表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

④時空を超える神社



「皆さん、この村には、約百人ほどの方が住まわれているそうです。あ、第一村人を発見しました! おじいちゃんが、稲刈りに精を出してますよ! いやぁ、お元気ですねえ!」


 アナウンサーは、軽快に喋り続ける。


 そんな調子で歩いていると、彼がピタリと足を止めた。



 そこには、赤い小さな鳥居があった。


 高さは二メートルほどだ。


 その奥には、三メートル四方くらいの本堂もある。


 なんと、せせこましい神社だろうか。



「皆さん、この神社は凄いんですよ。この村では〈時空を超える神社〉と、呼ばれているそうです」


 アナウンサーの言葉に、芸人達は不意をつかれた。



 神社なんて話、台本にはなかったからだ。


 これは、アドリブ力を試されているのだろうか。


 芸人同士が、それとなく顔を見合わせた。



「……ええっ! な、なんですか、それ? タイムスリップって事ですか?」


 一人の芸人が、何とか食らいついた。


 少々、わざとらしい言い方ではあったが。



「そうなんです! 今から28年前の、1995年の事です。未来から、タイムスリップしてきた男が、この神社の本堂から現れた。そういう伝説があるんですよ、この村に! 本当ですよ!」


「そんな馬鹿なぁ」と、大袈裟に笑い出す芸人達。


 俺も同様に苦笑いを浮かべ、顔を左右に振る。



 すると、俺の隣にいた坊主頭の芸人が、目立とうと一歩前に躍り出た。


「はいはいはい! それじゃあ僕、今から1995年に、タイムスリップしてきます!」


 坊主頭は大胆にも、本堂の扉を開けて、中へと入って行く。


 俺は、他の芸人達と一緒に「何やってるんだよ、罰当たりな奴!」と、歩調を合わせて、野次りまくった。




 ほどなくして、坊主頭が飛び出してくる。


 目を白黒させて「ここは……1995年?」


 そう言うと、勢いよく拳を突き上げ「よーし、ポケベル持ったコギャルに会いに行くぞー!」と叫ぶ。


 当然「いねーよ!」と皆で坊主頭を、どつきまわした。



 バラエティ番組らしい、良い雰囲気だった。


 だが、ここで予期せぬ展開になった。



 大物芸人の一人が、俺を指差したのだ。


「君なら、タイムスリップ出来るんじゃないの? そんな顔してるよ」


 俺は虚をつかれ、気が動転した。



 思わず「えっ」と、声が出そうになったが、顔に不安の色を出さないよう務めた。


「いやあ……僕、どんな顔ですか! 出来るかなぁ?」と、頭をボリボリ掻いて、本堂の中へと入る。


 いや、入らざるを得ないのだ。


 目立つために今、この場所にいるのに「無理です」なんて、口が裂けても言えない。



 ……あぁ、しかし困った。


 俺は、三畳ほどの狭い本堂の中で考えた。


 腕組みをし、薄暗い天井を見つめる。



 さっきの坊主頭は、ポケベルにコギャルと言っていた。


 俺は何と言えば、いいのだろう。



 95年と言えば、震災や地下鉄での事件が有名だが……それでは笑いに出来ない。


 俺は車輪のように、頭をフル回転させた。



 95年に、大ヒットした曲を歌いながら出る……。


 そして、どつかれたら栗を出して「許してクリ!」これなんか、どうだろう?


 マロンマロンのギャグも、アピール出来る。


 もしかしたら、オンエアで使われるかも知れない。



 考えが、まとまった。


 一つ深い息を吐いて、出るタイミングをうかがった、その時——




 ドォォォン!




 鼓膜が破れそうなほどの激しい爆発音と共に、本堂が激しく揺れる。


 視界は一瞬にして、真っ暗になった。



 俺は身体のバランスを失い、柱に激突すると倒れ込んでしまった。


 打ち付けた側頭部の痛みに、脳が痺れる。


 遠くでキーンと、金属音のような耳鳴りも聴こえた。



 しばらくは、まるで深海にいるような気分だった。


 薄暗くて、息苦しい。



 ああ……瞼が重い。


 意識が……遠くなる……。



『翼……』


 誰かが、俺の名を呼んでいる。



 木漏れ日のような、温かい女性の声だ。


 そして、その声には、なぜか懐かしい響きを感じた。



 ふと女性の背後に、十字架の様な物が見えた。


 あれは何だろう?



『翼……』


 再度、俺を呼ぶ。


 逆光により、影になった彼女の顔は、はっきりと確認出来ない。



 だが、薄っすらと見えた口元には、笑みあった。


 それは優しく、全てを包み込むような、慈愛に満ちた微笑みだった。


 俺は、無意識に震える手を伸ばし、何かを呟いた。




「……母さん……」






つづく……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