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【連載版】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました  作者: 天地サユウ
第六章

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第六十四話 約束は、剣の先に

 貴賓席に戻った私を迎えた殿下は、眼下の決闘場を悠然と歩く姉の姿を見て、心底驚いたように目を丸くしていた。


「……リリアナ、お前の姉は本当に人間なのか?」

「はい。一応、人間です。我が家の物理的最強の矛と盾ですね」


 私が涼しい顔で答えると、隣でイザベラ様が、『肉体美!』と金粉で書かれた扇子をバサリと開いた。


「まあ! なんて野性的で素晴らしい躍動感! まるで獲物を狙う女豹のようですわね! 私のドレスのモチーフにしたいくらいだわ!」


 イザベラ様の独特な賛辞をよそに、退場ゲートへ向かうルルティア姉さんの前に、一人の騎士が立ちはだかるが見えた。

 通路の奥で待ち構えていたのは、白銀の鎧に身を包んだカイゼル王国最強の盾――近衛騎士団長、デアシルト・フォン・ケーニヒスライヒ様だ。


「よう、相変わらずだな。おてんば娘」

「お、久しぶりだな、おっさん」

「お、おっさんだと……。俺はまだ28だぞ……」


 王国一の騎士団長を「おっさん」呼ばわりするあたり、さすが私の姉である。

 会場のマイクが拾ったその会話に、殿下が苦笑する。


「今年も賞金目当てにやって来たよ。今回は家の改築費用が必要なんだよ」

「ハッハッハッ! 確か前回は借金を返すと言っていた気がするが、その調子では無事に返せたようだな。どうだ? お主なら副団長に迎えてやってもいいぞ?」

「ふん、またその話かい。何度も言ったはずだよ。あたしは縛られるのが嫌いなんだよ。しつこい(おとこ)は嫌われるよ」


 ルルティア姉さんは、フンと鼻を鳴らした。

 だが、団長も負けてはいない。

 歴戦の猛者らしい不敵な笑みを浮かべる。


「同じ答えか。まあ、仕方ない。ならば今年も決勝で待っているぞ。その首を縦に振らせるには、言葉よりも剣で語り合う方が早そうだ」

「ふん、やれるものならやってみな、おっさん」

「言っておくが、今年の私は一味違うぞ、おてんば娘」


 ルルティア姉さんとデアシルト団長は、親しげに、しかし火花を散らして睨み合っている。

 過去の大会で幾度か決勝で交え、優勝を奪い合ってきた好敵手同士。


 そんな二人を見て、イザベラ様が頬を紅潮させて身を乗り出す。


「あらあらあら!? リリアナ、今の聞いたかしら? 『言葉よりも剣で語り合う』ですって! これは実質的な求愛行動。そう、プロポーズよ!」

「……間違いなく違うと思いますが、その解釈も有りかもしれません」


 私が適当に流すと、ルルティア姉さんは不敵に笑い、デアシルト団長の横を通り過ぎていった。


 しばらくすると、反対側のゲートから次の予選の選手が入場してきた。

 同じく白銀の鎧だが、まだ若い騎士のようだ。


「対するは! 王宮騎士団の若き獅子! カイル・ディルクハウゼンだぁぁぁ!」


(え? カイル君も出てたの?)


 以前、船上にいた時に思ったが、その立ち姿には自信と風格が備わっている。

 彼もまた、私との約束――『騎士団長になる』という目標のために、この大会で武功を立てようとしていたのだ。


「カイル君まで……」


 私は胸が熱くなるのを感じた。

 家族が、幼馴染が、それぞれの想いを胸にこの舞台に立っている。

 その後のカイル君の戦いぶりは見事だった。

 予選の対戦相手の攻撃を冷静に捌き、危なげなく勝利した。

 田舎の騎士団で、カイル君なりに血の滲むような鍛錬を積んできたことが分かった。


 ――だが、会場の空気が一変したのは、予選最終ブロックだった。

 実況アナウンサーが戸惑いを隠せない声で叫ぶ。


「つ、続きまして……謎の参戦者! 所属不明、流派不明、エントリーネームは……『アンノウン』!」


 ゲートから現れたのは、全身を灰色のボロボロの鉄の鎧を身に覆い、汚れた鉄仮面をつけた男だった。

 その異様な姿に会場がざわめく。

 男が歩くたび、周囲の空気が冷たく張り詰めていくのが、遠い貴賓席にいる私にまで伝わってきた。


「……あいつは誰だ?」


 殿下が怪訝そうに眉をひそめ、身を乗り出す。

 イザベラ様は扇子で口元を隠し、不満げに声を上げる。


「まあ、なんて汚らしい格好なの! 美学の欠片もないわ! せめてスパンコールの一つでも縫い付けるだわ!」


 イザベラ様のファッションチェックが入る中、対戦相手の荒くれの傭兵が襲いかかる。

 だが、仮面の男は最小限の動きで躱し、剣すら抜かず、手刀一発で気絶させた。

 そのあまりに洗練された動きに、会場が一瞬で静まり返る。


 歓声すらない。ただ困惑と、得体の知れない者への畏怖。眼下の決闘場の隅では、控え室から出てきたルルティア姉さんも見ていた。遠目に仮面の男を睨みつけ、面白そうに口角を上げる。


