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【連載版】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました  作者: 天地サユウ
第四章

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【番外編:後編】ルーツ

いつもお読みいただきありがとうございます!

後書きを見ていただきたく思いますので、よろしくお願いしますm(__)m

 季節外れの雪が降る朝、フォレスト家の扉が叩かれた。

 立っていたのは軍の使者。

 彼が差し出したのは、一通の封書と薄汚れた麻袋。


「……全滅ですか?」


 玄関先、私の声は驚くほど静かだった。

 使者は目を伏せ、苦しげに告げる。


「ローヴィン殿は勇敢でした。敵の本隊五百に対し、わずか二十名で殿(しんがり)を務め……」

「五百に対し、二十……」


 私は眼鏡の位置を直す。

 その動作一つで、私の中の『幸せな妻』は死んだ。


 麻袋を掴む。

 チャリと中で金貨が鳴る。

 それは夫の命の値段であり、彼を見殺しにした上層部からの口止めの慰謝料。


 私には何が起きたのか想像がつく。

 援軍要請の握り潰し、不自然な配置。この作戦の裏で、誰がどれだけの利益を得たのか。


 かつて『正華』と呼ばれた頭脳の中で、瞬時に黒い計算式が組み上がる。

 涙は出ない。代わりに、胸の奥でどす黒い憎悪が噴き出す。


 優しさだけでは愛する人は守れない。

 ならば、私は修羅になる。


 ◇


 一ヶ月後。

 夫を死地へ追いやった黒幕――ザハルト侯爵の屋敷で戦勝祝賀会が開かれた。

 下卑た笑い声が響く大広間。

 その扉が、音もなく開かれる。


 現れたのは一切の装飾を削ぎ落とした濃紺の事務用スーツに身を包み、銀縁の眼鏡をかけた私。

 喪服ではない。これは感傷を排し、ただ汚れを処理するためだけの、私にとっての戦闘服だ。


「……おや、未亡人殿じゃないか。借金の猶予乞いなら裏口へ回れと言ったはずだが?」


 ザハルト侯爵が不快げに眉をひそめ、ワイングラスを揺らす。

 私は眼鏡を中指で押し上げ、静かに歩み寄る。


「いいえ、『精算』に参りました」


 私は小脇に抱えていた分厚い革張りのバインダーを、ドサリと重い音を立ててテーブルに置く。


「これは……?」

「貴方の『経営破綻』を証明する最終監査報告書です」


 私はバインダーを開き、一枚の書類を侯爵の目の前に突きつける。


「まず鉱山開発における架空計上。貴方は廃坑寸前の鉱山を『有望な金脈』と偽り、国から補助金を騙し取りましたね? 実際の産出量は報告書の100分の一。差額の金貨5万枚は、貴方の裏口座へ流れています」

「な、何を言っている……?」


 私は侯爵の言葉など気にも留めず、そのまま次の書類を広げる。


「次に軍部への賄賂工作。夫の小隊を孤立させた際の司令部への通信記録、及び貴方の筆跡による『口封じの指示書』。原本はすでに押さえました」


 私は淡々と事務的にページをめくる。

 そこにあるのは怒号ではない。

 逃れようのない数字の羅列だ。


「そして極めつけは敵国への横流し。貴方は国を守るべき武器を裏ルートで敵国へ売り、その利益で私腹を肥やしていた。損益分岐点を計算しましたが、貴方は国家にとって『維持コストに見合わない不良債権』だと判断しました」

「き、貴様……! でたらめを言うな!」

「数字は嘘をつきません。貴方の全財産、爵位、そして隠し資産。その全てを差し押さえ、売却し、国庫へ返納しても……私の夫が流した血の一滴分の価値にも足りませんが?」

「ぐっ……!?」

「時間になりました。これにて監査を終了します」


 その言葉を合図に窓ガラスが割れ、武装した王宮騎士団と、司法省の監査官たちが会場になだれ込む。

 私が事前に提出していた告発状と、証拠書類が完璧なタイミングで受理され、執行されたのだ。


「なんだ、こいつらは!? は、放せ! 私は侯爵だぞ!?」

「残念ですが、先ほど爵位剥奪の令状も決裁されました。言い訳は法廷でどうぞ。もっとも貴方の罪の重さでは、懲役年数を計算する前に寿命が尽きるでしょうが」


 連行されていく侯爵の背中に、私はふと呟いた。


「……お父さん、少しは喜んでくれますか?」


 ◇


 全てが終わった夜。

 私は四人の子供たちを居間に集めた。

 眼鏡を押し上げ、母である自分を消し、子供たちに冷たい言葉を紡ぐ。


「四人とも顔を上げなさい。お父さんは戦で亡くなりました。ですが、それは父さんが弱かったからではありません。『優しすぎた』のです」


 皆は涙を流しながらも静かに耳を傾ける。

 まだ幼い子供たちに絶望を突きつけるのは酷なこと。けれど、私はもう頭を撫でてやるだけの母親ではいられなかった。


「いいですか、この世界には『理不尽』という名の怪物が存在します。お前たちはそれに負けないために、お父さんが残してくれた『愛』と『教え』を、今日から『武器』に変えなさい」


