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第20話

完成した高炉は、工房の屋根を突き抜けるほどの高さになった。

その姿は、まるで天に届く鉄の塔のようだ。

俺とギデオンさんは、そのすごい存在感の前に言葉を失った。

「本当に、できてしまったな。わしらの、夢の炉が」

ギデオンさんが、感動したようにかすれた声で言った。

その目には、うっすらと涙が浮かんでいるように見える。

「ええ。ですが、まだ完成じゃありませんよ。これから、こいつに魂を入れるんです」

俺は、にやりと笑って言った。

いよいよ、この高炉に初めて火を入れる時が来たのだ。

俺たちは、炉の中にたくさんの石炭と星鉄鉱を入れた。

そして炉の中心部にある魔力増幅器に、俺が魔力を込める。

俺の体から放たれた魔力が、炉の全体に巡っていった。

ごおおお、という低い地鳴りのような音が響き渡る。

炉の中で、炎が燃え盛るのが見えた。

その炎は、普通の炎とはまったく違う。

まるで太陽のかけらのように、まぶしいほどの白い光を放っていた。


工房の中の温度が、一気に上がっていく。

俺たちは、額から出る汗を拭くのも忘れてその光景を見守っていた。

「すごい、なんて温度だ。これなら、星鉄鉱を間違いなく溶かせる」

ギデオンさんは、興奮を隠せない様子で叫んだ。

高炉は、数時間にわたって大きな音を上げ続けた。

そして、ついにその時がやって来る。

炉の下にある排出口から、溶けた鉄が流れ出してきたのだ。

それは、まるで光り輝く川のようだった。

どこまでも滑らかで、余計な物をまったく含まない完璧な溶けた鉄だ。

伝説の鉱石である星鉄鉱が、ついに人間の手によって溶かされた瞬間だった。

「やったぞ、ミナト殿。わしたちは、ついにやったんじゃ」

ギデオンさんは、俺の手を握って子供のように跳びはねて喜んだ。

俺も、こみ上げる達成感に思わず拳を握った。

流れ出た溶けた鉄は、用意しておいた鋳型に注がれていく。

そしてゆっくりと冷やされ、美しい輝きを放つ鉄の塊になった。

それは、まるで鏡のように俺たちの顔を映している。

信じられないほど軽く、指で弾けばキーンと美しい音がした。

「これが、星鉄か。なんと、美しいものだ」

ギデオンさんは、うっとりとした表情で完成した鉄の塊を撫でた。

長年の夢が、今彼の目の前で本当のことになったのだ。


「ミナト殿、この礼は、どう言ったらいいか分からん。あんたは、わしの生涯の恩人じゃ」

彼は、俺に向かって深々と頭を下げた。

「顔を上げてください、ギデオンさん。これは、俺たち二人の力でやり遂げたことです」

俺たちの周りでは、工房の職人たちから大きな歓声と拍手が上がっていた。

バルガスも、満足そうに腕を組んでうなずいている。

ルナは、ぴょんぴょんと跳ねて自分のことのように喜んでくれた。

この日の成功は、すぐに町中の噂になった。

誰もが不可能だと思っていた星鉄鉱の精錬に成功した、謎の船乗りと頑固な老職人の話だ。

俺たちの工房には、噂を聞いた多くの職人たちが見学に訪れるようになる。

誰もが、天を突く高炉とそこで生み出される奇跡の金属に驚いていた。

「すごい、本当に星鉄じゃないか」

「こんな金属は、見たことがない。まるで、魔法のようだ」

人々は、それぞれに褒める言葉を口にした。

ギデオンさんは、一躍この町の英雄になった。

そして俺も、ミナトという名前で町中の人々に知られることになった。


数日後、俺はギデオンさんとこれからのことについて話し合った。

「ギデオンさん、この高炉と星鉄の技術は、あなたに全て譲ります」

俺の言葉に、ギデオンさんは驚いて目を見開いた。

「な、何を言うんじゃ、ミナト殿。これは、あんたの知識と力があったからできたものじゃ」

「ええ。ですが、俺は旅の者ですから。いつまでも、この町にいるわけにはいきません」

俺は、穏やかに言った。

「この素晴らしい技術は、この町でこそ生かされるべきです。あなたの手で、この星鉄を使って最高の武具や道具を作ってください」

それが、この町とギデオンさんへの俺なりの感謝の気持ちだった。

俺は、名声や富が欲しいわけではない。

ただ俺の知識が誰かの役に立ち、その笑顔を見ることができればそれでいいのだ。

俺の決意が固いことを知ると、ギデオンさんは涙を浮かべてうなずいた。

「分かった、ミナト殿。あんたのその大きな志は、確かに受け取った。このギデオン、生涯をかけてこの技術をさらに良くしてみせよう」

こうして、この町の未来を大きく変える技術の引き継ぎが終わった。

その代わりに、俺はギデオンさんから十分な量の星鉄の塊を譲り受けた。

もちろん、代金はきっちりと支払っている。

俺の燻製ビジネスで稼いだ、有り余るほどのお金があったからだ。

これで、俺の目的は完全に達成された。

最高の材料を、手に入れたのだ。

俺は、さっそくリバーサイド号の加工室で新しい機械の製作を始めた。


星鉄を使って作られた機械は、俺の想像をはるかに超える性能を見せた。

驚くほど滑らかに動き、少しの狂いもなく魚を加工していく。

