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【連載版】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました  作者: 上下サユウ
第三章

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第三十三話 本音で喧嘩できる友人

 数日後。

 ローゼンバーグ公爵家の応接室は、戦場のような騒ぎになっていた。


「ちょっと、ミミ! ここの青いリボンはもっと大きくしなさいって言ったでしょう!」

「ダメです、お嬢様! 予算オーバーです! 量産ラインに乗せるには、リボンを2センチ小さくしないと採算が取れません!」

「何よ、ケチくさいわね! 愛が足りないんじゃないの!?」

「ケチじゃありません! 経営努力です! それに愛は溢れ過ぎてこぼれているほどですよ! ああもう、リリアナ様! お嬢様を止めてください!」


 新任チーフデザイナー・ミミは、電卓片手にイザベラ様と対等に渡り合っていた。

 その目は生き生きとし、かつての『取り巻きJ』の影はない。

 私は紅茶を飲みながら、その光景を眺めている。


「騒がしいな……」

 早速、視察に訪れたアレクセイ殿下が、呆れつつも微かに笑う。


「悪くはない。イザベラにも、ようやく『本音で喧嘩できる相手』ができたようだな」

「はい。ですが、殿下……」


 私は請求書の束を殿下に渡す。


「今回のファッションショーの開催費用と、興信所の調査費ですが、王室経費で落としておきますね?」

「貴様……」


 殿下が渋い顔をする。

 平和だ。これで一件落着かと思われた、その時だ。

 イザベラ様が思い出したように、一枚の設計図をテーブルに広げた。


「そうよ、ミミ! 来週の『王立管弦楽団コンサート』用のドレスもお願いするわ! テーマは『鳴り響く交響曲』よ! スカートの裾に本物の真鍮(しんちゅう)のパイプを50本縫い付けて、歩くたびにパイプオルガンの重低音が鳴る仕掛けよ! 工期は3日しかないけれど、お針子さんたちに『魂を燃やせ』と伝えておきなさい!」


 ミミが「ひぃっ!? 無理です、死人が出ます!」と悲鳴を上げ、殿下が「歩く騒音公害か……」と頭を抱える。


 私は静かにティーカップを置き、懐から一枚の腕章を取り出して左腕に装着する。

 そこには『王立労働基準監督局長』の文字。


「イザベラ様」

「な、何よ、その事務的すぎる目は……」

「当局に、お針子組合長からタレ込みが入っています。『これ以上、徹夜で金属加工をさせられたら指がもげる』と」

「あら、大げさね! 最高の芸術のためなら指の一本や二本……」

「ダメです」


 私は眼鏡を光らせ、イザベラ様の言葉を遮った。


「労働基準法第32条違反、及び安全配慮義務違反です。その『パイプオルガンドレス』の制作は中止。もし強行すれば、業務改善命令として……今月の『おやつ代(公爵家の菓子予算)』と『新作紅茶購入費』を全額差し押さえます!」

「そ、そんな!? お待ちなさい! 私と貴方の仲よ! 少しくらい見逃してくれても……」

「ダメです。局長に私情は挟みません」


 「むぅ……!」と、イザベラ様が子供のように頬を膨らませ、ソファーに沈み込んで拗ねる。

 その様子を見て、アレクセイ殿下が「あのイザベラが手も足も出ないとはな。傑作だ」とほくそ笑んだ。

 私はその笑い声を聞き流しながら、もう一通の書類を手に取る。


 『被申告者:王太子アレクセイ』

 『内容:婚約者イザベラ・フォン・ローゼンバーグの暴走に対する監督不行き届き、及び部下への休日労働の誘発(使用者責任)』


 私はペンを取り、流れるような筆致で処罰の欄に書き込む。


 『罰として、今月の補佐官給与3倍・ボーナス2倍・及び『精神的苦痛』と『胃痛』への慰謝料として、南の島への特別渡航費(経費計上)支給』


 私は小さく微笑み、その書類に『承認印(局長印)』を力強く押し、殿下の膝の上に置いた。


「……ん? これはなんだ?」

「是正勧告書です。婚約者の不始末は、未来の旦那様の責任ですので」


 殿下は書類を凝視し、次の瞬間、顔を真っ赤にして叫ぶ。


「俺は誰とも婚約などしておらんぞ!!」


 その叫びを聞いた瞬間、ソファーで拗ねていたイザベラ様がガバッと顔を上げ、瞳をギラギラと輝かせた。


「まあ、殿下!? 『婚約などしていない』ということは……つまり『形式的な婚約式はすっ飛ばして、今すぐ結婚しよう』という熱烈なプロポーズですのね!?」

「そんなことは一言も言っていないぞ!?」

「嬉しいですわ! さあ、善は急げですよ! 今すぐ教会へ行って、愛の誓いを……いえ、まずは誓いのキスから始めますの!」


 イザベラ様がタコのような口をして迫る。


「く、来るな! リリアナ、こいつを止めろ! なんとかするのだ!」

「申し訳ありません、殿下」


 私はすっと視線を逸らし、窓の外の青い空を見上げた。

 今日もいい天気だ。

 ボーナスはようやく貯金に回せるし、そろそろ南の島のパンフレットが届く頃かな。


「……ま、待て! それ以上近寄るな……!」

「照れないでくださいまし! さあ、殿下! 遠慮されずに、ですわ!」


 ミミが「この方たちはいったい……?」と呆然とする中、殿下の絶叫と、イザベラ様の愛の言葉が応接室に響き渡った。

 私は懐中時計をパチンと閉じ、冷静に告げる。


「……さて、休憩時間は終了です。殿下、私は先に戻ります」

「ま、待て、リリアナ! 俺も帰るぞ! 今すぐ王城へ帰還だ!」


 殿下は脱兎のごとく部屋を飛び出し、私は一礼してその後を追った。

 背後から聞こえる「待ってくださいまし、私の愛しの旦那様ぁぁぁ!」という、イザベラ様の声を背に、私たちは公爵家を後にした。


 ◇


 数時間後。

 王城の執務室には、いつもの静寂が戻っていた。


「……ひどい目にあったぞ」


 珍しく執務机に突っ伏した殿下が、魂が抜けたように呟いた。

 窓の外はすでに夕暮れ。

 今日の予定は全て終了したことだし、あとは明日のスケジュールを確認して、帰って泥のように寝るだけだ。

 そして来月は特別渡航費で南の島へ……。

 そう思いながら手帳を開くと、ページに挟んでいた一枚の『青い紙』が淡く光り始めた。


 帝国の友人との直通魔導紙。

 以前、帝国の使節団が我が国を訪れた際、宰相補佐官のシルヴィア・ル・ベル様から、プライベートの連絡先として渡されたものだ。


 シルヴィア様とは簡単なやりとりはしていたが、今回は何か様子がおかしい。

 いつもなら淡々とした挨拶文が届く程度なのに、紙面が小刻みに震えていた。


『……SOS……SOS』


 浮かび上がった文字は、定規で引いたように几帳面な筆跡だったが、インクが滲み、書いた本人の動揺が伝わってくる。


『リリアナ、助けて。私の計算が負けたわ……』

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

ブックマークと、↓【★★★★★】評価を、何卒よろしくお願いいたします。

明日も12時投稿となります。

ストック次第では17時も投稿します(//∇//)

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― 新着の感想 ―
イザベラの有無の差が出たかぁ、帝国(おいっ) 詳細はまだわからんけど、多分アレクセイとリリアナのコンビでも陥りそうな落とし穴だったんだろうな、うん。 王国はイザベラという重機が勢いだけで片っ端から穴を…
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