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【連載版】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました  作者: 上下サユウ
第三章

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第二十四話 贅沢という正当防衛

「贅沢ですって!? 人聞きが悪いことを仰らないで!」


 バンッと扉が蹴り破られ、戦場に鮮烈なピンク色が差し込んだ。

 現れたのは、この殺伐とした状況で最も場違いで、最も目を奪う存在。

 イザベラ・フォン・ローゼンバーグ様である。


 今日のイザベラ様は、春の陽光に溶け込むような桜色のドレス。薄いシルクを幾重にも重ね、本物の桜の花びらを特殊加工して縫い付けた、繊細で可憐なデザインだ。


(イザベラ様、今日も派手ですが、春に合わせた装いも素敵ですよ)


 ――そう思った私が甘かった。

 イザベラ様がバルコニーへ堂々と進み出た、その瞬間だ。

 バサァッ!

 背中のトレーンが膨れ上がり、バルコニーを埋め尽くすほど巨大な翼が出現した。

 幾重にも重なるピンクの羽根。さらに砕いて粉末にしたピンクダイヤモンドが太陽光を反射し、目も眩むようなブリリアントな輝きを放つ。

 

(前言撤回。あれは孔雀の突然変異種ピンク孔雀……いや、あのフォルムはやはり不死鳥。前回は燃える情熱の赤。ならば今回は……まさか、愛の不死鳥か!)


 私がその神々しさに戦慄している間に、広場を埋め尽くす群衆がざわめく。


「……フラミンゴ?」

「フラミンゴですって!? 失礼な! これは今季の新作ドレス! 変種のピンク孔……ではなく、『愛の不死鳥』よ! それも製作期間三ヶ月のオートクチュールですの!」


 イザベラ様が、桜の意匠が施された扇子をバサッと開く。

 その風圧と共に、仕込まれていた極上の桜の香油が霧となって舞い散り、甘く優雅な香りが、怒号渦巻く広場へと降り注いだ。

 殺伐とした空気を春の匂いで強制的に上書きすると、群衆を見下ろし、高らかに宣言する。


「いいこと! 私のこのドレスはただの『贅沢』ではないわ! 国を回すための『公共事業』よ!」


 広場が静まり返る中、イザベラ様の声が響き渡る。


「私がこのドレスを一着作るのに、何人の職人が潤ったと思っているの!? 生地屋、染色職人、レース編みのお婆ちゃん、宝石商、運送業者……総勢100人以上の雇用を生み出したわ! 私が『浪費』しなければ、彼らの『技術』は誰が守るのよ!?」


 イザベラ様は両手を腰に当て、堂々と胸を張った。


「私が夜会を開けば花屋の在庫は空になり、料理人はボーナスを貰い、楽団は新しい楽器が買えるわ! 貴族が金を使わなくなったら、あなたたちの商品は誰が定価以上で買ってくれるというの!」


 シーンと広場が静まり返った。

 群衆の中にいた商工会のメンバーや、職人たちが顔を見合わせる。

 彼女の言葉は綺麗事ではない。

 生活の真実を突いていたからだ。


「確かに公爵令嬢は上客だ……」

「あの方々がいなくなると、高級品が売れなくなるぞ……」

「いや、それだけじゃない。伝統工芸の技術まで途絶えてしまう……」


 場の空気が変わったことに、レオニードが狼狽える。


「だ、騙されるな! それは、お溢れ待ちの理屈、『トリクルダウン』という幻想だ! 一部の金持ちだけが得をするシステムだろ!」

「ト、トリプルガウンですって!?」 


 イザベラ様が心底軽蔑したような目でレオニードを見下ろす。


「これだからファッションセンスが壊滅した殿方は許せませんの! ガウンは三枚も重ね着してはいけませんわ! ボディラインが消滅して、ただの着ぶくれダルマになってしまいますわよ!」