「へぇ……今年は骨のある奴がいるじゃないか」


 ただ強敵への純粋な興味。

 不穏な空気を孕んだまま、闘技大会は予選を終え、本戦へと進む。


 ◇


 闘技場は熱狂の堝と化していた。

 予選を勝ち抜いた精鋭たちによる本戦トーナメントが始まり、一戦ごとに観客のボルテージが上がっていく。

 その中心で白銀の鎧を纏ったカイル君が躍動している。


「せいっ!!」


 鋭い気合と共に放たれた一撃が、対戦相手の剣を弾き飛ばす。

 相手はベテランの冒険者のようだったが、カイル君の真っ直ぐで力強い剣技の前に膝をついた。


「勝者! カイル・ディルクハウゼン!」


 審判の声と共に、会場から「おおっ!」というどよめきと歓声が上がる。

 カイル君は兜を脱ぎ、額の汗を拭いながら観客席へ一礼した。

 その視線が、一瞬だけ私に向けられたような気がする。


「なかなかやるではないか、あの若造。剣筋に迷いがない。実直で愚直なまでに基本に忠実だ。リリアナ、あいつがお前の幼馴染か?」

「はい。田舎の騎士団からの叩き上げです」

「ほう、お前と同じ『雑草魂』を感じるな」


 殿下がニヤリと笑う。

 イザベラ様もここぞとばかりに扇子を打ち鳴らす。


「素晴らしいわ! あの汗の煌めき! 青春という名の宝石ね! リリアナ、彼をお婿さん候補として、キープしておきなさい!」

「……物品みたいに言わないでください」


 私は冷静を装いながらも、胸の奥が熱くなるのを抑えられなかった。

 あの時、「騎士団長になる」と誓ったカイル君の言葉は、ただの夢物語で終わりそうになかったからだ。


 運命の準々決勝。

 カイル君の前に立ちはだかったのは、王国の武の象徴、近衛騎士団長デアシルト様だった。


「よくここまで来たな、カイル」


 団長が歴戦の覇気を纏いながら大剣を構える。

 対するカイル君は一歩も引かずに剣を構えた。


「団長、胸をお借りします!」

「全力でかかって来い!」


 両者が激突する。

 金属音が響き渡り、火花が散る。

 カイル君の剣は速い。だが、団長はそれを岩のように動じずに受け止める。


「いい太刀筋だ。だが、まだまだ軽いぞ!」


 団長が豪快に大剣を振り抜く。

 カイル君は体勢を崩されながらも、必死に食らいつく。

 一撃、二撃と攻防は数分に及んだが、実力差が浮き彫りになっていく。

 何度も果敢に攻めては弾き返される。

 それでもカイル君は諦めない。


「ここまでのようだな、新人にしてはよく頑張った」

「……ま、まだです……! 俺は約束したんです!」


 カイル君が最後の力を振り絞り、渾身の突きを放つ。

 それは団長の防御を僅かにこじ開け、頬にかすり傷を負わせた。

 ――だが、そこまでだった。


「ふっ。見事だ、カイル」


 団長の短い称賛と共に、強烈な一撃がカイル君の剣を弾き飛ばし、切っ先が喉元に突きつけられた。


「ま、参りました……」


 カイル君が膝をつき、潔く負けを認める。

 会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 それは勝者への称賛だけでなく、王国の最強の盾に一矢報いた、若き騎士への敬意だった。


 イザベラ様も立ち上がり、優雅に拍手を送っている。


「ブラボーですわ! 散り際まで美しかったわよ!」


 団長が剣を収め、カイル君に手を差し伸べる。


「いい剣だったぞ、カイル。その実直さと根性、やはり見所がある。……明日から俺が直々にしごいてやる。覚悟しておけ」

「……はっ! ありがとうございます!」


 カイル君が力強くその手を握り返す。

 敗北はしたが、確かに未来への切符を掴み取った瞬間だった。


「よかったな、リリアナ」


 殿下が優しく声をかけてきた。

 私は眼鏡の位置を直し、目頭の熱さを誤魔化す。


「……はい。彼なら、きっとやってくれます」

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― 新着の感想 ―
もしかしてアンノウンがリリアナ一家の父だったりして、ますます想像が膨らみます。どうなるか分かりませんが、続きを楽しみにしております。
もしかしてアンノウンがリリアナ一家の父だったりして、ますます想像が膨らみます。どうなるか分かりませんが、続きを読むのを楽しみにしております。
今回も更新ありがとうございます!アンノウンが父親、、ではないでしょうか? >ゲートから現れたのは、全身を灰色のボロボロの鉄の鎧を身に覆い、汚れた鉄仮面をつけた男だった。 ボロボロの鎧、それにものすごく…
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