魔力障壁、展開!」

俺が叫ぶと、リバーサイド号の船体が淡い光に包まれた。

敵の船から放たれた火の矢が、障壁に当たっては、かん高い音を立てて弾け飛ぶ。

その間に、敵は鉤縄をたぐり寄せた。

あっという間に、二そうの船は横付けになる。

「野郎ども、乗り込めえ。荷物も女も、根こそぎ奪ってやれ!」

頭らしい、ひときわ体の大きな男が叫んだ。

それを合図に、十数人の水賊たちが、わらわらとリバーサイド号の甲板に乗り込んでくる。

誰もが、錆びた剣や斧を手にしていた。

その目は、欲にギラギラしている。

「へへへ、ずいぶん綺麗な船じゃねえか。こいつは、高く売れそうだ」

「おい、見ろよ。可愛いガキがいるぜ、こいつは良い人質になるな!」

いやらしい笑い声を上げながら、水賊の一人がルナに手を伸ばす。

その、瞬間だった。

「――俺の船で、好き勝手させるかよ!」

見張り台から、巨大な影が舞い降りた。

バルガスだ。

着地の衝撃で、甲板がみしりと音を立てる。

その手には、巨大な戦斧が握られていた。

「な、なんだてめえは!?」

水賊たちが、怯んだように後ろに下がる。

「俺か、俺はこの船の用心棒だ。そして、お前らみたいなハイエナどもを、掃除する役目も担ってる!」

バルガスはニヤリと笑うと、一番近くにいた水賊に、戦斧を振るった。

風を切る、ものすごい音がする。

水賊が持っていた剣は、まるで小枝のようにへし折られた。

男は、そのまま甲板に叩きつけられる。

「ひいっ!?」

「つ、強え……。こいつ、化け物か!?」

仲間が一撃でやられたのを見て、水賊たちの顔色が変わった。

だが、バルガスの猛攻撃は、まだ始まったばかりだ。

「邪魔だ、どけえっ!」

バルガスは、その巨体に見合わない速さで、水賊たちの群れに突っ込んでいく。

戦斧が振るわれるたびに、一人、また一人と、水賊たちが面白いように吹き飛んでいった。

もはや戦いではなく、一方的な攻撃だった。

「すごい……」

ルナが、ぼんやりと呟いた。

俺も、バルガスの強さにはすごく感心する。

元騎士というのは、見せかけじゃないらしい。

だが、俺も遊んでいるわけにはいかない。

「バルガス、援護する!」

俺は舵輪から手を離すと、船べりに設置されたバリスタの操作盤に向かった。

四つのバリスタは、俺の魔力で遠隔操作できる。

俺は照準を、敵の船のマストに合わせた。

「くらえっ!」

スイッチを押すと、バリスタから巨大な矢が、唸りを上げて撃ち出される。

矢は正確にマストを捉えて、ばきり、という大きな音と共にマストをへし折った。

帆を失った敵の船は、進む力を失い、その場に立ち往生する。

「な、何が起きた!?」

「マストが……、船が動かねえぞ!」

敵の船に残っていた水賊たちが、混乱した声を上げた。

俺は、すぐさま次の矢を準備する。

今度の狙いは、敵の船の舵だ。

「もう一発!」

放たれた矢は、水面をえぐりながら敵の船の船尾に突き刺さった。

これで、舵も壊されたはずだ。

敵の船は、完全に動けなくなった。

その時だった。

「ミナト!」

ルナが、何かを指差して叫んだ。

そちらを見ると、水賊の頭らしい男が、俺たちの隙をついて、ルナに襲いかかろうとしている。

バルガスは、他の水賊を相手にしていて、こちらには気づいていない。

まずい、と思った。

俺が駆けつけようとした、その時だ。

ルナが、ぎゅっと目を瞑り、両手を前で合わせた。

そして、何かを必死に祈っている。

すると、信じられないことが起きた。

リバーサイド号の周りの水面が、大きく盛り上がったのだ。

そして、水の中から、巨大な魚の群れが現れた。

その数は、百匹はいるだろう。

魚たちは、一斉に敵の船に体当たりを始めた。

どごおん、という鈍い音が、何度も響き渡る。

ただでさえ動けなくなっていた敵の船は、魚たちの猛攻撃を受けて、大きく傾き始めた。

「うわああ、船が沈む!」

「助けてくれ、俺は泳げねえんだ!」

船の上にいた水賊たちは、パニックになって、次々と川に飛び込んでいく。

ルナに襲いかかろうとしていた頭目も、足元の揺れに体勢を崩した。

そして、その場に尻餅をつく。

そこへ、バルガスが駆けつける。

頭目の首根っこを、鷲掴みにして持ち上げた。

「てめえが、こいつらの頭だな。これで、終わりだ」

バルガスの言葉が、この戦いの終わりを知らせた。

甲板に乗り込んできた水賊たちは、全員バルガスによって気絶させられている。

敵の船も、半分ほど沈みかけていた。

あっけないほどの、完全な勝利だった。

俺たちは、気絶している水賊たちを、彼らの船に転がしておく。

そして、頭目だけをリバーサイド号のリビングに連れて行った。

縄で椅子に縛り付けられた頭目は、もう抵抗する気力もないのか、ぐったりと首を垂れている。

「さて、と。いくつか、聞かせてもらおうか」

バルガスが、低い声で問い詰め始めた。

「てめえら、どうしてこんな場所で水賊なんぞやっている。霧の骸骨団、だったか。ふざけた名前をつけやがって」

頭目は、しばらく黙っていた。

だが、バルガスに胸ぐらを掴まれて睨みつけられると、諦めたように、ぽつりぽつりと話し始める。

「……俺たちは、元々この渓谷の先にある村の、漁師だったんだ」

「漁師だと?」

「ああ。だが、この辺りを治めることになった新しい領主様が、ひでえ奴でな。俺たちの獲物に、とんでもなく高い税金をかけやがった。払えなければ、村から出ていけ、と……」

頭目の言葉に、俺とバルガスは顔を見合わせた。

よくある話ではある。

悪い領主が、民衆からお金をむしり取ることだ。

「俺たちは、家族を養うために必死だった。だが、どうにもならない。それで、仕方なく……こうして、船を襲うようになったんだ」

男は、悔しそうに顔を歪めた。

その目には、涙が滲んでいる。

「……なるほどな。事情は分かった」

俺は、静かに言った。

かわいそうだとは思う。

彼らも、好きで水賊になったわけではないのだろう。

「同情の余地はあるかもしれねえが、こいつらは罪人だ。ギルドに突き出すのが、筋ってもんだぜ、ミナト」

バルガスが、俺に言った。

彼の言うことは、正しい。

水賊行為は、許されることではない。

ギルドとの契約もある。

「ああ、そうだな。でも……」

俺は少しだけ、考え込んだ。

この男たちを、ギルドに突き出すだけで本当にいいのだろうか。

根本的な問題は、悪い領主にある。

そっちを何とかしなければ、また同じような水賊が現れるだけではないか。

「どうするんだ、ミナト? お前さんの考えを聞かせろ」

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