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第3話

俺はリバーサイド号へと、急いで駆け出した。

桟橋に繋がれている、俺の小さな城だ。

船に素早く飛び乗ると、すぐにスキルを発動させる。

少女を助ける道具が、どうしても必要だ。

ただの棒切れでは、あの激しい流れに届かない。

もっと長くて、少女を確実に捕まえられるものがいる。

そうだ、船の部品でクレーンを作ればいいんだ。


俺は頭の中で、木でできたクレーンを思い描いた。

その先には、魚を捕る網かごが付いている。

必要な素材は、この船を分解すればすぐに手に入る。

「リバーサイド号、頼むぞ」

俺は船の壁に、そっと手を触れた。

すると頭の中に、声が響いてくる。

「素材は揃っています、パーツを建造しますか」

俺は心の中で、強く叫んだ。

「やれ!」

俺の目の前で、船の甲板が強い光を放った。

光の中から、木の腕がゆっくりと伸びていく。

それは川の中心へ、まっすぐに到達した。

周りで見ていた人たちから、驚きの声が上がる。

「おい、見ろよ、いったい何が起きてるんだ」

「船から、木の腕みたいなものが出てきたぞ」

そんな声は、今の俺の耳には届かない。

俺は腕の操作に、全ての神経を集中させた。

思い描いた通りに、腕は水面を滑るように動く。

濁った流れに飲まれる少女のすぐそばまで、先端のかごを近づけた。

「頼む、入ってくれ」

俺は祈るような気持ちで、腕を操作する。

好機は、一度しか訪れないだろう。

少女の体が、一瞬だけ水面にふわりと浮いた。

その瞬間を狙って、かごを的確に沈める。

そして、すくい上げるように一気に引き上げた。

ずしりとした確かな重みが、腕を通じて伝わってきた。

かごの中には、ぐったりとした少女の姿がある。

「よしっ!」

俺は慎重に、しかし素早く腕を船まで引き戻した。

そしてかごから、少女を抱き上げる。

少女の体は、氷のように冷たかった。

顔も真っ青で、呼吸をしていないようだ。

俺はためらわず、少女を甲板に横たえた。

前の世界で覚えた、救命の知識を思い出す。

まずは息の通り道を、確保しなければならない。

少女の小さな口を開け、中の水や泥を指でかき出した。

次に、人工呼吸をする。

少女の鼻をつまみ、口を覆って息を吹き込んだ。

胸が、少しだけ上下するのを確認した。

そして、心臓マッサージを始める。

小さな胸の中心を、両手で強く規則的に押していく。

一回、二回、三回、四回。

周りの騒がしさが、嘘のように遠くなっていく。

俺はただ、目の前の小さな命を救うことだけを考えていた。

「頼む、息をしてくれ」

何度も、何度も圧迫を繰り返した。

額からは、大粒の汗が滲み出てくる。

どれくらいの時間が、経ったのだろうか。

諦めかけた、まさにその時だった。

「げほっ、ごほっ」

少女は激しく咳き込み、たくさんの水を吐き出した。

そして、小さな声で泣き始めた。

「う、うわあああん」

その泣き声を聞いて、俺は全身の力が抜けてしまった。

そのまま甲板に、ぺたんと座り込む。

「よかった」

本当に、助かったんだ。

周りからは、歓声と拍手が沸き起こった。

「すげえ、あの兄ちゃんが子供を助けたぞ」

「あの不思議な船も、一体どうなってるんだ」

人々が俺と少女を取り囲み、それぞれが口々に騒いでいる。

俺はまだ震えている少女を、自分の上着でくるんでやった。

「もう大丈夫だ、怖かったな」

優しく背中をさすると、少女は少しだけ落ち着いたらしい。

俺に、しがみつくように体を寄せてきた。

「あなたは、だれですか」