「ボディラインだと……? お、お前はいったい何を言ってるんだ……!? トリクルダウンだ!」

「貧乏くさい造語なんて興味ないわ! 現実を見なさい!」

「ト、トリクルダウンは造語ではないぞ……!?」

「お黙りなさい!」 


 イザベラ様はビシッと、扇子で城下町を差した。


「私が毎月買ってる『激甘マカロン』の『ル・パレ・デ・マカロン』の店主は、その売上で家を建てたわよ! さらに従業員も増えた! 仕入れも増えた! あなたが『幻想』と呼ぶものが、誰かの食卓を支えているのよ!」


 実例が強すぎる……。

 イザベラ様という存在が、歪ではあるが、強力な『経済の起爆剤』であることを民衆は肌感覚で知っていたのだ。

 おかげで流れが変わった。

 民衆の目に『革命への迷い』が生じ始めている。

 私はここで、とどめの一撃を放つことにした。


「レオニード様、貴殿は労働者の代表を名乗っていますね?」

「いかにも! 私は汗して働く者たちの味方だ!」

「では、こちらの資料についてご説明を」


 私は事前に諜報部(弟エルヴィン)が集めた調査報告書を魔道投影機で投影する。


『氏名:レオニード・ヴァン・クレマン』

『出身:隣国の大富豪・クレマン商会の三男』

『職歴:なし(実家の仕送りで生活中)』

『特技:詩作、リュート演奏、カフェでの政治談義』

『趣味:愛猫と戯れる』


 「は……?」と、群衆の誰かが声を上げた。

 スクリーンには『先月のカード明細』まで映し出される。

 『労働者支援カンパ』という名目で集めた資金の使い道が、あまりに丁寧に記録されていた。

 『最高級ヴィンテージワイン』。

 『オーダーメイドのシルクスーツ』。

 『愛猫用キャビア(金箔入り)』。


 支援先は労働者ではなく、彼自身と愛猫だった。


「な、な、なななっ……!?」


 レオニードは口だけを動かすが、言葉が出てこない。

 私は深く息を吸い、ここぞとばかりに畳み掛ける。


「貴殿は一度も働いたことがありません。手が綺麗なのがその証拠です。実家の金で優雅に革命ごっこですか? それは結構ですが真に生活をかけて働いている人々を巻き込むのはやめていただきましょうか。貴殿の掲げる理想郷には具体的な『収支計画』もなければ泥臭い『実務』への敬意もない。さらにここにある記録によれば貴殿の父上が経営する『クレマン商会』の工場で先月労働組合が結成されそうになった際に貴殿は父上にこう進言していますね。『賃上げを要求するような不届き者は全員解雇し安い移民を雇えばいい』と自分は安全圏から理想を叫び裏では労働者の生活を破壊する。それが貴殿の言う革命ですか?」


 私は息継ぎせずに言い放った。


「……う、嘘だ! これは陰謀だ!」


 レオニードが叫ぶが、もう遅い。

 背後にいた屈強な労働者たちが、冷ややかな目でリーダーであるレオニードを見ていた。


「おい、レオニード……あんた、俺たちと同じ『持たざる者』だって言ってたよな?」

「か、勘違いするな! 心は常に君たちと共に……」

「俺たちのカンパで買ったワインは美味かったか……?」


 ボコッ。鈍い音が響き、レオニードは自身の支持者たちによって取り押さえられた。

「金返せ!」「この偽善者が!」

「ひ、ひぃぃぃっ! 助けてくれぇぇぇ!!」


 レオニードの情けない悲鳴と共に、革命の旗手は自身の支持者たちによって、物理的に宙を舞いながら退場させられていった。

 宙を舞う彼を見上げながら、イザベラ様が呟く。


「あら、飛び方まで美しくないわね。羽ばたくなら、私のように優雅に舞いなさい。貴方は減点どころか失格よ」


 ◇


 騒動が収束した後。

 広場には、まだ不満げな表情の労働者たちが残っている。リーダーが偽物だったとはいえ、彼らの生活が苦しいのは事実だ。

 すると、アレクセイ殿下が前に出た。


「民よ、聞け!」


 威厳ある声に群衆が一斉に注目する。


「革命ごっこは終わりだ! だが貴様らの不満が全て言いがかりだとは言わん! ……よって! ここに『王立労働基準監督局』の設立を宣言する!」


 はい?

