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【書籍化決定】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました  作者: 天地サユウ
第七章

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第八十話 真実を映す鏡

後書きを見てやってくださいませm(__)m

 広場に降り立つと、そこは異様な臭気に満ちていた。

 人々の汗、古い布の埃っぽさ、そして腐りかけたカボチャの悪臭。


 イザベラ様は優雅な手付きでハンカチを鼻先に当て、カトレア様の山車の前へと進み出る。

 

「ごきげんよう、カトレア。随分と手のかかるファンに囲まれているのね」

「……イザベラ、皮肉を言いに来たのならお帰り遊ばせ」

 

 カトレア様は足元に散らばる陶器の破片を一瞥し、忌々しげに唇を噛んだ。

 

「誰がやったかも分からない。謝罪させる相手もいない。わたくしの敵は、いつだって堂々と正面から挑んでくるべきなのに……」

「顔を隠して物を投げるなんて、愛の告白にしては随分と手順が間違っているものね」

 

 イザベラ様はカトレア様と肩を並べ、群衆を見回す。

 数千の仮面が、一斉に二人を捉える。

 不気味なざわめきが波を打つ中、イザベラ様は凛とした声を響かせる。

 

「お聞きなさい、恥ずかしがり屋の子猫たち! 貴方たちが欲しいのは、お菓子などではないと分かっていますわ! 私という絶対者からの承認でしょう?」

「な、何を言っているんだ、あの女……?」

 

 扇動者であるジャックの困惑をよそに、イザベラ様は不敵な笑みを深めた。

 

「顔を隠しているのは自信がないから? それとも、私に見つめられると照れてしまうからかしら」

「ふっふん。イザベラ、彼らはわたくしたちの美貌のに耐えられないだけよ」

 

 カトレア様もまた、冷ややかな視線で暴徒を射抜く。

 二人の堂々たる立ち振る舞いが、群衆の足裏を地面に縫い付けていた。


 ――今だ。

 私は背後に控えるエステナと無言で視線を交わす。

 事前に手配していた仕掛けを展開する絶好のタイミング。

 

「エステナ様、準備はよろしいですか?」

「はい、リリアナ様。令嬢たちも、すでに配置についています」

 

 互いの眼鏡のブリッジを押し上げ、私は一歩前へ歩み出る。

 

「イザベラ様、鏡の準備が整いました」

「そう。あの子猫たちに現実というものを教えてあげる時間ね」

 

 イザベラ様がスッと扇子を振り下ろす。

 それを合図に、広場の四方に待機していた軍団が動く。

 王宮から運び出された高さ二メートルを超える巨大な姿見が、幾面も連なって暴徒たちを包囲していく。

 

「鏡……?」

 

 群衆の視界に、彼ら自身の姿が映し出された。

 粗末な麻袋を被り、汚れたゴミを握りしめる集団。

 大衆という名の匿名性を剥ぎ取られた彼らは、鏡を通せば、ただの滑稽な不審者の群れでしかない。

 

「俺たちは、こんな格好をしていたのか……」

 

 己の姿を直視させられ、穴の開いた仮面の下で無数の瞳が泳ぎ始める。


「皆様、あの方々のファッションチェックを始めなさい!」

 

 カトレア様の号令が飛ぶ。

 鏡の傍らに立つ令嬢たちが、扇子で口元を隠しながら一斉に声を上げ始めた。

 

「まあ、あの方のシーツ。五年前の流行りの安価な麻布ですわね。よほど物持ちがよろしいのね」

「あちらのカボチャ頭は、彫り口がひどく歪ですわね。刃物を研ぐ余裕もなくて?」

「見てくださいまし、あの靴。泥で隠しているつもりでしょうけど、踵の擦り切れ具合が丸見えですわよ。歩き方に品性がない証拠ですわね」

 

 広場を包囲する、令嬢たちの冷酷な品評会。

 生地の質、手入れの状況、姿勢の悪さ。

 些細な特徴から容赦なく個人の生活水準を特定し、世間体という鋭利な刃で彼らの自尊心を削いでいく。

 

「ち、違う! 俺じゃない……」

「あら、逃げるのかしら? 愛の告白に来たのでしょう?」

 

 群衆の最前列でたじろぐ大柄な男の前に、イザベラ様が歩み寄った。

 

「私に見つめられて緊張していますの? ですが残念ですわ。その汚い袋のせいで、貴方の瞳がよく見えませんの。お取りなさいな」

「えっ……」

「あら、自分の顔に自信がないのかしら?」

 

 射抜くような威圧感に耐えきれず、男は自ら麻袋をかなぐり捨て、顔を覆いながら駆け出す。

 それが致命的な引き金となり、一人が逃げれば、隣の者も『特定される恐怖』に耐えられなくなる。


 次々と得物が投げ捨てられ、蜘蛛の子を散らすように群衆が瓦解していく。

 

「皆の者、待つのだ! 俺たちは数だ! 団結するんだ!」

 

