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⑤誰もいない



 薄っすらと、光が見えた。



 目の前には、埃臭い畳。


 どうやら俺は、うつ伏せのまま気絶していたようだ。



 意識が完全に戻ると、半身を起こす。


 多少、頭がズキズキするが、怪我は無さそうだ。



 いやしかし、それにしてもあの爆発音は何だったんだ? 


 そして、さっき見た夢も気になる。



 そう言えば、子供の頃から俺は、この夢をよく見ていた。


 女性の背後には、必ず十字架がある。


 あれは一体……。




 ……パラパラ。


 天井から木屑が落ちてくると、俺は我に返った。



 いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。


 息を整え、ゆっくりと立ち上がった。



 さて、これはもう撮影どころではないだろう。


 きっと何かの事故か、災害だ。


 まさか俺一人のために、これほど手の込んだドッキリをやるわけがない。



 俺はゆっくりと、本堂の扉を開けてみた。


「……あれ?」




 そこには、誰もいなかった。


 あれほど、沢山の芸人やスタッフ達がいたのに、今は人っ子一人いないのだ。


 気絶していたとはいえ、あの爆発音から、さほど時間は経っていないと思うが。


 そもそも誰かが心配して、俺を見にくるはずだ。



 

 何だか気味が悪い。


 俺は、恐る恐る石段を降りてみた。


 すると本堂の両側の地面に、無数の穴が空いている事に気付いた。


 あの爆発音は、これだろう。



 もしかして、爆弾が落ちたのか? 


 いや、そんなわけない。


 では落雷か? 



 空を見上げると、雲は広がってきているが、雷が落ちるほど荒れてはいない。




 俺は、石段に脱いでいた靴を履くと、遠くの茂みに向かって呼びかけた。


 人が潜んでいるかもしれないと、思ったからだ。


「すいませーん、スタッフの方! 誰か、いませんかー?」



 ヒュウ。


 風の音だけが返事をする。



 俺は周辺を探索してみた。


 もしやと思い、入念に隠しカメラも探した。



 結局、それらしき物は何も見つからなかった。


 誰かと連絡を取りたいが、スマートフォンはスタッフに預けている。



 仕方なく、俺は来た道を戻る事にした。


 とにかく、ロケバスへと戻ろう。





 ◇ ◇ ◇





 嫌な予感が的中した。


 やはり、ロケバスの姿もなかった。



「何これ? マジで……」


 呆れと不安、それに怒りが混じった、どうしようもない気持ちになった。


 なんの嫌がらせだ? 


 溜息しか出ない。


 尿意に似た、焦りの様なものが、ジワジワと足元から登ってくる。



 俺は思わず、その場にしゃがみ込んだ。


 ああ、もう嫌だ、訳が分からない。


 どうすれば、いいんだろう。




 しばらく目を閉じ、うな垂れていると、背後から鼻にかかった男性の声がした。


「……にぃちゃん、どうした?」


 驚いて振り向くと、麦わら帽子を被った、色黒で小柄なおじさんが立っていた。



 運搬用の一輪車を両手で押しながら、目を丸くして俺を見ている。


 一輪車には、沢山の芋が乗っていた。


 この村の住民とみて、間違いないだろう。



「見ない顔だなぁ、よそから来たのか? どうした、大丈夫か? お金でも落としたのか? まさか野グソじゃないよな?」


 一方的に喋るおじさんに戸惑いつつも、俺は素直に、これまでの経緯を説明する事にした。



 こんな小さな村だ。


 きっとテレビが来ると聴いたら、村中で噂になっているだろう。


 ロケバスやスタッフについて、何か知っているかもしれない。



「すいません、テレビの収録で、東京から来ているんですけど、スタッフや共演者とか、見ませんでした? 二十人以上は、いるはずなんです」


 おじさんは首を捻った。


 表情は曇ったままだ。




 それにしても、この人、近くで見るとやたら鼻毛が飛び出している。


 もしテレビに出るのなら、モザイクが必要かもしれない。


 あまり見たくないので、俺は視線をずらした。



 やがて、おじさんは唇を尖らした困り顔で答えた。


「……いやぁ、知らんなぁ。だいたい、こんな山奥にテレビなんか来るのか?」


「……そうですか」


 俺は背中を丸めて、落胆した。



「にぃちゃん、仲間と逸れたのか? もうすぐ日が暮れるけど、どうするんだ? ワシの家に泊まっていくか?」


 意外な言葉が返ってきた。



 思わず掌を振った。


「いえいえ、それは悪いんで」


「でも、暗いなか探すのは大変だろ? 明日になって、仲間を探した方がいいんじゃないのか? 夜は真っ暗だし、冷えるぞ。蛇も出るし」



「蛇?」


 俺は顔を強張らせ、辺りを見回した。


 蛇が、大の苦手なのだ。


 子供の頃、木から降ってきた蛇が首に巻きついた、恐ろしい経験があるからだ。



 俺は、すっかり尻込みしてしまった。


 しばらく悩むフリをしたが、心の中は決まっていた。



「……すいません、それじゃあ一晩だけ、お邪魔してもよろしいですか?」


「ああ、いいよ。ついて来な」と、おじさんは黄色い歯を見せて笑った。



 なんて優しい人なんだろう。


 多少、鼻毛が気になるが、とても良い人だ。





つづく……

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