EPISODE4 〝縛〟
*登場人物
水守千景・・・ 高校2年生 / 無能力者
神崎朔弥・・・ 24歳 / 封師殿・異邦尋問官 / 火能者
渡辺朱里・・・ 24歳 / 無能力者
佐藤洸・・・ 異邦尋問官 / 責任者 / 全能者
重い扉が開いた。
冷たい夜の空気が頬を撫で
朱里が息をのむ気配がした。
朱里「……行ってきな」
彼女が小さくつぶやいた。
私は足を床から離せずにいた。
けれど背後からの声が容赦なく促す。
朔弥「早く来い」
足元に重さを感じながら私は廊下へ出た。
鉄のドアが背後で閉まり
乾いた音がこの場所の冷たさを際立たせる。
彼が無言で歩き出す。
私はその少し後ろをついていった。
白い廊下に靴音が二つだけ響く。
曲がり角をいくつも抜け
やがて重い扉の前で彼が立ち止まった。
朔弥「……入れ。」
私は喉が渇くのを感じながら
ゆっくりとその扉を押した。
そこは白い照明だけが強すぎるほどの部屋だった。
壁際には機械のようなものが並び
中央には鉄製の椅子がひとつだけ置かれている。
朔弥「座れ。」
彼の声は低いが、家に来ていた尋問官とは違う。
命令というより、ただの事務的な言葉。
私は震える膝で椅子に腰を下ろした。
朔弥「……力を見せてみろ。」
千景「……ありません。」
朔弥「……水守家。お前の家系は水能力の使い手だな
…ならこの火を消してみろ。」
彼がスイッチを押すと
椅子の周りに淡い炎が灯った。
千景「……っ!! やめてください…!!
本当に能力は無いんです…だからここに来ました!!」
炎だけが、私の無力さを映し出す。
彼はしばらく黙って様子を見ていたが
やがて小さくため息をつき、炎を消した。
朔弥「……」
その横顔にはほんのわずかだけ
悲しそうな影が見えた。
朔弥「……歳は?」
千景「……えっ??」
朔弥「何歳??」
千景「…16ですけど。」
朔弥「……高校生か。」
千景「………あなたは??」
朔弥「…黙れ。自己発言は慎め。」
…理不尽だ。
でも何故かこの人に
…他の尋問官とは違う何かを感じた。
朔弥「…先に言っておく。
お前達のような存在は
ここでは自由なんてものはない…。」
千景「…」
朔弥「死にたく無ければ言う事を聞くんだ」
千景「…本当に…もう家には帰れないんですか」
朔弥「…そうだ。」
千景「…家族にも会えないの??」
朔弥「…そうだ。」
千景「…どうして」
朔弥「…」
千景「…悪い事しましたか??」
朔弥「…」
佐藤「…いいえ??悪い事は一切してないですよ??」
部屋のドアが開きその人は言った。
確か…家に来てた人。
佐藤「あなたは悪い事なんて一切してません」
千景「…じゃあ!!」
佐藤「存在が悪なのです。」
千景「…えっ??」
朔弥「…」
佐藤「あなた達のような無能力者が居るから
この世界は上手く回らないのです。
全員が異能を使えれば…世界はもっと良くなる。
そう思いませんか??」
千景「…」
佐藤「この施設は"希望を与える場所"なのです。
無能力者を集める事で異能を使う事ができる
普通の人達が生きやすくなる。
その為には多少の犠牲は必要です。」
千景「…犠牲って」
佐藤「それに異能を使えないあなた方が
普通の人達と暮らして何になるのですか??
一緒にいて…一緒に暮らして。
自分には備わっていない力を備えた人達と暮らして
絶望感を感じませんか??」
千景「…それは」
佐藤「あなた方にとっても
ここにいた方が幸せになれると思いますよ??」
朔弥「…」
千景「…」
悔しいけどその通りだった。
今まで家族と一緒に暮らしてきて
普通に学校も通って普通の暮らしを送ってきた。
けれど周りは異能者ばかりで。
その現実から目を逸らしバレないように必死に生きて
家族にも迷惑をかけて。
それでも一緒にいれることに幸せを感じていたけれど
その人生に満足をしていたかと
問われるときっとそうではなくて。
だから家を出た時に家族に向けて言った言葉。
" 自由に生きてね " は心の底からの言葉だった。
佐藤「水守千景。」
千景「…はい」
佐藤「あなたを正式に無能力者として認定する
それに伴い16年間、異邦者として外の世界で生き
人々を騙していた事実の反省として
48時間全ての人間としての動きを禁じる。
この気をきっかけに生まれ変わりなさい。」
千景「…」
佐藤「この子の担当尋問官は
神崎くん、君に任命しよう。」
そういうと佐藤という人は
彼の耳元で何かを囁いた。
佐藤「…いいですか??
情けなんてものは全て捨てなさい。
子供だからといって容赦はいりません。
こいつらは現代に潜む悪なのです。」
朔弥「…悪。」
佐藤「…では私はこれで。
失礼しました。」
重たいドアが閉まると同時に
冷気が流れ込んでくるのを感じた。