「俺はミナト、船乗りだ」

「ミナト」

少女は濡れた瞳で、俺を見上げた。

透き通るような青い髪と、青い瞳を持っていた。

とても、綺麗な顔立ちの子だ。

「君の名前は?」

「ルナ」

「ルナか、いい名前だな」

俺がそう言うと、ルナはこくんと頷いた。

ひとまず、この子を安全な場所に連れて行かなければ。

俺はルナを抱き上げると、リバーサイド号の船室に入った。

周りの見物人たちには、軽く頭を下げておく。

船室の中は狭いが、外の騒ぎからは離れられる。

俺はルナを板張りの床に下ろし、濡れた服を脱がせた。

代わりに、俺の乾いたシャツを着せてやる。

少女には大きすぎるが、濡れたままよりは良いだろう。

俺は焚き火で沸かしたお湯を、木のカップに注いだ。

そして、少し冷ましてからルナに手渡す。

「これを飲んで、体が温まるから」

「ありがとう」

ルナは小さな手でカップを受け取り、こくこくとお湯を飲んだ。

少しだけ、顔色も良くなったように見える。

「どうして、川に落ちたんだ。両親は一緒じゃないのか」

俺が尋ねると、ルナは小さく首を横に振った。

「わからない、気がついたら水の中にいたの」

記憶が、ないということだろうか。

それとも、何か言えない事情があるのかもしれない。

「そっか、じゃあこれから行く場所はあるのか」

この質問にも、ルナは力なく首を振る。

どうやら、この子は本当に一人きりのようだ。

このまま、放っておくわけにもいかない。

「じゃあ、しばらく俺の船にいるか。ここなら雨風はしのげるし、飯も食わせてやる」

俺の提案に、ルナはぱっと顔を上げた。

青い瞳が、期待の色で輝いている。

「本当に、いいの」

「ああ、俺も一人で退屈していたところだ。歓迎するよ」

「ありがとう、ミナト」

ルナは嬉しそうに、にっこりと微笑んだ。

その笑顔は、とても可愛らしかった。

俺は昨日売れ残った燻製を火であぶり、ルナに食べさせた。

ルナは最初、警戒していたようだった。

しかし一口食べると、目を丸くして驚いた。

「おいしい、こんなに美味しいもの初めて食べた」

「だろ、俺の特製なんだ。遠慮せずたくさん食べろよ」

ルナは夢中になって、燻製を全部食べてしまった。

よほど、お腹が空いていたのだろう。

食事が終わると、さすがに疲れたのかルナはうとうとし始めた。

俺は自分の毛布を、ルナにかけてやる。

すぐに、穏やかな寝息が聞こえてきた。

俺はその寝顔を眺めながら、これからのことを考えた。

一人旅のつもりだったが、思いがけない同居人ができた。

だが、不思議と嫌な気持ちはしない。

むしろ、この小さな命を守ってやりたいと強く思った。

そのためにも、もっと稼ぐ必要がある。

この船を、快適な住まいに改造してやらなければ。

俺はそっと船室を出て、甲板で燻製作りの準備を始めた。

明日も、たくさん売るつもりだ。

そんなことを考えながら、俺は黙々と作業を続けた。

夜が深まり、空には昨日と同じようにたくさんの星が輝いている。

船室からは、ルナの健やかな寝息が聞こえてきた。

その音を聞いていると、俺の心も不思議と落ち着いた。

一人じゃないというのは、良いものだな。

俺は空を見上げ、少しだけ笑った。

翌朝、俺はいつもより早く目が覚めた。

船室を覗くと、ルナはまだ毛布にくるまって眠っている。

起こさないように、そっと船室を出た。

そして甲板で、朝食の準備を始める。

今日の朝食は、ただ魚を焼くだけではない。

昨日稼いだお金で、少しだけ良い食材を買っておいたのだ。

鳥の卵と、パンを手に入れた。

それから、牛乳のような飲み物もある。

