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第6話

「さて、どこから手をつけようか」


俺は生まれ変わったリバーサイド号の甲板に立ち、腕を組んだ。

水賊と戦うための、改造である。

まず必要なのは、見張り台だろう。

敵をいち早く発見できれば、それだけ有利になる。

俺は船の中央にそびえ立つマストのてっぺんに、カラスの巣と呼ばれる見張り台を設置するイメージを思い浮かべた。

【木材:20】

素材は、十分に足りている。

スキルを発動させると、マストにするすると木材が巻き付いた。

あっという間に、見張り台が完成する。


「よし。次は、武器だな」

「大砲でも、つけるのか?」


隣で見ていたバルガスが、面白そうに聞いてきた。


「いや、大砲は目立ちすぎる。それに弾の補給も、大変だ」


俺が考えていたのは、もっと別のものだった。


「バリスタというのは、知ってるか? 大きな弓のようなもので、太い矢や槍を撃ち出す兵器だ」

「ほう、弩の化け物みたいなもんか。そりゃあ、面白そうだ」


俺は船の船首と船尾、それから両方の舷側にそれぞれ一基ずつ合計四基の大型バリスタを設置することにした。

設計図を、頭の中に描く。

頑丈な木製の台座に、鉄の弦を張った強力な弓だ。

狙いを定めやすいように、照準器もつける。

【木材:80】【鉄:40】【蔓:20】

鉄は、さっき町で買っておいたものを使った。

俺が船体に手を触れると、再び船が光を放つ。

そして光が収まった後には、船の四方に威圧的な姿のバリスタが設置されていた。


「すげえな。これならどんな船が相手でも、蜂の巣にしてやれるぜ」


バルガスは完成したバリスタに触れ、感心したように呟いた。

弾となる太い矢も、スキルで大量に生産しておく。

これで、攻撃面は万全だろう。


「次は、防御を固めるぞ」

「船の周りに、鉄板でも張り巡らせるか?」

「それもいいが、もっといい手がある」


俺は船の喫水線、つまり水面に接する部分に手を触れた。

そして船の核に、意識を集中させる。

この船はスキルで生み出された、いわば魔法の産物だ。

経験値を貯めることで成長し、特殊な能力を得ることができる。

まだ、その一部しか見えていない。

俺は何となく、その使い方を理解し始めていた。

俺は船を守る、硬い鱗のようなものをイメージする。

魔力を帯びた、見えない盾だ。

【魔力障壁(小)を習得しました。発動には、船の魔力を10消費します】

頭の中に、そんな声が響いた。

どうやら、うまくいったらしい。


「よし。これで多少の攻撃なら、弾き返せるはずだ」

「なんだかよく分からねえが、とにかくすごいってことだな」


バルガスは、豪快に笑った。

これで、戦闘準備はだいたい整った。

あとは、航海の準備だけだ。


俺が船の改造をしている間、ルナは甲板の隅で何かをしていた。

近づいてみると、どうやら釣りをしているようだ。

といっても、釣り竿を使っているわけではない。

ただ水面に向かって、何かを話しかけている。

するとどこからともなく魚たちが集まってきて、自ら甲板に飛び跳ねてくるのだ。


「ルナ、すごいなそれ」


俺が声をかけると、ルナはにこっと微笑んだ。


「お魚さんたちがね、ミナトたちの船出をお祝いしたいんだって」


甲板の上には、すでに十数匹の新鮮な魚がぴちぴちと跳ねている。


「ははは、こりゃあ今夜はご馳走だな」


ちょうどそこへ、バルガスがやってきた。

彼は新しいキッチンが使いたくて、うずうずしていたらしい。


「おう、ミナト! ルナ嬢ちゃん! 晩飯の準備ができたぜ!」


バルガスに呼ばれて、俺たちは船内のリビングへと向かった。

テーブルの上には、すでに豪華な料理が並べられている。

ルナが捕まえた魚を使ったブイヤベース、市場で買ったばかりの分厚い肉のステーキがあった。

焼きたてのパンに、色とりどりの野菜サラダもある。

どれも、信じられないくらい美味そうだ。


「すげえなバルガス。あんた、本当に料理人になれるぞ」

「はっはっは、騎士団にいた頃炊き出しで鍛えたからな!」


バルガスは、自慢げに胸を張った。

俺たちは三人で、テーブルを囲む。


「それじゃあ、俺たちの新しい船出と新しい仲間に乾杯!」


