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【連載版】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました  作者: 上下サユウ
第二章

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第二十二話 国賓へのおもてなし

「……証拠? それが、どうしたんだい?」

「何だと?」

「忘れてないかい? 僕は外交官特権を持っている。君たちが僕を裁くことはできないし、拘束もできない。このまま堂々と帰らせてもらうよ。スパイ活動の件も、本国が『誤解だ』と発表すればそれまでさ」


 フレデリック王子はふてぶてしく笑い、ファイルを放り投げた。

 確かに、国際法上は彼の身柄を拘束するのは難しい。

 王子はそれを知っていた上で強気に出た。


「残念だったね、リリアナちゃん。僕は部屋に戻って、ゆっくりと寝かせてもらうよ」


 勝ち誇ったように王子が背を向けた、その時だ。


「あら? どこへ行かれますの?」


 水を飲みに行っていたイザベラ様が戻ってきた。

 その手には、なぜか赤い羽根飾りのついた教鞭(きょうべん)用の長い指揮棒が握られている。


「イ、イザベラ嬢……」

「まだ『求愛のダンス』の確認は終わっておりませんわよ」

「求愛のダンス……?」

「ええ、この私にアプローチしたのですから、仕方なくとはいえ、最後までお付き合いして差し上げるのが公爵家の務めというもの。それに……」


 イザベラ様は扇子で口元を隠し、にこりと目を細めた。


「レディのエスコートを途中で放棄して帰るような、国家の恥晒しな真似はなさいませんわよね?」

「ッ……! わ、悪いが失礼するよ。僕は疲れているんだ」

「もう、お疲れですの?」

「そ、そうさ。色々と気苦労もあってね」

「まあ、それは大変ですこと。でしたら……一から叩き直す必要があるわね!」


 イザベラ様はビシッと指揮棒を王子に向ける。

 その瞬間、ダマスクローズの濃密な香りがふわりと満ちた。


「我が国の最重要国賓として、特別に! この私が朝までつきっきりで『王族の心得』をご指導して差し上げますわ! これも友好のための文化交流(マナー研修)ですもの!」

「なっ……!?」


 王子の顔色は青ざめていくが、イザベラ様の顔色はさらに血色がよくなった。

 すかさず、私が眼鏡を押し上げて補足する。


「……というわけです。我々に殿下を法的に拘束する権限はございません。……ですが、我が国を代表する公爵令嬢からの()()()()()による『文化交流』を止める権限もありません」

「なんだと……!?」

「これは公式な『おもてなし』です。もし、無下に断って帰れば我が国の筆頭公爵家、ひいては王家の顔に泥を塗ることになります。……外交問題になりますが、よろしいですか?」


 外交特権という盾を『貴族の義務』という矛で貫く。

 大人しく金を払うか、イザベラ様の終わらない説教と地獄のマナー矯正を朝まで受け続けるか。


「さあ、チャラ男王子。改め、フレデリック殿下! 背筋を伸ばして! まずは『ワルツにおける指先の美学』について、実技を含めて8時間ほど行いますわよ!」

「ひっ……!?」


 イザベラ様が指揮棒を構えるのを見て、王子の心は折れた。

 この令嬢と朝まで一緒になどいれば、スパイとしての自我どころか、人としての尊厳まで崩壊してしまう。

 そう思ったのだろう。


「払う! 払うよ!! サインでも何でもするから、その棒をしまってくれぇぇぇ!!」

「サインは後で結構ですわ。まずは姿勢。口より体を動かしなさい!」

「ひ、ひいぃぃぃ……!?」


 ◇


 翌朝。

 王立学園の正門前には、荷物をまとめたフレデリック王子の姿があった。

 昨日までのキラキラしたオーラは完全に消え失せ、やつれ果てた顔をしている。

 懐は空っぽ、プライドはズタズタ。

 そして何より、馬車に積み込まれた荷物の量が異常だった。

 馬車の荷台が傾いている。


「何だ、これは……? お、重すぎる……」

「お忘れ物ですよ、殿下」


 私が見送りに立つと、王子が青い顔で荷物を指差した。


「リリアナちゃん……頼む、この『アルバム』だけは置いていかせてくれないかな? 石板でできているのか、馬車の車軸が折れそうなんだよ……」


 彼の荷物の大半を占めているのは、イザベラ様が友情の証として押し付けた(強制購入させた)特製ポートレート集『美の系譜』だ。

 後世まで残るようにと、表紙は大理石で作られている特別仕様である。


「お断りします。それには『友好の証』として、王家の認印が押されていますから、捨てたり置いていったりすれば、その時点で『条約破棄』とみなされますので、気を付けてください」

