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【連載版】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました  作者: 上下サユウ
第三章

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第三十話 友人か使用人か

「聞こえていましたよ、お嬢様」


 ミミの目から涙がこぼれ落ちた。


「私もあの時、貴女様の背後でお茶をしてましたから……私は貴女様の『お友達』として付き従っていたつもりでした。でも、私は名前すらまともに覚えてもらえない、ただの『侍女以下の便利屋』だったんですね」


 ミミは泣き笑いの表情で、店内の商品を指差した。


「あの日、私は誓ったんです。もう機嫌を取るのはやめる。これからは貴女様を利用してお金を稼ぐと! 私が背後でメモし続けた『イザベラ・ファッション』のデータ。そして貴女様が捨てたアイデアの数々……これが私の退職金代わりです!!」


 店内は静まり返り、客たちは皆、ミミに同情的な目を向ける。


「ひどい話だわ」

「友達だと思ってたのに侍女扱いなんて」

「公爵令嬢の無自覚なパワハラね」


 イザベラ様は扇子で口元を覆い、心底不思議そうに首を傾げた。


「そんな……だって、ミミ、貴女がいつも私の『後ろ』で荷物を持って、お水を持ってくるから……」

「貴女様の機嫌を取るためです!」

「お友達なら隣で一緒にタルトを食べるでしょう!? 私の後ろに立って給仕をするなんて、それはもう『使用人』の立ち位置なのよ!」


 イザベラ様は、「私は論理的よ」という顔で主張する。


「だから私、てっきり貴女のことを『教育が必要な新人メイド』だと思って、あえて厳しく指導(文句)をしてあげていたのよ? プロならもっと冷たいお水を持ってきなさいって」

「指導!? あれが愛の鞭だったと言うんですか!?」

「そうよ! 友人相手なら泥水を出されても笑顔で飲み干すもの!」


 イザベラ様なりの理屈だった。

 彼女にとって『友人』とは、横に並ぶ対等な存在であり、『後ろに立って働く者』は使用人にカテゴライズされる。


 ミミがへりくだって尽くせば尽くすほど、イザベラ様の中で彼女は友人から遠ざかり、『新人使用人(要指導)』としての地位を確立してしまっていた。

 悪気はない。

 ただ、絶望的に基準がズレているだけだ。


 その時、店の奥のカーテンが開き、ゆっくりと拍手をしながら一人の男が現れた。

 細身の長身に、ギラギラした光沢のあるスーツ。

 髪をテカテカに撫でつけ、胸元には怪しげなバッジをつけている。


「素晴らしい告発でした、ミミさん。そして初めまして、イザベラ様、リリアナ補佐官」


 男は蛇のような笑みを浮かべ、名刺を差し出す。


「私はミミさんの代理人兼・経営コンサルタント。ライラス・ル・ノワールと申します」


 名刺には『新時代マーケティング代表』『権利ビジネス専門』といった肩書きが並んでいる。

 胡散臭い。どこからどう見ても、ミミの恨みを利用して一儲けしようとしているハイエナだ。


「単刀直入に申し上げましょう。我々はローゼンバーグ公爵家に対し、ミミさんが受けた『精神的苦痛』及び『実質的な労働対価』として、損害賠償請求訴訟を起こす準備があります」

「……訴訟ですって?」


 イザベラ様が目を細める。


「ええ、請求額は金貨5000枚。……ですが、裁判となれば公爵家の醜聞スキャンダルとなりましょう。そこで提案があります」


 ライラスは店内の『ニセ孔雀ドレス』を得意げに手で示した。


「この『メゾン・ミミ』を公爵家公認のセカンドライン(廉価版ブランド)として認めていただきたい。そうすれば訴えは取り下げ、売上の50%をロイヤリティとして差し上げましょう」


 ライラスの提案は和解交渉ではない。

 過去の失言を人質に取った恐喝だ。

 私が口を挟もうと一歩前に出ようとした時、イザベラ様に扇子で制された。


「金貨5000枚ですって? そんな端金で、私の『美学』を汚すおつもり?」

「は……?」

「このポリエステルの孔雀も、ガラス玉の不死鳥も、私のブランド公認になどできませんわ。こんな安っぽいものを認めたら、それこそスキャンダルだわ!」


 イザベラ様は毅然と言い放った。

 彼女が恐れるのは金銭的損失や評判ではなく、『美しくないもの』が自分に関連付けられることだけだ。

 すると、ライラスは驚くどころか鼻で笑う。


「ふん、安っぽい? 美しくない? これだから『古い貴族』は困る」

「なんですって?」

「貴女は何も分かっていない。今の時代、価値を決めるのは貴女の『美学』ではない。『市場マーケット』なんですよ」


 ライラスは店の外に伸びる長蛇の列を指差す。


「あの行列を見なさい、民衆は貴女の高尚で高価なドレスなど求めていない。彼女たちが選んだのは、ミミさんが作る『安くて、そこそこ見栄えがするドレス』だ。数字こそが正義。売上こそが真実。つまり、今の王都のトレンド(覇者)は貴女ではなく、ミミさんなんですよ」


