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【連載版】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました  作者: 天地サユウ
第五章

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第五十四話 熱と氷の狭間で

本日17時も投稿します。

「いらっしゃいまし! さあ、燃えなさい! 熱とソースの煙で一生分の食欲を叩き起こしてあげるわ!」

「いらっしゃいませ! さあ、涼みなさい! 氷とシロップの一匙で一生分の疲れを溶かしてあげるわ!」


 祭りのメインストリートは、異様な緊張感に包まれていた。

 道を挟んで向かい合う二つの巨大屋台。

 片や、火柱を上げる真紅の楼閣。

 片や、白煙を吐き出す氷の宮殿。

 その間に挟まれた一般客たちは恐れおののきながら、遠巻きに眺めている。


「リリアナ、あれでは客が来んぞ」


 屋台の裏で、サングラスをした殿下が呟く。

 私はレジ(金庫)を守りながら、深く溜息をついた。


「当然です。見てください、あの惨状を」


 まずは赤コーナー、イザベラ様の『灼熱の情熱焼きそば』。

 一杯につき金貨一枚。具材は最高級の食材のオンパレード。黄金色に輝いているが、あまりの脂質の高さに、匂いだけで胸焼けを起こす客が続出していた。


「なぜ売れませんの!? こんなに『愛』が詰まっていますのに!」


 対する青コーナー、カトレア様の『絶対零度のかき氷』も深刻だ。

 北方の氷河を削り出した氷は美しくはあるが、カトレア様の完璧な保冷管理により、屋台の周囲半径5メートルは冬山のような寒さになっており、誰も近付けないのだ。


「……どちらも商売の基本を間違えているな」

「はい。ですが、このカオスな状況こそが商機です」


 私は二人の屋台が睨み合う通りの脇――デッドスペースに小さな長机を出した。

 ダンボールに手書きで『普通の水・普通の麦茶・胃薬あります』と書く。

 すると、瞬く間に行列ができた。


「水だ! 水をくれ!」

「寒すぎて指が動かねえんだ! 温かいお茶を頼む!」


 両極端な屋台に挟まれた人々が、私の店に殺到した。

 チャリンチャリンと小銭が貯まる音だけが響く中、無粋な者たちが近付いてきた。


「おいおい、随分と景気が良さそうじゃねえか」


 人混みをかき分けて現れたのは、派手な柄シャツに身を包んだ、いかにも柄の悪い五人の男たち。

 祭りの裏を取り仕切る的屋の元締め、『フェスティバル・ゴロ』の手下たちだ。


 彼らはまず、イザベラ様の屋台の前に立ち塞がり、鉄板の上のイセエビを指先で弾いた。


「なんだ、このバカ高い焼きそばは。許可取ってんのか? あぁ?」


 リーダー格の男が下卑た笑みを浮かべる。

 イザベラ様が巨大なヘラを止め、キョトンとした顔で男を見る。


「……許可ですの? 王宮の許可ならありますけれど?」

「王宮だぁ? 知るかよ。ここは俺たちのシマだ。商売したけりゃ『挨拶料(みかじめ料)』を払ってもらおうか」


 男が親指と人差指を擦り合わせるジェスチャーをする。

 普通の町娘なら悲鳴を上げて逃げ出す場面だ。

 だが、イザベラ様は、パァァッと顔を輝かせた。


「まあ! 『挨拶料』ですって!?」

「そうだ、分かればいいんだよ。売り上げの8割を……」

「なんて礼儀正しい殿方たちでしょう! 初めての屋台に、わざわざ『開店祝い』を持ってきてくださるなんて!」


 イザベラ様の超解釈がここでも発揮した。

 彼女の中では『金を要求されている』のではなく、『祝い金を渡しに来た』と変換されたようだ。


「え、いや、俺たちが貰う方で……」


 男が否定しようとした瞬間、イザベラ様の後ろに控えていた『取り巻き軍団』が一斉に声を上げる。


「素敵な殿方たちですわ!」(取り巻きB・C・D)

