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【連載版】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました  作者: 上下サユウ
第二章

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第十五話 白銀の宝石と雪原に佇む白孔雀

「で、出ましたわぁぁぁ!」


 イザベラ様が絶叫し、私に抱きつく。

 確かに、男湯の境目にある岩壁の辺りから奇妙な音が響いている。


「おい、リリアナ。聞こえるか?」


 壁の向こうから、幽霊よりも恐ろしい冷静な殿下の声が聞こえた。


「殿下、ご無事ですか!? まさか、そちらに幽霊が……?」

「そんなわけないだろう。いや、先ほど背中に何か……そんなことより、これはただの『物理現象』だ。岩壁の隙間を見てみろ」


 私はイザベラ様を引きずりながら、岩壁に近付く。

 そこには直径10センチほどの穴が開いており、そこから湯気が勢いよく噴き出していた。


「これは……蒸気の逃げ道ですね」

「ああ、地下の蒸気が岩の隙間を抜けるたびに笛のような甲高い音が鳴る。夜は冷え込み、湯気が白く見える。それが人魂のように見えたのだろう」

「ただの蒸気だったってことね……」


 安心したのか、イザベラ様が急に強気になる。

 

「もう、人騒がせな温泉ね! でも、これなら解決策は簡単ね」

「はい。この穴を塞ぐか、逆に『歌う温泉』として売り出すかですね」

「リリアナ、お前ならどうする?」


 壁越しに殿下が問う。

 私は眼鏡(入浴中もかけている)が曇るのを拭いながら答える。


「そうですね……私ならこの蒸気を使って『温泉蒸し料理』の名物を作ります。音が出るタイミングに合わせて蒸し上がりの合図にするんです。『地獄蒸しプリン』なんていかがですか?」

「プリンだけじゃないわ! 温泉卵も絶対に必要よ!」

「いいですね。ですが『地獄蒸し』では少々おどろおどろしいでしょうか。もっと女性客に響く名前が必要ですね」

「なら『天使のたまご』なんてどうかしら? 私が宣伝するんだから可愛くないとダメよ」

「却下だ。甘すぎる」

「そ、そうですか……でしたら『アルビノのたまご』はいかが!? 私の高貴な白さをイメージして!」


 イザベラ様が「これなら文句ないわよね!」とばかりに胸を張る。

 しかし殿下は即座に却下する。


「何だ、それは? この温泉郷の名は『白銀』だ。雪景色と湯気をイメージしろ。『白銀の宝石』はどうだ? 高級感が出るぞ」

「あ、それ採用です。さすが殿下、ボッタク……いえ、高付加価値を付けるのがお上手で」

「ん? よく聞こえなかったが、今なんと言おうとした?」


 殿下のツッコミを、私は湯の音で掻き消すようにスルーした。

 『白銀の宝石』。いい響きだ。それだけで単価を3割は上げられる。


「殿下! もう一つ、私のアイデアを聞いてくださる!?」


 イザベラ様が「思いつきましたわ!」とでも言いたげに叫んだ。


「このお湯は美肌効果がすごいですわ! これをボトルに詰めて『公爵令嬢愛用・奇跡の美容水』として売り出すなんていかが!? もちろんパッケージデザインは、私が監修しますわよ!」

「……ふむ。イザベラの知名度を利用するのは悪くない手だ。それも採用してやる」


 岩壁を隔てて行われた即席の経営会議。

 殿下が当然のように采配を振るっている。

 ――あの、ここ私の温泉地なんですが?

 そんな疑問を抱きつつ、星空の下、湯けむりの中で仕事の話になったが、不思議と疲れは感じなかった。


 ◇


 風呂上がり。

 ピカピカになったロビーで、私たちは途中に立ち寄った麓の村で仕入れておいた『地元の特濃牛乳』で乾杯した。馬車に備え付けの『魔導冷蔵庫』のおかげで、キンキンに冷えている。


「ぷはーっ! 最高ね!」


 イザベラ様が腰に手を当てて牛乳を一気飲みする。

 湯上がり姿は色っぽいが中身はおっさんだ。

 アレクセイ殿下も髪を濡らしたまま満足げに瓶を置いた。


「リリアナ、この宿の再建計画だが、俺が一口乗ることにした」

「え?(乗ってもいいか? ではなく?)」

「お前の個人資産だけではリフォーム費用が足りないだろう? 王家からの『投資』という形で資金を出す。その代わり利益の4割は貰うぞ」

「……3割でお願いします(急に!?)」

「3.5割だ。これ以上は譲らん」

「交渉成立です(仕方ない)」


 殿下はいつだって容赦ないが、こちらにも譲れない事情がある。修繕費、当面の運転資金、仕入れ……温泉宿は湯さえ出れば回るほど甘い商売ではない。とはいえ、ここで揉めて決裂すれば資金繰りは即死する。

 まあ色々と思うことはあるが、資金繰りの問題は解決した。


 私はひとまず胸を撫で下ろした。

 そこへ、イザベラ様が割って入る。


「勝手に話を進めないでくださる! 私も仲間に入れなさい! 宣伝部長は、この私よ!」

「ああ、はい。イザベラ様には『特別広報大使』の肩書きと、専用のVIPルーム使用権を差し上げます」

「悪くないわ! そうと決まれば善は急げね! 明日の朝一番で宣伝用の写真を撮るわよ! そのために今すぐ特製パックをして、お肌を最高の状態に仕上げなきゃ! お先に失礼するわ!」