俺がそう言うと、バルガスはエールのジョッキを高く掲げた。

ルナは果実水の入ったカップを、同じように掲げる。

乾杯の音頭と共に、楽しい食事が始まった。

バルガスの作る料理は、見た目通り絶品だった。

特に魚介の旨味が溶け込んだブイヤベースは、涙が出るほど美味い。


「んー、おいしい!」


ルナも目を輝かせながら、夢中でスプーンを口に運んでいる。

その姿を見ているだけで、心が温かくなった。

昔の俺に、この光景を見せてやりたい。

これが、俺が手に入れた新しい日常だ。


食事をしながら、俺たちはこれからのことを話した。

まずは目的地のロックベルまで、三日の航海が待っている。

その途中にあるという霧の渓谷で、水賊を迎え撃つ。


「水賊退治が終わったら、ロックベルで鉄鉱石を仕入れよう。それを今度はセレスに運んで、小麦と交換するんだ。その小麦で、美味い酒を造るのもいいな」

「おお、いいなそれ! 麦酒か、楽しみだぜ!」


バルガスは、すっかりその気になっている。


「わたしは、果物のジャムが食べたいな」


ルナが、遠慮がちに言った。


「よし、じゃあジャムも作ろう。ルナの好きな果物、たくさん買ってやるからな」

「本当!? やったあ!」


ルナは、嬉しそうに飛び跳ねた。

笑い声の絶えない、にぎやかな食卓だ。

俺は、この時間が永遠に続けばいいと心から思った。


食事の後、俺は一人で甲板に出る。

夜風が、とても心地よい。

アクア・ポートの街の灯りが、水面に反射してきらきらと輝いていた。

明日には、この町を出発する。

ここでの滞在は短かったが、色々なことがあった。

ルナと出会い、バルガスという頼もしい仲間もできた。

そしてリバーサイド号は、立派な我が家になったのだ。

俺は船べりに寄りかかり、空を見上げた。

満点の星が、俺たちの未来を祝福してくれているようだ。


「ミナト」


不意に、優しい声がした。

振り返ると、ルナがそこに立っている。


「どうしたルナ? もう寝たんじゃなかったのか?」

「ミナトが、一人でいたから」


ルナは、俺の隣にちょこんとやってきた。

そして、同じように夜空を見上げる。


「ねえ、ミナト」

「ん?」

「わたし、ミナトに会えて本当によかった」


ルナは、心の底からそう言っているようだった。

その言葉に、俺の胸はじんわりと熱くなる。


「俺もだよルナ。お前と会えて、よかった」


俺がそう言うと、ルナは嬉しそうにくすくすと笑った。

小さな手が、そっと俺の手に重ねられる。

温かくて、柔らかい手だった。

俺たちはしばらくの間、ただ黙って夜空を眺めていた。

遠くで、陽気な音楽が聞こえてくる。

どこかの酒場で、宴会でも開かれているのだろう。

この平和な町を、水賊の好きにはさせない。

俺は、ルナの手を握る力を少しだけ強くした。


「さて、俺たちもそろそろ寝るか。明日は、朝早いぞ」

「うん」


俺たちは船室に戻り、それぞれの部屋へと向かう。

ふかふかのベッドに、体を横たえた。

明日から、本格的な船旅が始まるのだ。

信頼できる仲間と、最強の船がある。

俺は期待に胸を膨らませながら、ゆっくりと意識を手放した。


翌朝、俺は朝日の光で目を覚ます。

窓の外からは、バルガスの威勢のいい声が聞こえた。

何かを調理する、いい匂いが漂ってくる。

どうやらもう起きて、朝食の準備をしてくれているらしい。

俺はベッドから起き上がると、大きく伸びをした。

最高の、目覚めだった。

リビングに行くと、すでにテーブルの上には湯気の立つ朝食が並んでいた。


「よう、ミナト。おはようさん」

「おはよう、バルガス。早いな」

「おう。船旅の朝は、早起きに限るぜ」


バルガスは、エプロン姿でフライパンを振っている。

その姿は元騎士というよりは、完全にコックだった。

ルナも、もう起きている。

眠そうな目をこすりながらも、嬉しそうにテーブルについていた。


「ミナト、おはよう」

「おはよう、ルナ」


俺も席に着き、三人での朝食が始まった。

今日のメニューは、厚切りのベーコンエッグと野菜たっぷりのスープだ。

もちろん、味は最高だった。

腹ごしらえを済ませた俺たちは、いよいよ出航の準備に取り掛かる。

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