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【連載版】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました  作者: 上下サユウ
第二章

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第十九話 王室派遣・留学生指導官

 王宮、王太子執務室。


 積み上げられた書類の山を前に、私はふと数日前まで滞在していた雪山を思い出していた。

 今朝届いたクルトさんからの手紙によれば、入れ違いで到着した『新しい取り巻き(L〜U)』たちは、現場に到着するなり、すぐさま投入されたらしい。

 私の作ったマニュアルとイザベラ様の謎のメモを片手に、鬼となったクルトさんの指示の下、泣きながらも懸命に頑張っているそうだ。

 ……強く生きてほしい。


 一方、イザベラ様はといえば、王都に着くなり『美容のためにエステに行くわ!』と嵐のように去っていった。

 私の代休(仕事)も終わり、こうして激務の日常が戻ってきたわけだが。


「手が止まっているぞ、リリアナ」


 向かいの席から、アレクセイ殿下の声が飛んできた。


「失礼しました。雪山の空気を思い出しておりました」

「もう終わったことだ。切り替えろ。そういえば来週には、ガラント王国から留学生が来るのだったな」

「はい。第二王子フレデリック殿下です」


 私は手帳を開き、スケジュールを確認する。

 すでに外務省との調整は済んでいるが、殿下の表情はどこか優れない。


「名目は『我が国の教育制度の視察』及び『短期留学』となっているが」

「何か、裏があるのです?」

「ああ、あいつはかなりの『女好き』で有名らしい。本国でも数々の浮名を流し、婚約破棄騒動まで起こしかけたとか。実質的な『国外追放』に近い休暇だろう」

「……それはまた、厄介な方が来ますね」

「そこでだ」


 殿下はニヤリと楽しげに私を見た。

 ……嫌な予感がする。

 背筋に寒気が走った。


「奴が視察のために『学園』へ通う一ヶ月間、学園の女子生徒を守るための監視役が必要だ」

「まさか……」

「期待しているぞ、リリアナ。お前を『王室派遣・留学生生活指導担当官』として学園へ送り込む」

「指導官ですか……?」

「そうだ。生徒としてではなく、教職員側の立場で奴を監視しろ。お前のその鉄壁の『事務的塩対応』で、チャラ男王子を更生させてやれ」


 やはりか……卒業して、ようやく解放されたと思った学園に、まさか『指導官(先生役)』として戻ることになるとは。

 私の平穏な日々は、いつになったら来るのか。


「承知いたしました。特別メニューでお迎えして差し上げます」


 私は新しいファイルを取り出し、『対チャラ男王子撃退マニュアル』と表紙に書き込んだ。


 ◇


 数日後。王立学園正門前。

 その男が現れた瞬間、無数のバラの花びらが、どこからともなく舞い散る。

 黄色い悲鳴を上げる女子生徒たちの間を縫って、彼は颯爽と馬車から降り立った。


「やあ、子猫ちゃんたち。今日も太陽が眩しいけれど、君たちの笑顔ほどじゃないね」


 蜂蜜色の巻き毛、甘いマスク、そして着崩した制服。

 隣国ガラント王国の第二王子、フレデリック・ド・ガラント。

 通称『歩くフェロモン散布機』である。


 学園の歓迎式典の最前列で、私は頭痛を堪えながら、隣のアレクセイ殿下に小声で報告する。


「殿下、前情報通りですね。到着からわずか3分で、すでに5人の令嬢と連絡先(手紙の送り先)を交換しています」

「ふん、発情期の猿め。神聖な学び舎を婚活パーティー会場と勘違いしているらしいな」


 アレクセイ殿下は汚いものを見る目でフレデリック王子を睨んだ。

 今回、フレデリック王子は『短期留学』という名目で我が国に来ている。だが、その真の目的が「自国の婚約者候補たちから逃げ出し、異国で羽根を伸ばすため」であることは、事前の諜報活動で把握済みだ。


「リリアナ、作戦通りに頼むぞ」

「承知いたしました。気が重いですが、仕方ありません」


 私は眼鏡の位置を直し、バインダー(角が鋭利な特注品)を抱え直した。

 今回の私の役職は、『王太子補佐官』兼『留学生生活指導担当官』。


 要するに、このチャラ男のお守り役である。


 ◇


 式典終了後、サロンにて。

 フレデリック王子は、早速ソファでくつろぎながら、学園の令嬢たちにウィンクを飛ばしていた。


「フレデリック殿下、今後のスケジュールについてご説明があります」


 私が事務的に声をかけると、彼はゆっくりとこちらを向いた。

 その瞳が、私を上から下まで値踏みするように舐め回す。


「おや? 君は……アレクセイ殿下の秘書官だっけ? 名前は?」

「リリアナ・フォレストです。まず本日の講義ですが……」

「リリアナちゃん、か。堅苦しい話は無しにしようよ」


 フレデリック王子が立ち上がり、滑らかな動きで私に接近してきた。

 そして――ドンッ!

 私の背後の壁に手をつき、顔を近付けてきた。

 いわゆる『壁ドン』だ。


「その眼鏡は外した方が可愛いと思うな。ねえ、講義なんてサボってさ、僕と街へ繰り出さないかい? 君に似合うドレスを買ってあげるよ」


 甘い吐息がかかる距離。

 普通の令嬢なら顔を赤らめるところだろう。

 だが、私の脳内で作動したのは『ときめき回路』ではなく、『労働災害防止マニュアル』だった。

 私は懐から分度器を取り出し、彼の腕と壁の角度を計測する。


「肘の角度120度、壁への加圧推定150ニュートン。殿下、その体勢は肩関節への負担が大きく、また壁紙を汚損するリスクがあります。直ちに中止してください」

「は?」


 王子の笑顔が凍りついた。


「それに、今の発言は『セクシャル・ハラスメント防止条例』第3条『業務中の不必要な身体的接触、及び容姿への言及』に抵触します。記録しましたので、後ほどガラント王国大使館へ抗議文を送付させていただきます」


 私は手帳にサラサラとメモを取った。


「な、なんだ君は……? 僕の魅力に動じないのか?」

「魅力? いえ、今の私には『業務進行の障害物』にしか見えませんが」


 私は眼鏡をクイッと押し上げる。


「殿下、貴方様がどれだけ多くの女性を虜にしようと構いませんが、私の業務時間を奪うのだけは勘弁してください。時は金なり。私の時給は高いですよ?」


 フレデリック王子はポカンと口を開け、それから面白そうに口角を上げた。


「へえ……面白いね、君。僕になびかない女は初めてだ」


 嫌なフラグが立った気がした。

 彼は私の手を取り、甲にキスを落とした。


「決めたよ。僕の留学中の目標は、君のその鉄仮面を剥がして、トロトロの笑顔にさせることにするよ」

(うわっ、面倒くさ)


 私は即座にハンカチで手の甲を拭いた。

 消毒用アルコールも持ってくるべきだった。

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― 新着の感想 ―
そんな脳ミソ下半身の王子を留学させるなよ……
うーん、へし折りたい、この鼻っ柱。 とりあえずイザベラには会わさない方がよさそうか? こんなキザ野郎に1mgもなびく姿は想像つかんけど。むしろ心身共にフルボッコにしそうな感しかしない。 そしてそれが国…
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