「下町の方々は、なんて義理堅いのでしょうか!」(取り巻きE・F・G)

「これぞ『粋』ですの!」(取り巻きH・I・J・K)


 黄色い歓声の壁が、男の反論を遮断する。


「ち、違う! 俺たちは……!」

「遠慮なさらないで! そんな殊勝な心がけの貴方たちには特別サービスですわ!」


 イザベラ様は感動に打ち震え、鉄板の上の超高級焼きそばを皿に山盛りにする。


「お金は結構ですわ! さあ、私の愛と情熱が詰まった『全部乗せ・爆盛』を召し上がって!」


 ドンッと、男の前に突き出されたのは、総重量2キロはありそうな黄金色に輝く脂の塊。


「は……? い、いや、食えるかこんなもん!」

「まあ、照れ屋さんですこと! 手を使うのも惜しいほど、早く食べたいのですわね? 分かりましたわ! さあ、口を開けて! あーん、ですわ!」


 イザベラ様が熱せられた巨大ヘラで焼きそばを掬い、男の口元へ強引に持っていく。


「や、やめろ! 熱ッ!? お、おい野郎共、この店はやべえ……。あっちの姉ちゃんの方へ行くぞ」


 男が後退りし、カトレア様の屋台の方へ逃げようとする。

 だが、そこには別の地獄が待っていた。


「おーほっほっ! イザベラ、抜け駆けはずるくてよ!」


 カトレア様だ。

 彼女もまた、冷ややかな視線で男たちを見ていた。


「顔を真っ赤にして、汗だくではありませんか。私の屋台にも並びたいけれど、熱気で近付けない……そう仰りたいのですわね?」


 男たちは単に、イザベラ様の焼きそばの熱気と恐怖で汗をかいているだけだ。

 だが、カトレア様の辞書にも、『拒絶』の文字はなかった。


「その渇き、私が癒やして差し上げますわ! 水平隊! 五名様のご案内よ!」


 カトレア様が指を鳴らすと、青いハッピを着た『水平隊(太鼓持ち軍団)』が、バチを打ち鳴らしながら男たちを取り囲んだ。


「お客様の喉が限界ですわ!」(太鼓持ちB)

「干上がっておりますわよ!」(太鼓持ちC)

「すぐに冷やしますわ!」(太鼓持ちD)

「ちょ、どけ! 俺たちは的屋の……」


 太鼓持ちたちが、男たちの退路を完全に塞ぐ。

 全員で両手を広げ、カトレア様のかき氷を指し示した。


「それに比べて、カトレア様の氷の透明度と言ったら!」(太鼓持ちE)

「まさに永久凍土の如き輝きですわ!」(太鼓持ちF)

「一口食べれば極楽浄土! 昇天間違いなしですわ!」(太鼓持ちG)

「震えるほどの感動をお約束しますわ!」(太鼓持ちH)

「細胞レベルで潤いますわよ!」(太鼓持ちI)


 最後に轟音班が叫ぶ。


「よっ! 慈悲深き氷の女王!」(太鼓持ちJ)

「凍えるほどの愛情ですの!」(太鼓持ちK)