 演壇の上でジャックが叫ぶ。

 しかし、彼の周囲にはすでに誰一人残っていなかった。

 

「さあ、残るは貴方だけですわ。その大きなカボチャ頭、そろそろ重いのではなくて?」

 

 イザベラ様とカトレア様が、逃げ道を塞ぐようにジャックの前に立つ。

 私が目配せをすると、取り巻きたちが鏡の角度を一斉に変え、ジャックを取り囲んだ。

 四方八方の鏡に、無様なカボチャ男の姿が乱反射する。

 

「往生際が悪いですわね」

 

 私は手元のバインダーを開く。

 ここからは、逃げ場を失った彼に実務的かつ法的な止めを刺す時間だ。

 

「ジャックさん。いえ、オウル男爵ですね」

「ち、違う……」

「貴方が手にしている杖の翡翠。古美術商で先月販売された一点物ですが、代金五百枚が未払いだと督促状が届いています。貴方の動機は暴動に乗じて借用書のある金融業者を襲わせること。違いますか?」

 

 痛いところを突かれ、男爵の指から杖が滑り落ちた。

 

「証拠だ……証拠を出せ! 俺がオウル男爵だと決めつけるのは横暴だ!」

「無駄な足掻きですわね」

 

 イザベラ様が冷たく言い放ち、扇子の先をカボチャの縁に引っ掛け、勢いよく弾き飛ばした。

 硬質な音を立てて仮面が石畳に転がる。

 白日の下に晒されたのは、脂汗で光る小太りな中年男。

 

「くっ……そ、それがどうした! いかにも俺がオウルだ! だが、男爵である俺には不逮捕特権がある! 今日のところは帰らせてもらうぞ!」

 

 身分を盾に堂々と立ち去ろうとする男爵の背中に、私は事実を突き刺す。

 

「特権ですか? おかしなことを言いますね。貴族も平民もない、我々は自由だと言っていたのは貴方ご自身です。貴方は自らの意思で貴族の身分を放棄したと見なされます。よって、特権は適用されません」

「なっ……!? それは言葉のアヤだ!」

「法廷でご主張ください。警備兵、暴動扇動および詐欺未遂の容疑で拘束してください」

 

 喚き散らす男爵が連行され、広場にはようやく夜の静寂が戻った。

 

「あっけない幕切れだこと」


 カトレア様が小さく息を吐いた。


「ですが、リリアナ。逃げた暴徒たちが、今頃家で『バレなくてよかった』と胸を撫で下ろしているなんて、私の美学が許さないわ」

「ご安心ください、イザベラ様。請求書の発送はすでに完了しています」

 

 王都の夜空を、無数の伝書鳩が飛び立っていく。

 彼らが届けるのは、逃げ帰った暴徒たちの姿を正確に捉えたスケッチと、添えられた一枚の羊皮紙。

 

『請求書:看板修繕費、慰謝料、および公爵令嬢と侯爵令嬢の視界を汚した罪。金貨五十枚』

 

 匿名だと思っていたのは本人たちだけであり、裏方である私には、彼らの身元などお見通しである。


 今夜、王都のあちこちで絶望の悲鳴が上がるに違いない。

 

「素晴らしい眺めですわ。あれぞ正義の使者ね」

「はい。これで騒動は解決です」

「いいえ、まだよ。自分の出したゴミは、自分で片付けさせるのが筋というもの」

 

 イザベラ様は、広場の隅で震えていた逃げ遅れの暴徒たちに、ほうきとちりとりを手渡した。

 

「お菓子はあげませんが、この広場をチリ一つなく掃除するなら、悪戯の額をまけてあげてもよろしくてよ?」

「「「……や、やります! やらせてください!」」」


 月明かりの下、二人の悪役令嬢の厳しい監督のもと、暴徒たちによる必死の大掃除が始まった。

 

 数刻後。

 事後報告のため、王宮のバルコニーへと戻った私の耳に、眼下の広場を見下ろす殿下の呟きが届いた。

 

「やれやれ。結局、抑止力は恥と金か」

「はい。そして何より、それを突きつける美学を持った令嬢たちです」

 

 私は心地よい夜風に吹かれながら、鏡のように磨き上げられていく王都の石畳を見つめた。


 今年のハロウィンは、王国の歴史上、最も道が綺麗になった日として記録されることになるだろう。

皆さま、ここまでお付き合いいただきまして、本当にありがとうございます!

このたび、本作【書籍化】します(歓喜)

まあ、色々とご報告したいことはあるのですが、詳細な発表は近日、活動報告にてさせていただきます。

さらに初の現実恋愛の連載を始めました。


タイトル:ド平均な僕、なぜか完璧な彼女の恋人らしい

https://ncode.syosetu.com/n0444lq/

こちらも是非見てやってくださいませ。


兎にも角にも、今後とも、天地サユウをよろしくお願いしますm(__)m

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― 新着の感想 ―
(祝)書籍化
あらあら♪挿絵はさすがにまだ分からないデスよね
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