 イザベラ様は嵐のように騒いだかと思うと、客室へと駆け去っていった。

 相変わらずの行動力だ。

 ロビーには私と殿下と虫の声だけが残される。


「リリアナ」

 

 ふいに、殿下が低い声で私を呼んだ。


「はい」

「俺たちは多忙だ。いつまでもここで大工仕事の監督をしている暇はない。分かるな?」

「もちろんです。私たちが去った後、現場を指揮する者が必要ということですね?」

「そうだ。明日の最重要課題は、俺たちの手足となって動く『現地の支配人(番頭)』の確保だ。工事の指揮から経営まで、全て丸投げできる優秀な奴を見つけ出せ」


 殿下は試すように片眉を上げ、ニヤリと不敵に笑う。


「お前の人を見る目は信頼している。俺の代理が務まるような、タフな人材を期待しているぞ」

「承知しました」


 上司からの難題だが望むところである。

 可哀想な生贄……ではなく、必ず逸材を見つけてみせる。

 私の『温泉慰安旅行』初日は、『温泉宿共同経営プロジェクト』へと姿を変えた。

 窓の外に広がる満天の星空を見上げながら、明日の『村人スカウト計画』について思いを巡らせるのだった。


 ◇


 翌朝。

 温泉地は見事な快晴に恵まれた。

 昨夜の幽霊騒ぎ(蒸気噴出)が嘘のように、雪化粧をした山々が朝日に照らされる。

 絶景だ。これを売りにしない手はない。


「リリアナ! もっと光を! レフ板の角度が甘いわよ!」


 ……まあ、その絶景の前で、謎のポーズを決める公爵令嬢がいなければの話だが。


「はいはい、もっと顎を引いてください。そうです、その『私が世界で一番美しい』という不遜な表情が最高です」

「失礼ね! 『慈愛に満ちた女神』と言いなさい!」


 私は朝食もそこそこに、イザベラ様の専属カメラマン(魔導写し絵機係)としてこき使われていた。

 つい先ほどまでは『雪原に佇む一羽の白孔雀アルビノ』というテーマで優雅に撮影していたのだが、今の彼女は違う。

 バスタオル一枚で雪の中に立つ公爵令嬢。

 普通なら凍死案件だが、彼女の体内からは常に熱いパッションが放出されているため、寒さは感じないらしい。

 パシャリ、パシャリと数枚撮影し、私は頷く。


「終わりました。素材は十分集まりましたので、これより『村人スカウト作戦』を開始します」

「ふぅ、ようやくね。私の美しさがフィルムに収まりきったか不安だけど」


 イザベラ様が優雅に髪を払う。

 そこへ周辺地形調査から戻ったアレクセイ殿下が合流した。


「リリアナ、準備はいいな。午前中までにケリをつけるぞ」

「はい。目星はつけてあります」


 私が答えると同時に、アレクセイ殿下の視線が、「このほうがよかったかしら?」とポーズを決めているイザベラ様に向けられた。

 バスタオル一枚。

 露わになった白い肌。

 本来なら目のやり場に困るか、あるいは鼻の下を伸ばす場面だ。

 イザベラ様もそれを期待してか、バサァッと無駄にタオルを孔雀のようにはためかせ、流し目を殿下へ送る。


「あら、殿下。お戻りでしたの? 撮影は今しがた終わりましたのよ。残念ですわ。私の輝くような美肌をもっとお見せして差し上げたかったので――」

「おい、イザベラ」


 殿下は、氷点下の雪原よりも冷たい声で遮った。


「なんでしょうか、殿下?」

「二の腕に鳥肌が立っているぞ」

「えっ?」

「アップで見れば修正が必要なレベルだ。商品価値が下がる」

「鳥肌ですって!? こ、これは武者震いですわ!」

「どうでもいい。リリアナ、その『鳥肌の立った肉』を直ちに収納しろ。風邪でダウンされて作戦に支障が出ても迷惑だ」


 殿下はそれだけ言い捨てると、踵を返した。

 凍りつくような空気。

 だが、殿下の背中が見えなくなった瞬間、イザベラ様はうっとりと頬を染めて身悶えた。


「ねえ聞いた、リリアナ? 『直ちに収納しろ』ですって!」

「は、はい。早く服を着させろという意味ですね」

「違うわ! 『俺以外の男に、その美しい肌をこれ以上見せるな』って嫉妬したのよ! なんて情熱的な独占欲かしら!」

「……(すごい翻訳力だ)」


 イザベラ様は「キャー!」と叫び、雪原にダイブせんばかりの勢いで喜びを表現した。


「はいはい、凍死されると困りますので。着替えますよ、イザベラ様」


 しばらくして馬車で雪道を下り、昨日牛乳を購入した麓の小さな寒村――『コルカ村』へと向かった。

三が日も最後ということで、三本目を21時に投稿します

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― 新着の感想 ―
イザベラが、イザベラが腹筋に悪いwww
もうイザベラ様のファンです 孔雀が羽を広げるのを更新のたびに今か今かとお待ち申し上げております 今回はバスタオルがひるがえった!!! 常に想像の斜め上をカッ飛んで行くイザベラ様!! 2…
公爵令嬢がバスタオル姿を見せびらかすのかよ
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