 リズムに乗せられた集団圧力。

 男たちは反論の隙すら与えられないまま、カトレア様の前に引きずり出された。


「さあ、召し上がれ! 一気食いこそ、王都っ子の粋ですわよ!」


 差し出されたのは、絶対零度レベルで冷えた、山盛りのブルーハワイかき氷。


「てめぇら……ふざけんじゃねぇぞ! 俺たちは的屋だぞ!」


 男が叫んだ、その瞬間だった。


「てきや? ああ、『適宜(てきぎ)焼いてくれ』ということですのね! お任せくださいな!」


 振り返ると、いつの間にか背後に回り込んでいたイザベラ様が、笑顔で巨大ヘラを構えていた。

 前門の絶対零度、後門の灼熱の高カロリー。

 男たちは、二つの屋台の間に挟み込まれた。


 逃げ場はない。男たちは令嬢たちの『善意の暴力』と、軍団たちの『同調圧力』に晒された。


「ぐ、ぐぬぬ……食えばいいんだろ、食えば!」


 リーダー格の男が観念して焼きそばを口に運ぶ。

 その瞬間、彼の目がカッと見開かれた。


「甘い……!? いや、脂っこい……!?」


 フォアグラの油分、肉のサシ、そして大量の金粉。

 庶民の舌にはあまりに刺激が強すぎる貴族の味が、暴力的なカロリーとなって襲いかかる。


「水だ! 水をくれぇぇぇ!」


 男が慌ててカトレア様のかき氷を口に放り込む。

 キィン! 今度は絶対零度の冷気が知覚過敏の歯と脳天を直撃する。

 熱い脂と、極低温の氷。

 口の中で起きる温度差に、男の意識が飛びかける。


「おーほっほっ! 美味しすぎて言葉も出ないようですわね!」

「まだまだありますわ! どんどん行きますわよ!」


 次々と差し出される皿と器。

 男たちは白目を剥きながら、

「もう食えねぇ……」

「腹が重い……」

「頭が割れる……」


 呻き声を上げ、その場に崩れ落ちていった。


「あら? 皆さん、どうされたのかしら? 感動のあまり気絶してしまいましたわ」


 イザベラ様が不思議そうに首を傾げる。

 地面にノックダウンされた男たちの山が出来上がっていた。

 周囲の一般客たちは、「あのゴロツキたちを料理(接客)だけで倒したぞ……」「すげぇ……」と、畏敬の念を抱いて見つめている。


「熊よけの鈴以上だったか……」


 殿下が遠い目で呟いた。

 だが、これで終わるはずがない。

 倒れた男たちを踏み越えて、別の男が近付いてきた。


「おいおい、俺の可愛い部下たちに、随分な『おもてなし』をしてくれたなぁ?」


 現れたのは、巨漢の男。

 首には極太の金鎖、背中には虎の絵が描かれた派手なシャツ。

 フェスティバル・ゴロの元締めだ。

 彼は倒れた部下を見て、顔を真っ赤にして怒っている。


「俺は気が短かいんだ。メンツを潰された落とし前、どうつけてくれるんだ?」


 元締めがドスの効いた声で凄む。

 しかし、イザベラ様とカトレア様は顔を見合わせた。


「あら、カトレア。あの方、お腹が空きすぎて気が立っているようですわ」

「ええ、イザベラ。部下が先に食べたのを怒っているのですわね。なんて食いしん坊なのかしら」


 二人の令嬢は、笑顔で元締めに向き直る。


「安心なさいませ! 貴方には『特大スペシャルコース』をご用意しますわ!」

「私の氷で、頭の先までクールダウンさせて差し上げますわ!」


 話が通じない貴族令嬢と祭りの元締め。

 善意と殺意が激突しようとした、その時だった。


「おや、随分と賑やかだね。僕も混ぜてくれないかな?」


 殺伐とした空気に、場違いなほど柔らかく、甘い声が響いた。

 人混みの中から、フードを目深に被った一人の青年が、音もなく元締めの前に歩み出た。


「あぁ? なんだテメェは。怪我したくなきゃ失せ……」


 元締めが怒鳴り声を上げようとした瞬間、青年がフードをさらりと外す。

 露わになったのは、夜空の提灯よりも輝くプラチナブロンドの髪と、アメジストのような瞳。

 アレクセイ殿下によく似ているが、その表情は真逆だ。

 殿下が『氷の彫刻』なら、この青年は『春の日差し』。ただし、直視すれば目を焼かれるような日差しだ。


「ミハイル!?」


 後方で避難していた殿下が、サングラス越しに絶句した。

 そう、彼こそがこの国の第二王子、ミハイル・フォン・グラン・カイゼル殿下、その人だった。

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― 新着の感想 ―
勝負以前の問題だった。地獄かな? とりあえず調理担当はちゃんと味を確認してから販売するべきだと思うの。 高級食材泣くで?素材がよくても調理バランスが崩壊してるとか(汗) そしてちゃっかり隙間産業で荒…
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