「そんな……!? お、覚えてろよ! いつか必ず、この借りは……!」


 フレデリック王子が捨て台詞を吐こうとしたその時。


「あら、もう帰国なさるの?」


 背後から日差しよりも眩しい真紅のドレスが現れた。

 イザベラ様だ。


「残念だわ。せっかく『続・王族の心得(応用編)』のカリキュラムを組んでまいりましたのに」


 イザベラ様の手には、昨夜とはまた違う真っ赤な指揮棒と、分厚い教本が握られていた。


「ひ、ひいぃっ!? 出せ! 早く! この国は魔境だぁぁぁ!!」


 フレデリック王子は悲鳴を上げながら馬車に飛び乗る。

 御者が鞭を入れると、馬車は「ギギギ……」と重そうな悲鳴(大理石の重み)を上げながら、傾いたまま走り去っていく。


 砂埃の向こうに消えていくスパイの背中は、物理的にも、精神的にも、あまりに重そうだった。


「安いものだったな、リリアナ」


 アレクセイ殿下が、私の手にある小切手を見て笑った。

 このお金は国庫と被害に遭った令嬢たちへの慰謝料。そして何より、私の特別ボーナスに分配される予定だ。


「はい。ですが少しだけ可哀想な気もします」

「どこがだ?」

「イザベラ様の写真集です。あれだけの量は処分に困るでしょうね……」

「違いない……」


 私たちは顔を見合わせ、静かに合掌した。

 だが、感傷に浸る時間は短かった。

 殿下が元凶であるイザベラ様に向き直り、声をかけたからだ。


「大儀であった、イザベラ。礼を言うぞ」

「え?」

「お前のその『妥協なき美への執着』が、我が国の機密を守ったのだ。あのスパイを退けたのは間違いなくお前の功績だ」


 それは殿下なりの最大限の賛辞だった。

 毒を以て毒を制す。イザベラ様の暴走を計算に入れた上での作戦だったとはいえ、結果を出したことへの正当な評価。

 だが、イザベラ・フォン・ローゼンバーグという傑物は、それを斜め上に受け取る。


「まあ……!」


 イザベラ様が感激したように両手で口元を覆う。

 その瞳がキラキラと、いや、ギラギラと輝き始めた。


「分かりますわ! あの軟弱なチャラ男では、私の情熱の炎を受け止めきれず、灰になってしまいましたもの! 私の高尚な美学を理解し、受け止められるのは……」


 バサァッ!

 風も吹かない中、真紅のトレーンが意思を持ったように背後で翻る。

 それは燃え盛る不死鳥の翼となり、王城の門前に展開された。

 朝日に照らされ、物理的な熱気すら感じるほどの圧倒的な迫力。その中心で、イザベラ様はうっとりと熱っぽい眼差しで殿下を見つめ、自らの世界に入り込む。


「やはり殿下しかおりませんわ! この溢れんばかりの情熱を受け止め、共に美の頂点へと羽ばたくことのできるお方は!」


 イザベラ様は両手を合わせ、祈るように、夢見るように宣言した。


「リリアナ……」


 殿下の声は奇妙なほど平坦だった。

 目の前で物理的に展開した巨大な炎の翼と、陶酔しきったイザベラ様を見て、完全にフリーズしていた。

 どうやら殿下の冷徹な頭脳をもってしても、この現象を言語化できないらしい。


「……これは、どういう文脈だ? 私はただ労いの言葉をかけただけのはずだが……なぜイザベラは発光し、翼を広げ、求愛の詩を吟じているのだ? 何かの暗号か?」

「申し訳ありません、殿下」


 私はすっと視線を逸らし、遠い空を見上げた。

 今日はいい天気だ。朝の日差しが目に沁みる。


「これより『代休』に入らせていただきます」

「待て。考えるのをやめたな? 職務放棄だぞ、リリアナ!」

「さあ殿下、参りますわよ! まずは愛のデュエットから! 朝練開始ですわ!」


 イザベラ様が燃え盛る翼を広げたまま、殿下に詰め寄り、腕を組んで連れ去る。


「あとは、お二人だけでごゆっくりどうぞ」


 私は二人の背中を見送りながら小さく呟いた。

 殿下は連れ去られながらも振り返り、声を張り上げる。


「リリ……う、裏切りおったな……!」

「殿下! よそ見は禁止ですわよ! さあ、二人っきりのレッスンですわ! オーホッホッ!」


 うっとりしたまま次期国王を連れ去る真紅の不死鳥と、理解が追いつかず、連れ去られる次期国王。

 その光景は、平和な王国の日常そのものだ。


 私は手帳を取り出し、今日のページの最後にそっと書き加える。

 『任務完了。ボーナス獲得。弟たちの学費を確保』と。


 ペン先を止めると、私は現実から目を逸らす。


「はぁ……温泉行こ」

ここまで、お読みいただきありがとうございます!

これにて第二章が終わり、次話から第三章に入ります。

連載を始めて十日が過ぎ、早くもPV40万以上!

総合評価、18000ポイント以上!

ブックマーク、4000名以上!

[週間]異世界〔恋愛〕 - 3位

[週間]総合 - 連載中  - 5位

[月間]異世界〔恋愛〕 - 3位

[月間]総合 - 連載中  - 6位

皆さま。高評価、本当にありがとうございます!!

さらに誤字脱字報告や、ご感想も100件近くいただきまして、ありがとうございます!


是非ブックマークと、↓【★★★★★】の評価をお恵みくださいませ

今後も、よろしくお願いいたします(//∇//)ノ

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― 新着の感想 ―
強つよ不死鳥最高!! この王国の未来は明るいね 最恐、いや最強だわ まだまだトリニティの活躍見たい 愉しみに待ってます
空が青いなぁ…… あっ!鳥が飛んでる ん?何かいわれたかな?気のせい気のせい……
今日も更新ありがとうございます!! 学校が始まってとても憂鬱でしたがこの作品のおかげで学校に対する悲しみが吹き飛びました。もはや私の生命線に作品自体も最推しのイザベラ様までなってしまいました。 イザベ…
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