 その言葉は、イザベラ様の逆鱗に最も深く突き刺さる。プライドの高い彼女に対し、「お前はもう時代遅れだ」と告げたに等しいからだ。


「……私が時代遅れですって? 数字が正義? いい度胸してるわね。……その腐った根性を、叩き直して差し上げますわ!」

「ほう? 口先だけで否定されますか? ならば証明していただきましょう」


 ライラスはニヤリと笑い、上着のポケットから一枚の紙を取り出す。

 それは、すでに用意されていた『挑戦状』だった。


「来週、王都中央広場で『市民ファッションコンテスト』が開催されます。そこで白黒つけるとしましょう。貴女の『至高のドレス』と、ミミさんの『民衆のドレス』。どちらが多くの支持を集めるか、観客の投票数で決めるのです」

「ええ、受けて立つわよ」


 イザベラ様が即答する。

 だが、ライラスは蛇のような目で私とイザベラ様を交互に見やり、さらに踏み込む。


「ただし、ただの勝負では面白くない。……賭けをしませんか?」

「賭け?」

「ええ、我々が勝った場合、当初の請求額金貨5000枚に加え、『ローゼンバーグ』の商標権を譲渡していただきます」


 私は息を呑んだ。

 商標権の譲渡。つまりイザベラ様は今後、自分の名前でドレスを作ることも、ブランドを名乗ることもできなくなる。

 事実上の『悪役令嬢ブランドの死』だ。


「貴女が負ければ、『過去の遺物』であることを認め、その看板を下ろしていただく。……どうです? 自信がおありなら受けて立てるはずですが?」


 明らかな挑発。

 それにリスクが高すぎる。

  

「……安すぎるわね」


 イザベラ様が、冷徹な声で吐き捨てた。


「は?」

「この私のブランドを賭けるのよ? 金貨5000枚と商標権程度で釣り合うと思って?」


 イザベラ様は一歩踏み出し、ライラスを睨みつける。


「私がその条件を飲む代わりに、貴方は何を賭けるのかしら?」

「何を……わ、我々は訴えを取り下げて……」

「そんなもので釣り合うわけがないでしょう! 私が勝てば、この『メゾン・ミミ』の全権利、店舗、在庫、そしてデザイナーであるミミの身柄……その全てを私が貰い受けるわ!」

「なっ……!?」

「当然でしょう? 貴方は『ミミには私を超える価値がある』と豪語した。ならば、その価値に見合うだけのものをテーブルに乗せなさい」

「うぐ……」


 ライラスが言葉に詰まる。

 店とミミを奪われれば、彼は『金のなる木』を失い、ただの詐欺師に戻るどころか、借金だけが残る。

 自ら仕掛けたが、彼にとっても破滅的な賭けとなった。

 だが、ライラスは店の外に伸びる長蛇の列――『圧倒的な大衆の支持』を見た。

 勝率は万に一つも揺るがない、そう確信した顔で。


「いいでしょう! 成立です!」


 ライラスは冷や汗を拭いながらも、歪んだ笑みを浮かべた。


「傲慢な貴族が全てを失い、地に落ちる様を見るのが楽しみですよ。契約書は明日、送らせていただきます」

「リリアナ、帰るわよ! 徹夜で新作のデザイン画を描くわ!」

「……はあ」


 イザベラ様は踵を返し、店を出て行く。

 私はため息をつきつつ、バインダーに新たな予定を書き込む。

 『来週、中央広場にて決闘。敗北した場合の損失:プライスレス』。


 どうやら事務的に処理するよりも、何倍も面倒なことになってしまったようだ。

 私の胃が、またもキリキリと痛み始めた。

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― 新着の感想 ―
確かに侍女は使用人だけどお友達は対等。一理ありますね。 確かにイザベラ様に水を渡すのはメイドであって友達のやることではないのは当たり前なのにミミはメイドの真似事をしてお友達と呼んでくれないと嘆くのはお…
リリアナ………。 ご愁傷様……(*´-`)
本家の威光ありきのパチもんでしか勝負できん癖にこんな勝負仕掛けるとかなぁ(呆れ) とりあえず詐欺師としても商売人としても3流以下だな、ライラス。 あの服飾の鬼が自分専用の超高級ブランド品しか作れんとで…
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