俺は鉄のフライパンを火にかけ、卵を割り入れた。

ジュウという音と共に、香ばしい匂いがした。

簡単な目玉焼きだが、今の俺には最高の食事だ。

パンを軽くあぶり、牛乳を温める。

ちょうどその頃、ルナが目を覚まして船室から出てきた。

「ミナト、おはよう」

「ああ、おはようルナ。よく眠れたか」

「うん、すごくいい匂いがするね」

ルナは鼻をひくひくさせ、フライパンを覗き込んだ。

「さあ、朝飯にしよう。たくさん食べて、元気を出せ」

俺たちは甲板に並んで座り、朝食を食べ始めた。

ルナは初めて見る目玉焼きに、とても興味があるようだ。

俺が食べ方を見せると、真似をしておそるおそる口に運ぶ。

そして、ぱあっと顔を輝かせた。

「おいしい、なにこれ、ふわふわでとろとろ」

「卵だよ、この世界のニワトリが産んだやつだ」

「たまご、こんなに美味しいんだ」

ルナはよほど気に入ったのか、あっという間に食べてしまった。

パンも牛乳も、綺麗になくなる。

その食べっぷりを見ていると、こちらまで嬉しくなった。

「ごちそうさまでした」

ルナはきちんと手を合わせて、お礼を言った。

どこか、育ちがいいのかもしれない。

「ミナトは、これからお仕事」

「ああ、今日も燻製を売りに行くよ」

「わたしも、何か手伝いたいな」

ルナは真剣な顔で、俺を見つめた。

「手伝い、ルナにできることがあるのか」

「うん、わたしはお魚とお話しできるの」

「魚と、話せる」

俺は思わず、聞き返してしまった。

ルナはこくんと、力強く頷く。

「だから、どの魚が美味しいかとか、どこにたくさんいるかとか分かるんだ」

すごい能力だ、と俺は思った。

まさに、水の妖精のような少女だ。

いや、それは俺の勝手な想像だったな。

「それはすごいな、じゃあ今度、漁を手伝ってもらおうかな」

「うん、任せて」

ルナは、得意そうに胸を張った。

その姿が、なんだか微笑ましい。

「でも今日はまだ休んでいろ、船でゆっくりしてな。俺が帰ってくるまで、いい子で待ってるんだぞ」

「うん、わかった」

ルナは少し不満そうだったが、素直に頷いた。

俺はルナに留守番を頼み、完成した燻製を抱えて町へと向かった。

広場に着くと、昨日よりも多くの人が集まっている。

どうやら、俺が来るのを待っていたらしい。

「来たぞ、燻製の兄ちゃんだ」

「待ってたぜ、ミナト」

俺が店を広げる前から、人だかりができてしまった。

中には、昨日も来てくれたバルガスの姿もある。

「よう、ミナト。今日の燻製も期待してるぜ」

「ああ、任せとけ。昨日より、さらに美味くできてるはずだ」

俺は自信を持って言い、布を広げた。

香ばしい燻製の匂いが、あたりに広がる。

それを合図に、客たちが一斉に押し寄せた。

「俺に十本くれ」

「こっちは二十本だ」

もはや、商売というよりは戦いのようだ。

俺は必死に対応し、次々と燻製を売っていく。

昨日あれだけ苦労したのが、嘘みたいだ。

あっという間に、用意した百本以上の燻製が全て売り切れた。

俺の手元には、昨日とは比べ物にならないほどたくさんのお金が残る。

「はあ、疲れた」

俺は空になったかごを見て、ため息をついた。

嬉しい悲鳴とは、まさにこのことだろう。

「ミナト、お疲れさん」

声をかけてきたのは、バルガスだった。

彼も、満足そうに燻製を食べている。

「バルガスか、あんたも買ってくれたんだな。毎度あり」

「おう、ところでミナト、少し話があるんだがいいか」

バルガスは、急に真剣な表情になった。

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