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第5話

ギルドの中は、外の騒がしさにも増して熱気に満ちていた。

高い天井まで吹き抜けの、広いホールがあった。

そこには大勢の人々が、忙しそうに行き交っている。

高価そうな服を着た商人たちが、カウンターで手続きをしていた。

屈強な傭兵たちが、掲示板の依頼を眺めている。

書類を運ぶ職員たちの姿もあった。

俺たちは少し圧倒されながらも、受付のカウンターへと向かう。


カウンターの内側には、眼鏡をかけた女性が座っていた。

いかにも仕事ができそうな、そんな雰囲気だった。


「ご用件は何でしょうか?」


事務的な口調で、彼女が尋ねてくる。


「商業ギルドに登録したいんだが、頼めるか?」


俺が言うと、女性は俺の全身を値踏みするように見た。

それは無理もないことだろう。

今の俺の格好は、ただの貧しい船乗りにしか見えないはずだ。


「登録ですか。登録料として金貨一枚が必要ですが、お持ちですか?」


女性の言葉には、あからさまな侮蔑の色がにじんでいた。

金貨一枚というのは、庶民にとって大金である。

俺が払えるはずがないと、見くびっているのだろう。


「ああ、もちろん持ってるよ」


俺は顔色一つ変えずに、懐から金貨の袋を取り出した。

そしてカウンターの上に、金貨を十枚ほどぶちまける。


「これで足りるか、確認してくれ」


その光景に、女性は目を丸くして息を呑んだ。

周りにいた商人たちも、驚いたようにこちらを見ている。


「し、失礼いたしました。すぐに手続きをいたします!」


女性は慌てて立ち上がり、深々と頭を下げた。

その変わり身の速さに、俺は心の中で苦笑する。

やはりどこに行っても、金がものを言う世界らしい。

俺はバルガスと顔を見合わせ、そっと肩をすくめた。


手続きは、驚くほどスムーズに進んだ。

俺は書類に「ミナト」と名前を書き、職業を「商人兼船乗り」と記入する。

取り扱う商品は、とりあえず「食料品」とした。

最後にギルドカード用の銅板に、軽く魔力を込めるように言われる。


言われるがままに銅板に触れると、ぼんやりと光った。

俺の名前が、表面に浮かび上がってくる。

これが身分証の代わりに、なるらしい。


「こちらが、ミナト様のギルドカードになります。今後ギルドの施設を利用される際に、ご提示ください」


先ほどとは全く違う、丁寧な口調で女性が説明してくれた。


「ああ、分かった。それで早速なんだが、いくつか聞きたいことがある」

「はい、何なりとお申し付けください」

「この辺りで有名な特産品がある町を、いくつか教えて欲しい。それと水賊が出没するような、危険な水域の情報もだ」


俺の質問に、女性は手元の資料をめくり始めた。

バルガスが隣で、満足そうにうなずいている。

ギルドに登録した目的は、まさにこれだったのだ。

安全で実りのある交易ルートを、開拓するための情報である。

これがなければ、ただの運任せになってしまう。


「かしこまりました。まずこの町アクア・ポートから、上流に三日ほど船で進んだ場所にロックベルという鉱山の町がございます」


女性は地図を広げ、指でなぞりながら説明を始めた。


「ロックベルでは、鉄鉱石や銅鉱石が豊富に採れます。また腕の良い鍛冶職人が多いことでも、有名です」


鉄か、なるほどな。

船の改造にも使えるだろう。

刃物や農具に加工して、売ることもできそうだ。


「逆に下流に五日ほど進みますと、セレスという農業の盛んな町に着きます。ここでは上質な小麦や、珍しい果物が特産品となっております」


小麦と果物も、魅力的だ。

パンや酒の原料になる。

果物はジャムやドライフルーツに、加工できるだろう。


「危険水域についてですが、現在特に報告が上がっているのは、ロックベルへ向かう途中にある『霧の渓谷』と呼ばれる場所です」

「霧の渓谷、か」

「はい。一年中深い霧に覆われており、視界が非常に悪く座礁しやすい難所です。また最近そこを根城にする水賊団が出没するとの報告が、多数寄せられております」


水賊、やはりいるんだな。

バルガスが、腕を組んでうなっている。


「そいつらは、どんな連中なんだ?」

「『霧の骸骨団』と名乗っているそうです。霧に紛れて、獲物の船にいきなり乗り込んでくるとか。手口が悪質で積み荷を奪うだけでなく、船員を皆殺しにすることもあると聞いております」


