②ヒロシ、復活!
「……そうだ!」と、大きな声を出した凛。
また、何か思いついた様だ。
キッチンへと走った。
戻って来ると、手には小瓶が握られている。
具合の悪い祐介が、半身を起こした。
「……なんだよ、それ?」
「これ、ヒロシが買ってた精力増強剤」
「はあっ? そんな物で、人が生き返るわけないだろ!」
「でも、ここ見てよ!」
凛が、小瓶に貼られたシールを指差す。
「蘇る、みなぎる、奮い立つ。マカの力で復活、最強の皇帝降臨だって!」
「いやいや、無理だって! 皇帝って誰だよ!」
しかし、一度思いついたら、絶対にやらないと気が済まないのが凛。
蓋を取ると、瓶ごとヒロシの口にねじ込んだ。
「おいおい、溢れてるだけじゃないか! やめろって」
祐介が、ヒロシの口から小瓶を取り出した時、凛が驚いた顔をした。
「あれっ? 今、ヒロシが目を開けたよ!」
慌てて祐介が、ヒロシの顔を確認する。
しっかり閉じている。
「開いてねえよ! お前の願望だろ?」
「あれ、おかしいな……」
おかしいのは、お前の頭だ。
祐介は、そう言いたかった。
「そうだ! 復活ソングを聴かせようよ!」
また凛が、馬鹿な事を言い始めた。
いい加減にしてくれ、と祐介はきつく目を閉じた。
「ねえ、『愛しい人よグッドモーニング』って歌、知ってる?」
「……知らないし、知りたくもない」
脱力した祐介が、投げやりに答える。
対照的に凛は、目をらんらんとさせていた。
制服のポケットから、スマートフォンを取り出すと、画面をタップし始めた。
その歌を、聴かせるつもりなのだろう。
「今、大人気のガールズバンドだよ。イカレポンチーズっていうバンド。この『愛しい人よグッドモーニング』が凄い話題になってるの。死んだハムスターが、この歌を聴いて生き返ったって、ネットニュースになったんだから!」
「……それ、ハムスター死んでなかったんだよ。ビックリして動かなくなったのを、死んだと思ったんだよ。そしたら、また動きだしたんじゃないの? その時、テレビで偶然その歌が流れてたとか……どうせ、そんなところだろ」
「とにかく、やる価値はあるよ」
「ねえよ、時間と電波の無駄! そもそもヒロシは、ハムスターじゃないぞ」
何を言っても、聞く耳を持たない凛。
さっそく、音楽を再生した。
スマートフォンから、軽快なイントロが流れ出すと、パンチの効いた女性ボーカルが歌い始める。
(Aメロ)
誰かが食べたうどんの残り汁
それが私の主食なの
幼稚園児にカツアゲされる俺様
逃げると三輪車で轢かれ意識不明の重体
(Bメロ)
ねえ あたいのメガネ 何処にある?
今バキッと何かを踏んでしまったわ
マジでキレる五秒前
コロス、ウメル、クサル、ルルル
(サビ)
ラブ・イズ・オーバー 愛のはじまり
アイル・キル・ユー 長生きしてね
お願い起きて 起きろコラ
愛しい人よグッドモーニング
「何だよ、このふざけた歌詞は。こんなものが流行るとか、世も末だな」
祐介が呆れかえっていると、ウウゥ……と不気味な声がした。
祐介が怪訝な顔で、凛を見る。
「変な声を出すなよ、凛。気持ち悪いな」
「私、何も言ってないよ」
凛が音楽を止める。
今度はハッキリと、ウウゥ……と、地を這うような呻き声が聴こえた。
祐介と凛は、同時にゴクリと唾を飲み、ヒロシの顔を覗き込んだ。
すると突然、ヒロシの目が、カッと見開いた。
「うわっ、ビックリした! ヒロシが生き返った!」
「ほらねっ! やっぱり、この歌は復活ソングなんだよ!」
「とにかく良かったぁ!」
祐介と凛は、心から歓喜した。
しかし、ヒロシの様子が、どうもおかしい。
身体を小刻みに震わせている。
目は充血しているし、口からは泡を吹いているではないか。
「うがぁぁぁ!」
突然、ヒロシが凛に襲いかかる。
「キャア!」
悲鳴を上げて転がる凛に、ヒロシは馬乗りになって、嚙みつこうとした。
慌てて、ヒロシを押しのける祐介。
「やめろよ、ヒロシ!」
「ヒロシ、どうしちゃったの?」
二人は後ずさりして、ヒロシから距離をとった。
「むがぁぁぁ!」
また襲いかかってくる。
完全に、狂人と化していた。
恐怖を感じた祐介と凛は、近くにあるトイレへと逃げ込んだ。
便器が一つある、狭い個室。
祐介は素早く、内側の鍵を閉めた。
ドスン! ドスン!
外からはヒロシが、開けろと言わんばかりに、何度もドアを叩いてきた。
「ねえ、ヒロシおかしいよ。どうしたんだろ?」
前髪の乱れた凛が問い掛ける。
しかし、裕介には見当もつかない。
「分からねえよ……」
ヒロシはドアを叩きながら、狂ったように「うがぁ、うがぁ!」と、凶暴な声を出し続けた。
「お兄ちゃん、あれって、もしかして……ゾンビじゃないの?」
「ゾンビ?」
「小学生の時、お兄ちゃんとゾンビを撃つゲームをやったよね。あれにそっくりなんだけど」
まさか、そんなわけ……。
祐介は考えた。
確かに一度死んでいたし、蘇った後の変貌ぶりは、まるでゾンビのようだ。
祐介は顔をしかめて、凛を見た。
「認めたくないけど……もしかしたら、本当にゾンビかも……」
祐介がそう言うと、凛はウンウンと頷いた。
ピンポーン!
その時、家のチャイムが鳴った。
こんな時に、一体誰だ?
つづく……