その効率は、以前の機械の十倍以上だった。

これさえあれば、燻製や干物の大量生産も夢ではない。

俺のビジネスは、また一つ大きな武器を手に入れたのだ。

ロックベルの町に来てから、二週間が過ぎた。

俺たちは、すっかりこの町の一員として受け入れられている。

バルガスは、鉱夫たちと飲み比べをしては勝ち続けていた。

すっかり、町の人気者になっている。

ルナは、ギデオンさんの工房で宝石の加工を手伝うのが日課だった。

彼女の器用な手先は、細かい作業に向いているらしい。

職人たちも、可愛いルナを孫のように可愛がってくれた。

俺は、機械の調整を終えた後、のんびりと町の散歩を楽しんでいた。

この町の、活気と熱気に満ちた雰囲気が俺は好きだった。

だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。

俺たちの旅は、まだ始まったばかりなのだ。


その夜、俺はバルガスとルナをリビングに集めた。

「二人とも、聞いてくれ。そろそろ、この町を出発しようと思う」

俺の言葉に、二人は少しだけ寂しそうな顔をする。

だが、すぐに力強くうなずいた。

「分かったぜ、ミナト。あんたが決めたなら、俺はどこまでもついていく」

バルガスが、頼もしい声で言った。

「うん。わたしも、ミナトと一緒に行くよ」

ルナも、はっきりと自分の気持ちを告げた。

俺は、最高の仲間に恵まれたと心から思う。

「よし、決まりだな。次の目的地は、川を下った先にある商業都市だ。ダリウスさんとの、約束があるからな」

俺たちの新しい冒険が、また始まろうとしていた。

翌朝、俺たちは町の人々の盛大な見送りを受けて出発の準備をする。

港には、俺たちとの別れを惜しむたくさんの人々が集まっていた。

ギデオンさんも、弟子の手を借りてわざわざ見送りに来てくれた。

「ミナト殿、世話になったな。あんたのことは、わしは一生忘れんぞ」

彼は、しわくちゃの手で俺の手を固く握った。

その目には、感謝と寂しさの色が浮かんでいる。

「俺の方こそ、お世話になりました。また、必ず会いに来ますから」

俺がそう言うと、彼は嬉しそうに何度も頷いた。

「ああ、待っておるぞ。次に会う時までには、この星鉄で世界一の剣を作ってみせる」

俺たちは、固い再会の約束を交わした。


やがて、出航の時間が来た。

俺は、リバーサイド号の舵を握る。

「リバーサイド号、出航だ」

俺の合図と共に、船はゆっくりと岸壁から離れていった。

港からは、いつまでも俺たちの名前を呼ぶ声と別れを惜しむ声が聞こえる。

「達者でな、ミナト」

「バルガス、また飲み比べしようぜ」

「ルナちゃん、また遊びに来てね」

その温かい声援に、俺たちは大きく手を振って応えた。

リバーサイド号は、ゆっくりと向きを変える。

そして、川の流れに乗って下流へと進み始めた。

活気あふれる鉱山の町が、少しずつ遠ざかっていく。

だがこの町で得た経験と絆は、俺たちの心の中にずっと残り続けるだろう。

俺は、新しい目的地である商業都市に気持ちを向けた。

次の町では、どんな出会いと出来事が待っているのだろう。

俺は、期待を胸にしながら舵を握る手に力を込めた。

船は、順調に川を下っていく。

上流から下流へ向かう流れは、とても速くて気持ちがよかった。

ルナは、甲板の先頭に立って嬉しそうに風を受けている。

その髪が、きらきらと太陽の光を反射して輝いた。

バルガスは、見張り台の上で気持ちよさそうに昼寝をしていた。

いや、きっと周囲をしっかりと警戒しているはずだ。

俺は、そんな平和な光景を眺めながらこれからの計画を練る。

ダリウス商会と組んで、いよいよ本格的な商売を始めるのだ。

まずは、この星鉄製の機械で作った最高品質の燻製を市場に出す。

きっと、大きな話題になるに違いない。

それから、あの村の漁師たちが獲る新鮮な魚も売り出そう。

リバーサイド号の生け簀を使えば、内陸の町でも新鮮な川魚を届けられるはずだ。

これも、きっと画期的なことになるだろう。

考えているだけで、わくわくしてくる。

俺の頭の中には、新しい商売の考えが次々と浮かんできた。

旅をしながら、自由に商売をする。

それは、俺がずっと夢見ていた生き方そのものだった。

船旅は、数日間続いた。

川の両岸の景色は、山の多い地域から再び広大な平野へと変わっていく。

川幅も、どんどん広くなってきた。

行き交う船の数が、明らかに増えてくる。

大きな帆を張った、立派な商船の姿も珍しくなくなった。

目的の商業都市が、近いという証拠だった。

そして出発から五日目の昼過ぎのことだ。

見張り台から、バルガスの興奮した声が響き渡った。

「おい、ミナト。見えてきたぜ、とんでもなくでけえ町だ」

俺は、前方に視線を向ける。

地平線の向こうに、巨大な町の影が浮かび上がっていた。

これまで見てきたどの町よりも、大きく活気に満ちているのが遠くからでも分かる。

あれが、目的の商業都市か。

俺は、思わずごくりと喉を鳴らした。

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