物騒な話だ。

普通の商人なら、避けて通るだろう。

だが俺には、バルガスがいる。

それに【万能造船】の力があれば、船を武装することも可能だ。

むしろ獲物が、自分からやってくるようにしか聞こえない。


「分かった、情報はそれだけで十分だ。ありがとう」


俺は女性に礼を言うと、カウンターを離れた。


「ミナト、どうする? やはり最初は、安全なセレスに向かうか?」


バルガスが、心配そうに聞いてくる。


「いや、ロックベルに行こう」


俺は、にやりと笑って答えた。


「水賊退治も、面白そうだろ?」

「はっはっは、そうこなくっちゃな。お前さん見かけによらず、胆が据わってるじゃねえか!」


バルガスは、俺の肩をバンと叩いて豪快に笑った。

その時だった。


「そこのお二人、少しよろしいかな?」


俺たちの会話に、穏やかな声が割り込んでくる。

振り返るとそこに立っていたのは、人の良さそうな笑みを浮かべた恰幅の良い中年男性だった。

服装からして、かなり裕福な商人のようだ。


「俺たちに、何か用か?」


バルガスが、警戒するように前に出る。


「いやいや、警戒なさらないでほしい。私はこのアクア・ポートの商業ギルドで、支部長を務めているガナッシュと申します」


ガナッシュと名乗る男は、丁寧に頭を下げた。

ギルドの支部長とは、相当な偉いさんだ。


「先ほどのあなた方のやり取り、少し耳にしましてね。もしや霧の骸骨団を、討伐するおつもりかなと」

「だとしたら、どうなんだ?」

「いえね。実は我々ギルドも、あの水賊団にはほとほと手を焼いておりまして。もしあなた方が討伐してくださるというのなら、ギルドから正式な依頼として報奨金をお支払いしたいのですが、いかがでしょうかな?」


ガナッシュは、探るような目で俺たちを見ている。


「報奨金、だと?」

「はい。金貨百枚で、いかがですかな?」


金貨百枚は、俺が燻製を売って稼いだ金の何倍にもなる額だ。

断る理由はない。


「分かった、その依頼を受けよう」


俺が答えると、ガナッシュは満面の笑みを浮かべた。


「おお、それはありがたい。ではこちらへどうぞ、契約書を作成いたしますので」


俺たちはガナッシュに連れられて、ギルドの奥にある豪華な応接室へと通された。

革張りのソファに腰を下ろすと、メイドがお茶を運んでくる。

まるでどこかの会社の、社長にでもなった気分だった。

契約は、問題なく進んでいく。

俺は羊皮紙の契約書に、再びミナトとサインした。


「いやはや、頼もしい若者が現れたものだ。ミナト殿バルガス殿、期待しておりますぞ」


ガナッシュは、上機嫌で俺たちを送り出した。

ギルドの外に出ると、日はすでに傾き始めている。


「なんだか、とんでもないことになっちまったな」


俺が言うと、バルガスはにやりと笑った。


「面白いじゃねえか。ただの船旅より、よっぽど退屈しねえ」


その言葉に、俺も頷いた。

確かに、退屈とは無縁の船旅になりそうだ。

ふと見ると、ルナが俺の服の袖を心配そうにつかんでいた。


「ミナト、危ないことはしないで」


潤んだ瞳で、俺を見上げてくる。

俺はルナの頭を、優しく撫でてやった。


「大丈夫だよルナ。俺たちにはこの船と、頼もしい用心棒がいるからな。それに水賊を退治すれば、たくさんの人が助かるんだ」

「うん」


ルナはまだ少し不安そうだったが、こくんと頷いた。

俺たちは、リバーサイド号へと戻る道を歩き始める。

船を改造して、武器を準備しなければならない。

水賊退治は、俺の異世界での最初の大きな仕事だ。


船に戻る途中、俺は市場に立ち寄った。

これから始まる戦いに備えて、食料をたくさん買い込むためである。

肉や野菜、果物を買う。

そして、バルガスのための酒も忘れずに買った。


「お、ミナトじゃねえか。今日はもう店じまいか?」


威勢のいい声をかけてきたのは、魚屋の親父だった。


「ああ。それと親父さん、ちょっと頼みがあるんだ」

「おう、なんだい?」

「魚醤を仕込んだ樽、覚えてるか? あれをもういくつか作りたいんだ。だからまた雑魚を樽いっぱい、譲ってくれないか?」


俺の言葉に、親父は目を輝かせる。


「魚醤か、そういやそんなことも言ってたな。いいぜ持ってきな、いくらでも分けてやる」


どうやら親父も、俺の作る新しい調味料に興味津々のようだ。

俺は親父に礼を言うと、バルガスと二人で樽をいくつも船まで運んだ。

これで、魚醤の大量生産が可能になる。

完成までには時間がかかるが、これも未来への投資だ。

船に戻ると、俺は早速、スキルの力で船の改造に取り掛かった。

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