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第25話

玄関の扉を開けた先に、俺たちはただ言葉を失っていた。

そこには、まるで王族が住む宮殿のような空間が広がっていたからだ。

床は、隅々まで磨き上げられた美しい大理石でできている。

高い天井からは、俺が見たこともないほど豪華なシャンデリアが吊るされていた。

その無数の水晶が、魔法の光を何度も反射させて部屋全体を昼間のように照らす。

「おいミナト、これが本当に個人の家だってのかよ。」

隣にいたバルガスが、あっけにとられながらそう呟いた。

彼ですら、この圧倒的な光景には完全に驚いているようだ。

騎士団にいた頃に見た王宮よりも、ずっと豪華かもしれない。

「ミナト見て、天井に天使様が飛んでるよ。」

俺の服の袖を握りながら、ルナが天井画を指差して言った。

彼女の言う通り、そこにはこまやかな筆で描かれた美しいフレスコ画がある。

壁には、有名な画家が描いたであろう風景画が何枚も飾られていた。

部屋の奥には、二階へと優雅な曲線を描いて続く大きな螺旋階段も見えた。

「さあ皆様、どうぞ中へお入りください。」

俺たちの後ろから、ダリウスさんが満足そうな声で言った。

「ここは、私が趣味で建てた別宅なのです。普段は、ほとんど使っておりませんがね。」

趣味で、これほどのものを作ってしまうのか。

大商人の財力は、俺の想像力をはるかに超えているらしい。

俺たちは、まるで夢の場所に迷い込んだような気分で家の中へと足を進めた。

一歩足を踏み入れるだけで、ふかふかの絨毯が俺たちの旅の疲れを優しく受け止める。

「まずは、リビングにご案内しましょう。ささ、どうぞこちらへ。」

ダリウスさんに案内されて、俺たちは奥の部屋へと向かった。

そこは、信じられないほど広々としたリビングルームだった。

部屋の中央には大きな暖炉があり、その前には座り心地の良さそうなソファがいくつも置かれている。

大きなガラス窓の外には、手入れの行き届いた美しい庭園が広がっていた。

テーブルの上には、すでに紅茶と数種類の焼き菓子が用意されている。

「今日から、ここがあなた方の家なのですから。どうぞ、ご遠慮なくおくつろぎください。」

ダリウスさんは、にこやかにそう言った。

俺たちは、少しだけ戸惑いながらも一番大きなソファに腰を下ろす。

その柔らかさは、まるで雲の上に座っているかのようだった。

すぐに、メイドの女性が音を立てない足取りで現れる。

そして俺たち一人一人に、温かい紅茶を丁寧に入れてくれた。

そのむだのない一連の動きは、見ているだけで感心してしまう。

「ミナト殿、まずは長旅の疲れをゆっくりと癒してください。本格的な商売の話は、また明日にでもしましょう。」

「いえ、ですが。ここまでしていただくわけにはいきません。」

俺が遠慮がちに言うと、ダリウスさんは心底楽しそうに笑った。

「はっはっハ、他人行儀なことをおっしゃるな。あなたは、私の大事な友人であり最高の仲間なのですぞ。」

その真っ直ぐな言葉に、俺はもう何も言えなくなってしまった。

彼のこの大きな厚意を、今は素直に受け取ることにしよう。

俺たちは、美味しい紅茶と甘いお菓子をいただきながらしばらくの間談笑した。

バルガスは、ソファの座り心地がよほど気に入ったらしい。

どっかりと深く腰掛け、すっかり王様気分でくつろいでいる。

ルナは、初めて見る珍しい焼き菓子に夢中だった。

口の周りをクリームで真っ白にしながら、本当に幸せそうに頬張っている。

その無邪気な姿を見ているだけで、俺の心も自然と和んでいった。

しばらくして、ダリウスさんとエリアーナさんは商会へ戻ることになった。

「それではミナト殿、また明日の昼にでも改めて使いの者を寄越します。何か不自由なことがあれば、屋敷の者に何なりと申し付けてください。」

「ええ、本当にありがとうございます。何から何まで、本当にすみません。」

俺は玄関まで出て、二人に対して深々と頭を下げて見送った。

重厚な玄関の扉がゆっくりと閉まると、広すぎる家の中に俺たち三人だけが残される。

一瞬、物音ひとつしない空間がそこを支配した。

「さて、と。それじゃあ、俺たちの新しいお城を探検しますか。」

俺が少しだけふざけてそう言うと、バルガスとルナは待ってましたとばかりに顔を輝かせた。

「おうよ、面白そうだぜ。まずは、あの台所からだな。」

「うん、探検だね。二階には、何があるのかな。」

俺たちは、まるで冒険にでも出る子供のように目を輝かせながら家の中を見て回ることにした。

バルガスの希望通り、まずはキッチンからだ。

彼が、キッチンの扉を開けた瞬間に大きな歓声を上げる。

「うおお、すげえ。なんだこのキッチンは、まるで俺の夢がそのまま形になったみてえだぜ。」

そこには、料理人が望むであろう全てのものが完璧に揃っていた。

火力の強いレンガ造りのかまどに、パンも焼ける大きなオーブンもある。

調理台は、ピカピカに磨かれた清潔な銀色の金属でできていた。

壁一面の棚には、世界中から集められたであろうあらゆる種類の香辛料が並ぶ。

「ミナト、俺、ここに住むことにする。もう、お前の船には帰らねえからな。」

バルガスは、本気とも冗談ともつかない口調で高らかに宣言した。

料理好きの彼にとって、ここはまさに天国なのだろう。

次に、俺たちは二階へと上がってみた。

大きな螺旋階段を上ると、そこにはいくつかの扉が並んでいる。

一番手前にある、ひときわ大きな扉を開けてみた。

そこは、主寝室らしかった。

中には、お姫様が使うような天蓋付きの巨大なベッドが置かれている。

「わあ、お姫様のお部屋みたい。ここで、眠れるの。」

ルナが、うっとりとした表情で言った。

他の部屋も、それぞれに工夫を凝らした素晴らしい内装になっている。

どの部屋にも、ふかふかのベッドと専用の浴室がついていた。

俺は、一番眺めの良い部屋を選んだ。

大きな窓からは、この都市の美しい街並みと雄大な川の流れが一度に見える。

バルガスは、キッチンのすぐ上にある部屋を当然のように選んだ。

ルナには、一番日当たりの良い庭に面した明るい部屋を使ってもらうことにする。

彼女は、自分だけの部屋ができたことがよほど嬉しいらしい。

柔らかいベッドの上で、何度も楽しそうにぴょんぴょんと跳ねていた。

家の中を一通り見て回った後、俺たちはそれぞれの部屋で休むことにした。

俺は、備え付けられていた豪華なバスルームでゆっくりと湯船に浸かる。

手足を思い切り伸ばせる、大理石の広い浴槽は最高だった。

旅の疲れが、じんわりと体の芯から溶けていくのを感じた。

風呂から上がると、俺は用意されていたふかふかのベッドに体を横たえる。

船の少し硬い寝床とは、比べ物にならない最高の寝心地だ。

穏やかで、とても心地よい夜だった。

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