 私は皆の目を見据え、その才能を査定するように告げる。


「ララーナ。貴女はお父さんと森へ行き、毒草と薬草を見分けるのは誰よりも得意ですね。その観察眼を『医学』へ昇華させなさい。優しさだけでは人は救えません。理不尽な手から命を奪い返す技術を身につけるのです」


「ルルティア。貴方はお父さんとの日々の鍛錬で強くなりました。その力を『武力』に変え、言葉の通じぬ理不尽な相手をねじ伏せなさい」


「エルヴィン。貴方は気配を消すのが得意ですね。その技を『隠密』に変え、影となり、情報を制しなさい」


 そして最後に、私はリリアナの小さな肩を掴んだ。


「リリアナには、これまで私の『知識』と『お金』の扱い方を教えてきました。お父さんが守ろうとしたこの家を、貴女は数字で守るのです」


 言い聞かせるように、強く言葉を刻み込む。


「国境も、法律も、お金も、全てを利用し……相手が誰であっても『貴女がいなくては何もできない』と思わせなさい。誰よりも替えの利かない人間になるのです。そうすれば理不尽な悪意も、手出しできなくなるでしょう」


 皆の瞳に、私譲りの冷徹な覚悟が宿るのを確認した。

 これでいい、最低限の道筋は示した。

 私は安堵と共に息を吐く――その瞬間、視界がぐらりと傾いた。


「え……?」

「お母さん!?」


 私の身体が床に崩れ落ちる。

 喉の奥から熱いものが込み上げ、絨毯を赤く染めた。

 すでに限界だった。夫を失ったショックと復讐への奔走。そして『修羅』を演じ続けた心労が、ここにきて祟ってしまった。


(ごめんなさい……)


 薄れゆく意識の中で、私は自分のミスを悟る。

 ザハルト侯爵は社会的に抹殺した。だが、腐敗した軍部が夫に責任をなすりつけた『任務失敗の莫大な賠償金』までは、私には消せなかった。


 借金に加え、私の治療費、生活費、末っ子の学費……残酷な現実がこの子たちにのしかかる。


 ――けれど、子供たちは強かった。

 今しがた私が授けた『武器』を、子供たちは即座に構えてみせたのだ。


「私が治すわ! あらゆる薬を勉強して、絶対に母さんを死なせたりしないから!」

「悪い奴らはあたしが追い払うよ! 誰もこの家には入れさせないよ!」

「僕は情報を集めるよ。お金になりそうなネタを探してくるね」


 そしてリリアナが私の冷たくなった手を握りしめ、震えながらも力強く誓う。


「私が稼ぎます。お母さんの病気を治すお金も、生活費も、お父さんの借金も。全部、私が……だから死なないで、お母さん!」


 こうして、フォレスト家から弱さが消えた。

 姉たちは母を救うため薬学と武術を極め、弟は路地裏で情報を売り、妹は金を稼ぐために王都へと向かった。


 全ては、あの雪の日。

 家族のために散った英雄ローヴィンの遺志を継ぎ、そして病床の母を守り抜くために。


 ――リリアナ・フォレスト。

 彼女の強さと、お金への執着の原点。

 それは太陽のように温かかった父の死と、強く優しい母の命を繋ぎ止めるための、愛と覚悟によって形作られたものだった。

ここまで、お読みいただきありがとうございます!

これにて第四章を締め、次話から第五章が始まります。

[月間]異世界〔恋愛〕 - 連載中 6位

[四半期]異世界〔恋愛〕 - 連載中 10位


また、いつも応援と誤字脱字のご報告、そして温かいコメント、本当にありがとうございます(//∇//)

ここで、一度今後の展開を整理したく思いますので、数日ほどお時間を頂戴いたします。

再開は活動報告にて投稿させていただきます。


さらに、こんな【番外編】を見てみたいと思うことがありましたら、ぜひ感想蘭にて受付させていただきます。

※できるかどうかは置いておいて汗


それではまた( ´∀`)ノ

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― 新着の感想 ―
番外編と感想一覧を読ませていただきました。お父さんが死んでおらず、記憶喪失で何処かで生きている印象を受けました。最後に登場人物全員が幸せになるストーリーになるものと察します。寒い日が続くのでどうぞ体調…
番外編2本もの更新ありがとうございます! リリアナの武器はどのように生まれたのかの前日譚。愛と覚悟が生まれた瞬間が知ることができてとても嬉しいのと同時にとても切なくもあり姉弟たちの覚悟も輝かしかったで…
この腐敗した上層部のせいで敗北した結果でこの家に金を払わせるとか腐りすぎやろ。
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