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【連載版】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました  作者: 天地サユウ
第七章

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第七十四話 三つ巴の戦い

 一般投票が始まった。

 イザベラ様の『薔薇色視線の先にある絶対王政の美学』のブース前。


「な、なんだ、この文字量は……」

「読んでも読んでも終わらないわ……」

「『彼が踏んだ石になりたい』? 深い、深すぎる」


 意外な反応が起きていた。

 あまりに常軌を逸した執着と文章量が、一部のインテリ層やミステリー愛好家の間で、深読みされていたのだ。


「これはただの恋愛小説ではないぞ」

「貴族社会の闇を描いたドキュメンタリーかもね」

「高度な暗号文書ではないのか?」

「作者は天才か、はたまた狂人か……」

「エクセレント! エッチェッレンテ! 素晴らしい! この狂気的なまでの描写は、まさにアバンギャルド! アヴァンガルディア! 前衛的だ!」


 あのピンクの巻き髪の人は、美容師のミロさんだ。

 どうやらミロさんも読書に興味があるようだ。

 イザベラ様は震える読者たちを見て、満足げに扇子を揺らす。


「オーホッホッ! 見なさい、リリアナ! 民が私の愛に感動して震えているわ!」

「そのようですね……」


 私には恐怖で震えているようにしか見えないが、結果オーライだろう。

 一方、カトレア様のブースを見てみる。


『激流や 貴方逃がさぬ ダム建設』


「なんて力強いんだ……」

「愛の重さを治水工事に例えるとは……」

「ノベルティ! イノヴァティーヴォ! 斬新だ!」


 こちらもまた、そのあまりの勢いと意味不明さが、既存の枠に囚われない新しい波として受け入れられつつある。

 混沌とする読書祭りではあるが、本当のプロ(強敵)は、まだ姿を現していない。


 会場の奥、特別展示室には正体を隠した大物作家たちの作品が、静かにその時を待っているのである。


 ◇


 王都大図書館での熱狂は、日を追うごとに熱を帯びている。

 イザベラ様の『超長編・怪文書ポエム(鈍器)』は、その難解さゆえに『解読班』が結成され、インテリ層の間でカルト的な人気を博していた。


 対するカトレア様の『激流川柳(三行)』は、『余白の美』として、哲学カフェで議論の的となり、意識高い系の人々に支持されている。


 混沌とする読書祭りではあるが、本当のプロ(強敵)たちは、まだ姿を現していない。


「おい、リリアナ。ここに妙な本が紛れ込んでいるぞ」


 ふと、殿下が『その他・一般公募』の山の中から、一冊の本を拾い上げる。

 装丁はシンプルだが、タイトルを見た瞬間、私の心臓がドクリと跳ねた。


 タイトル:『悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました』

 ペンネーム:名もなき社畜


「……なんだ、このやたらと説明口調で長いタイトルは」

「さあ? 最近流行りの『異世界転生モノ』の一種ではないでしょうか?」


 私はポーカーフェイスを保ちつつ、横目でそのあらすじを盗み見る。


『「私はただのモブAでいいのに!」高飛車な主君の尻拭いに奔走していたら、なぜか冷徹な俺様王子に目をつけられ、王宮の社畜として引き抜かれてしまう! 有能すぎる苦労人侍女の、お仕事奮闘ラブコメディ!』


「ほう? この『俺様王子』、随分と人使いが荒いようだな」


 殿下の目が笑っていない。

 こめかみに青筋を浮かべながら、ページをパラパラとめくる。


「『私の安眠を返せ。有給をよこせ。あとボーナスは三倍にしろ』……ふん、この主人公、随分と金にがめついな。それに、この悪役令嬢の暴れっぷりも、誰かに酷似している気がするが」


 殿下の視線が、突き刺さるように私に向けられる。

 私は冷や汗を流しながら、必死に首を横に振った。


「殿下、気のせいです。世の中には似たような境遇の可哀想な従者が五万といるのでしょう」 


 だが、この膠着状態を打ち破る、第三の勢力が現れた。


「きゃあああ! 可愛いわっ!」

「この表紙も尊いわよ!」

「挿絵がいっぱいだわ! 文字が少なくて読みやすいわね!」


 黄色い悲鳴が上がる。

 私も気になって見ると、そこにはパステルカラーの特設ブースが築かれていた。

 中心に立っているのは、小柄で愛らしい少女。

 ふわふわのピンク髪をツインテールにし、フリルとリボンを過剰なまでに盛り込んだドレス――ローゼンバーグ商会のセカンドライン『ドリーム・キュート』の新作を着こなしている。


「皆さん! ローゼンバーグ商会・セカンドライン『メゾン・ミミ』のチーフデザイナー兼、超人気作家(自称)のミミ・フォン・バロンなのですっ!」


 ミミはウィンクを飛ばしながら、自身の新刊を掲げた。

 タイトルは『転生したら儀礼用リボンだった件 〜イケメン王子に結ばれて離れられないの!〜』


「なんですの、あのふざけたタイトルは!?」


 イザベラ様が戦慄する。

 ミミの作品は、これまでの重厚な文学とは一線を画していた。表紙にはキラキラした瞳の美少女と美少年が描かれ、中身は会話文ばかり。さらに数ページおきに挿絵が入っているのだ。


「ミミ! 貴女、なぜ私の敵に回っていますの!?」

「あ、お嬢様! お疲れ様なのです!」


 ミミは悪びれもなく、ぺろりと舌を出した。


「お嬢様の本は文字ばかりで『圧』が強すぎるんです。これからの時代は『映え』と『萌え』ですっ! 見てください、この行列を!」


 確かに、ミミのブースには若い令嬢たちが殺到している。

 彼女たちはミミの本を抱きしめ、「王子様かっこいいわよね!」「ヒロインちゃん頑張れ!」と目を輝かせている。


「『萌え』ですって!? 愛とはもっと燃えるような魂の叫びであるべきよ!」

「ふっふん。時代遅れよ、イザベラ。……でも、小娘のあの軽さは癪に障るわね」


 カトレア様が珍しくイザベラ様に同意し、鋭い視線をミミに向ける。

 重厚な狂気のイザベラ様。

 研ぎ澄まされた殺意のカトレア様。

 そして商業的な萌えのミミ。


 三つ巴の戦いが勃発した結果、王都の経済にまで影響が出始めるとは、私は想像もしていなかった。

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