 私が驚いて殿下を見ると、彼は私を指差した。


「局長は、このリリアナだ! 彼女は金にがめつい……いや、厳格だ! 貴族だろうが王族だろうが、不当な労働を強いる者からは容赦なく罰金を取り立てるだろう! 私の紅茶係が戻ってくるよう、待遇改善を約束する!」

「「……う、うおおおおおお!」」

「リリアナ局長! 俺たちの給料を上げてくれ!」


 広場から一斉に歓声が上がった。


「……殿下、そのような役職は聞いていませんが?」

「悪いが今作った。頼んだぞ。これも俺の紅茶のためだ」


 殿下はニヤリと笑う。

 私は深いため息をついたが、まあ悪い気はしなかった。

 不満を暴力で爆発させるより、制度の中で解決する。それが私の得意分野だ。


「……承知いたしました。では局長手当として基本給の50%増し、及び『ストレス手当』の支給を要求します」

「……貴様、ここぞとばかりにふっかけるな」

「嫌ならご自身でどうぞ? 紅茶を淹れるのも、群衆をなだめるのも」

「……チッ、払えばいいんだろう!」

「毎度ありがとうございます、殿下」


 殿下は呆れたように肩をすくめたが、その瞳はどこか楽しげだった。


 ◇


 数日後。

 王宮の機能は回復し、私のデスクには新たな名札『労働基準監督局長』が置かれていた。

 そして最初の『是正勧告書』の発行先は――


「イザベラ様、貴方様の専属お針子さんたちから『徹夜のドレス作りが辛い』という訴えが届いています」

「えっ? でも、最高のドレスを作るには魂を削らないと……」

「ダメです。週40時間労働の遵守を違反すれば、おやつ代(公爵家の予算)を差し押さえます」

「そ、そんな!? お待ちなさい、リリアナ! 私と貴方の仲よ! 少しくらいは――」

「ダメです」


 私はイザベラ様が何を言おうとしていたかを読み取り、即座に拒否した。

 「むぅ……」とイザベラ様が子供のように頬を膨らませ、拗ねている。

 私は見て見ぬふりをし、一通の書類を手に取る。


 『被申告者:王太子アレクセイ』

 『内容:筆頭補佐官リリアナに対する過重労働、及びパワーハラスメント発言』


 私はペンを取り、その書類の処罰の欄に書き込む。

 『罰として、今月の給料3倍・ボーナス2倍・有給休暇の完全使用』


 私は小さく微笑み、その書類に『承認印』を力強く押し、殿下の決裁箱の一番上に置いた。


 明日、これを見た殿下の叫び声が聞こえるようだ。

 だが、そんなことは知ったことではない。

 労働者の権利は守られねばならないのだから。

※読者の皆さまへ、大切なお知らせです。


注1:この物語はフィクションです。

注2:ピンク色の孔雀は実在しますが、『ピンク孔雀』は実在しません。

注3:フラミンゴは実在しますが、不死鳥は実在しません。

注4:明日は12時と17時更新になります。

注5:ここまでお読みいただき、ありがとうございます。今後とも、よろしくお願いいたします。


以上です。

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― 新着の感想 ―
 贅沢こそ貴族の仕事、平民の仕事を作る公共事業…さっすがイザベラ様!そこに痺れる!憧れるぅ!!  でも職人さん達は休ませてあげて!!  リリアナが労基局長の権力を握って、アレクセイの無茶振りをストッ…
隠された注4が気になる……
もうさ…殿下…イザベラ様と結婚しなよ… 多分毎日きっと楽しいよ…笑
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